良心的な事業所ほど経営は苦しく――。障害ある子の居場所「放課後デイサービス」で深刻化する理念と現実の乖離 #こどもをまもる
「放課後等デイサービス(放デイ)」は、2012年、「障害のあるすべての子どもに安心できる居場所をつくる」という理念で始まった。しかし今、理念と現実とには大きな乖離がある。事業所の急増で投入される公費も増大し、制度の持続可能性すら危ぶまれる。なぜ、こんなことになっているのか。事業者、利用者、専門家に聞いた。(取材・文:石臥薫子/撮影:伊藤菜々子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
書類上は常勤…不正や水増しがはびこる現状
「きょう、行く?」 土曜日の午前10時前。iPadを見ていたリュウくん(仮名)が、ふと頭を上げ、母親のナツミさん(仮名)に聞く。 「行くよ」 安心した様子のリュウくん。数分するとまた頭を上げた。 「きょう、行く?」 「うん、行くよ。そろそろ、お着替えしよっか。それも『おしまい』できる?」 ナツミさんがiPadを指さすと、リュウくんは素直に手放し、出かける準備を始めた。 「最近、『おしまい』が上手にできるようになってきたんです」 ナツミさんはそう言って、ほほえむ。 リュウくんは、特別支援学校に通う小学5年生。知的障害を伴う自閉スペクトラム症と診断されている。ナツミさんに何度も行くかどうか確認していたのは、放デイのことだ。複数の事業所に週5日通っている。 放デイは、障害や発達に特性を持つ子どもが、生活能力や社会性を育むための「療育」を受けられる通所施設だ。リュウくんが向かった事業所のカレンダーには、体を動かすダンスや、手先を動かす工作、仲間と協力して取り組むゲームなどさまざまなプログラムが1日ごとに組まれていた。 放デイは2012年に制度化されて以降、福祉以外の異業種からの参入も相次ぎ、その数は全国に2万4000カ所以上、利用者も40万人を超える(2025年9月時点)。ただし、中身は玉石混交だ。
その実態について語ってくれたのは、大学で心理学を学び、障害児福祉の現場で経験を積んできた山口さん(40代、仮名)だ。山口さんは5年前、東京都内で就学児(小学生〜高校生)向けの放デイと、未就学児向けの「児童発達支援」を開いた。切れ目のない支援をするのが目的で、定員10人の放デイでは、障害が重く特別支援学校に通う子どもたちを積極的に預かり、国が定める人員配置の最低基準10:2(子ども10人に対して支援員2人)を大きく上回る10:6という手厚い体制で支援している。 自ら事業所を立ち上げたのは「クリーンな運営」に対する強い思いがあったからだ。以前勤めていた事業所では不正がまかり通っていたという。 「専任かつ常勤で1名以上と義務づけられている児童発達支援管理責任者が不在であるにもかかわらず、書類上は常勤となっていたり、架空の職員をシフト表に載せて人員配置基準を満たしているように見せかけたり、定員超過や利用日数の水増しも常態化していました」 そうしたやり方に疑問を感じる職員は辞めていく。だが、その人が持っていた「理学療法士」など資格証だけは事業所が保管しつづけ、加算の取得に使っていた。 不正だけではない。慢性的な人手不足で職員は休憩すら取れずに疲弊していた。労働環境の悪化は支援の質の低下、子どもたちへの不適切な関わりに直結してしまう。 その事業所を運営していたのは、福祉業界で長くビジネスを続けてきた法人だった。山口さんは「いい意味だけでなく、悪い意味でもノウハウがあった」と振り返る。