病院で殺されないために知っておくべきこと「検査」のウソ——病人はこうして作られる大研究【第2部】本当はここまでなら大丈夫医師が自分で使っている「正常値」

「この30年間、私は健康診断を一度も受けていません。'85年頃に体調が悪くなって一度採血したことがありますが、やったのはそれだけです」

 こう語るのは前出の近藤医師だ。氏は「健診には意味はない」とまで言い切るが、多くの検査項目の「有効性」が根拠薄弱だということは、厚労省の「最新の科学的知見に基づいた保健事業に係る調査研究班」の研究結果('05年発表)にも、はっきり表れている。

 同班が代表的な検査の24項目を調べたところ、なんと16もの項目が、有効性を証するに足る「証拠がない」、「無意味」、「不適切」となったのである。

 その検査項目とは、一般的な問診、視力検査、聴力検査、身体診察、聴診、腹部診察、心電図測定、胸部X線、コレステロール検査、肝機能検査、尿検査、血球数など。おなじみの検査項目がズラリと並ぶ。

 たんに意味がないだけではない。有害だという声が、医師サイドから多数出ているのだ。

「基準値を厳しくすると『病人』が増えるので、薬の使用量も増えます。薬漬け医療で怖いのは副作用。起こらなくてもいい病気が起こってしまうのです」(前出・岡田医師)

 たとえば、高血圧と診断されて降圧剤を飲む。すると、それまで何ら症状がなかったのに、意欲が減退する、ふらふらする、脳梗塞や心筋梗塞のリスクが高まるなどの副作用が生じる可能性が指摘されている。

「それでも国民の健康のために健診は必要」といった言い分を真っ向から否定する興味深いデータもある。フィンランドで行われた、75歳から85歳までの被験者の血圧と5年生存率を調べたデータだ。

 たとえば80歳の場合、最高血圧が120以下のグループから180超のグループまでのうち、最も生存率が高かったのは180超のグループで、最も低かったのは121~140のグループだった。

 また、中年の管理職1200人を対象に行われた調査もある。Aのグループは、定期的に検査を行い、生活指導で高血圧が改善しない場合は薬を出して綿密なケアをした。Bのグループは何もせずに放置した。その上で15年後を追跡調査したところ、より多くの死者が出ているのはAグループだった。皮肉にも、健康に気を使い、医療によるケアをしている人のほうが寿命が短いという結果が出てしまったのである。

 健診で提示される基準値が信用に足るものではないということは、第1部で述べたとおりだが、では数値の真実を知る医師たちは、どの程度の数値を「正常」の目安としているのか。

 年齢と共に数値が上がっていくことは自然なこと、と主張する前出の松本医師の意見はこうだ。

「最高血圧は、昔に用いられていた〈年齢+90〉を基準にするのがいいと思います。最低血圧は110くらいでしょう。

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 尿酸値の現在の基準は7・0程度で、オーバーしていると痛風予備軍と騒ぐけれど、その考え方自体がおかしい。尿酸値が高いと痛風になるなどというのはひと昔前の医学の見解です。尿酸値が低くても痛風になることはあるんです。私も3回ほど発症しましたが、値はいつも6・4程度でした。しかも私は菜食主義で酒もタバコもやらない。それでも痛風になるのは、尿酸値ではなく体質が関係しているのです」

前年の数値と比較する

 岡田医師は、数値を知ることで病気の予防に直結するものに限っては、目安として検査を定期的にしておくのが良いという。

「それは、血糖値と血圧、コレステロール値です。これらの数値が上がっていたら、生活習慣を改善して数値を下げれば、心筋梗塞や脳卒中などの病気が発症するのを予防することができることは明らかなのですから、目安にするにはいいでしょう」

 父親からの遺伝で自身も血圧が高いという中原医師の目安はこうだ。

「僕自身はいつ測っても血圧が170になって初めて薬を飲むようになりましたが、一般には160を超えるようになってからで十分です。130は薬を飲むには早すぎます」

 そんな中原医師が勧める「正常値」を、上に記した。これは、東海大学医学部名誉教授の大櫛陽一氏が約70万人ものデータを分析したものだ。

「これまでの基準値は、年齢も性別もほとんど関係ないものが多かったですが、それを踏まえて基準値を考えないと、意味がないのです」(中原医師)

 このデータによると、60代の男性の場合、通常の基準では最高血圧が140以上であれば高血圧とみなされていたものが、165までは問題ないということになる。毎日血圧を測って、数値の上下を気にしていた人にとっては、嬉しい情報ではないだろうか。

 だが一つ、注意しておくべきことがある。東京メトロ株式会社健康支援センター前所長の鷲崎誠医師は、こう説明する。

「基準値は誰にでも当てはまるものではないですし、単純に基準値の内か外かにこだわるのではなく、個人個人の数値を時系列で見ていくことが大切なんです。去年と比べて明らかに数値が上がっていたら、何か異常が出ている証拠かもしれない。そういう意味では、定期的に検査をすることも必要。また、基準値に固執せず、患者さん個人の数値の変化を的確に見極められるホームドクターにかかることも大切だと思います」

 数値に一喜一憂することなく、自分の身体の変化を把握しなければ、検査も意味のないものになってしまうのだ。

「週刊現代」2013年4月20日号より

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