良心的な事業所ほど経営は苦しく――。障害ある子の居場所「放課後デイサービス」で深刻化する理念と現実の乖離 #こどもをまもる
放デイは「儲かりすぎ」? ニーズとのミスマッチも
放デイをめぐる現状は、「障害のあるすべての子どもに、安心できる居場所を提供する」という当初の理念から、かけ離れてしまっているのではないか。 社会福祉政策が専門で、厚生労働省の「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」の有識者アドバイザーを務めたこともある元立教大学教授の平野方紹さんは、「放デイの創設当初から抱えてきた矛盾に原因がある」とみる。 放デイの制度が始まる以前、障害児通所支援は主に知的障害や身体障害のある子どもを対象としており、発達障害のある子どもの位置づけは曖昧だった。それが2013年施行の障害者総合支援法によって、発達障害も障害福祉サービスの対象として位置づけられ、放デイがあらゆる障害を持つ子どもたちの受け皿となった。 平野さんは、「比較的障害が軽く、障害者手帳を持っていない子どもたちも、サービスの利用が可能になったこと自体は画期的だった」としつつ、こう指摘する。 「そもそも、障害の重さや特性によって支援の『ニーズ』は異なります。従来の障害児通所施設に通っていた子どもが必要とするのは手厚いケア。でも、放デイができて新しく入ってきた子どもが必要とするのは、主に見守りと指示です。さらに、保護者の就労を支える預かりや送迎のニーズも加わりました。それだけ異なるニーズを、『放デイ』という一つの枠組み、報酬制度の中にすべて一緒に入れて、対応しようとしてしまった。そのためミスマッチが生じているのだと思います」 実際、放デイには、遊びや生活支援に力を入れる事業所から、学習や運動、創作、プログラミングを中心とする事業所まであらゆるタイプが混在している。
そんな放デイ業界に、昨年末、激震が走った。厚生労働省とこども家庭庁が2027年度の次期報酬改定に先立ち、「2026年度、臨時応急的に、新規事業所に限り、基本報酬を引き下げる」と打ち出したのだ。事業所の増加に歯止めをかける狙いと見られるが、今後、引き下げが既存の事業所にも広がるのではと関係者は戦々恐々としている。 事業所の急増とともに、報酬引き下げの理由に挙げられているのが「収支差率」の高さだ。収支差率とは、一般企業における利益率にあたる。放デイは、障害福祉サービス全体の4.6%に対し、9.1%(2024年度)。こども家庭庁の担当者によれば、「収支差率は5%を目安の水準としている」というから、平たく言えば「放デイは儲かりすぎ」と見なされているのだ。 しかし、収支差率の分布を子細に見ると、ひとくくりに「儲かりすぎ」とは言い難い。ボリュームゾーンはマイナス10%から0%。中央値は平均値よりはるかに低い2.7%なのだ。経営主体によっても大きく異なり、営利法人は12.6%、社会福祉法人はマイナス2.0%、NPO法人は4.3%。儲かっているのは、営利法人だけというのが実情だ。 社会保障費全体が増加の一途をたどる中、伸びが大きい放デイの費用抑制が議論になるのは当然だろう。ただ、放デイが理念からかけ離れている現状を、放置したままでいいのか。 平野さんは言う。 「私は、少なくない放デイで障害の重い子が排除されている状況は許されないと思います。個人的な意見ですが、障害の程度やニーズに応じて、制度を分けたほうが適切な支援ができると思っています。具体的には、今のような放デイは障害者手帳を持っていない中軽度の障害の子ども向けサービスに特化する。障害者手帳を持っている子ども向けには別の枠組みを作り、その子たちのニーズに応えられる人員体制・設備を整備したほうがいいと考えます。分けるのは『インクルージョンの理念に反する』という意見もあるとは思いますが、ニーズに応えることとインクルージョンは別の話。それぞれの子どもに必要なケアの提供を最優先に考えるべきだと思います」 支援の現場にいる山口さんは、どう考えるのか。 「障害の重度・軽度を分けるのはそう簡単ではなく、医療的な観点での『重度』と、福祉的観点での『重度』が異なるケースもあります。ただ、対象も目的も支援の仕方も異なるサービスがすべて『放デイ』という制度に入れられている現状がいいとは思いません。場合によって事業を分けることも検討に値します。そこで 『放デイとは何か』『療育とは何か』 という根本的な問題をしっかり議論すべきだと思います」
-------- 石臥薫子(いしぶし・かおるこ) フリーランス記者。日本経済新聞記者を経てフリー。AI時代の教育、人材育成、キャリア、発達障害などを主な関心領域として、各種媒体で取材・執筆を行う。 「子どもをめぐる課題(#こどもをまもる)」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 子どもの安全や、子どもを育てる環境の諸問題のために、私たちができることは何か。対策や解説などの情報を発信しています。