東京科学大学の炎上について思うこと――不合格者にこそ聞いてほしい
東京科学大学(旧東工大)の女子枠入試をめぐる炎上が続いている。一般枠と女子枠の合格最低点に大きな開きがあるとする個人成績開示がXで拡散され、不合格者や受験関係者から「逆差別だ」「訴訟を起こすべきだ」という声が噴出している。
女子枠の合格基準に問題があるとすれば、その不公正さへの怒りは正当だ。4点差で落ちた受験生が感じる理不尽は、本物だと思う。
だが、私はその怒りをXにぶつけたり、訴訟に参加したりしている人たちに、一度だけ冷静に考えてほしいことがある。
あなたの次の試験まで、時間はどれだけ残っていますか?
訴訟で3年後に何が残るか
学生団体が訴訟相談を呼びかけ、米国最高裁の判例まで引き合いに出している。制度の問題を記録に残す意義は理解する。だが現実的に考えると、訴訟が和解に至るまでに3年はかかる。
その3年間、あなたは何をしているだろうか。
仮面浪人中なら授業がある。浪人中なら次の入試まで10ヶ月を切っている。炎上に費やした1時間は、そのまま受験勉強から引いた1時間だ。感情を消費することに使ったリソースは、実力を磨くことには使えない。
訴訟に参加している間にも、時計は止まらない。
本当に聞きたいのは、これだ
差別はあった。それは事実として受け止めてよい。だが、そのことであなたの人生が終わったわけではない。むしろこれからが始まりだ。
その前に、一つだけ問いたい。
東京科学大学は、本当にあなたが行きたかった大学でしたか?
偏差値という数字だけで選んでいませんでしたか?
偏差値の高い大学=優れた教育、という思い込み
私自身、かつて技術補佐員として東工大に1年間いた経験がある。内側から見ると、ブランドと実態の間には、外から見るよりも複雑なものがある。
改めて東京科学大学を多面的に評価してみると、いくつかの事実が浮かぶ。
博士前期課程の講義は英語で行われているものが多い。日本人教員が、日本人学生に、英語で講義をする。国際化の名目だが、母語による思考の深化という観点からはどう評価すべきだろうか。複雑な概念を扱うとき、人は母語で考える。英語で受け、英語でノートを取り、英語で議論する過程で、思考の解像度が下がる可能性はないだろうか。
また、大学統合のプロセスについて公的に報じられた経緯がある。東工大・医科歯科大・一橋大の三者で進められていた統合協議において、一橋大学は新聞報道によって初めて東工大と医科歯科大の合併を知ったとされる。大学の運営判断を担う人たちの意思決定の透明性について、受験生が知っておいてよい情報だと思う。
卓越大学への選定も、財政的なメリットがある一方で、制度的な縛りが伴う。その皺寄せが学生に及ぶ構造は、入学前に確認しておく価値がある。
これらの情報は、すべて公的に確認できる。調べようとした人には届いていた情報だ。
院試には女子枠がない
一つ、具体的な話をする。
学部入試に女子枠があるとしても、大学院入試の公式情報では女子枠は今のところ確認できない。つまり、別の大学の学部から院試で東京科学大に入ることは可能だ。学部の4年間で実力を磨けば、入学の機会は残されている。
学部入試で縁がなかったことを「終わり」だと思う必要はない。
むしろ、これを機に問い直してほしい。やりたい研究は、本当に東京科学大学でしかできないのか。優れた指導教員は、偏差値の高い大学だけにいるのか。
学歴フィルターを当てにしない生き方
学歴フィルターが存在することは事実だ。だが、それが唯一の通路ではない。
国家総合職を目指す道もある。士業の資格を取る道もある。インターンシップで実績を積んで潜り込む手もある。あるいは、雇われるのではなく起業して、誰と組むかを自分で決める道もある。
やりたいことを中心に据えて、偏差値と関係なく大学を選ぶ人が増えれば、学歴フィルターの機能は徐々に形骸化していく。制度に抗議するより、制度を無力化する選択の方が、長期的には建設的だと思う。
前を向くとはどういうことか
炎上に参加している間も、次の試験までの時間は減り続けている。
感情を消費することに使うリソースは有限だ。怒りのエネルギーがあるなら、それを次の準備に使ってほしい。差別があったことは変えられない。だが、そこから何をするかは、自分で決められる。
4年、あるいは9年かけて自分を磨けばいい。
縁がなかったことを嘆くよりも、その縁がなかった理由を冷静に見つめ、次の一手を考える時間に使ってほしい。
それが、最も確実な前進だと思う。
大橋淳史|愛媛大学
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いつもより,少しだけ科学について考えて『白衣=科学』のステレオタイプを変えましょう。科学はあなたの身近にありますよ。
本サイトは,愛媛大学教育学部理科教育専攻の大橋淳史が運営者として,科学教育などについての話題を提供します。博士(理学)/准教授/科学教育

う〜ん。制度批判の話を抜きにした人生論であることは分かるのですが、それはそれとして、「東京科学大学は、本当にあなたが行きたかった大学でしたか?」っていう問いが気になりますね。これ、本当に偏差値しか見ていなかったような学生には刺さるかもしれませんが、オープンキャンパス等で大学自体に…
丁寧に読んでいただいた上でのご指摘、ありがとうございます。 おっしゃる通りで、オープンキャンパスで大学自体に魅力を感じていた人、偏差値だけでなく研究内容や環境で選んだ人には、あの問いは刺さらないし、刺さる必要もありません。最初から対象外です。 偏差値という一点だけで選んでいた人に…
この先の長い人生がある人らに向けての「一度だけ」冷静にという大橋さんの思いも、頭に血がのぼった外野には理解できないようですが、当事者たちはそのような外野の代理戦争期待の声に左右されず、自身の未来での後悔がないよう訴訟するしないを決めることができればいいですね。
ありがとうございます。おっしゃる通りで、当事者が自分の頭で考えて、自分の人生への責任を持って決める、それだけのことです。外野が代理戦争を期待して煽る声に乗る必要はない、というのも記事で伝えたかったことの一つでした。
これ誰が書いてるのかと思えば大学准教授が書いてるのか。。。唖然とした 自身は高い地位についておきながら若い世代には差別を受けても泣き寝入りしろ、騒ぐなと 本当に情けない
煽りではなくお伺いしたいのですが、この内容を書いていておかしいなとか思わなかったのでしょうか。 端的に要約すれば「不利益を被った原因が差別であってもどうにもならない。別のことを考えなさい」ということですよね? この理屈、「差別の存続」を肯定する非常に危険な理屈ですよ。どんな差別に…
ご丁寧にお伺いいただきありがとうございます。 ただ一点だけ、読み違いがあると思います。私が書いたのは「差別はどうにもならないから諦めろ」ではありません。「不公正な制度がある場所を避けて、自分の人生を前に進めながら、制度を変える戦いは並行してやればいい」という話です。 医学部の女性…