死因は「不明」や「交通事故」…中国で相次ぐ科学者たちの「不可解な死」、その真相は?
荒唐無稽だが不可能ではない
科学者が政治的理由で標的となることはこれまでもあった。 イランの核研究者が暗殺された複数の事件には、イランの核武装を遅らせるためイスラエルが関与したとされている。2025年6月には、イスラエルとアメリカの空爆でも核研究者の死者が出た。 アメリカや中国、ロシアが残酷な科学者暗殺作戦を展開している、あるいは他の敵対国家から標的とされているという証拠はない。しかし、事態は深刻だ。 ある中国語メディアは、早すぎる死や原因不明の死を追跡し、「トップ科学者8人が『不可解な死』!」といった見出しで疑念を滲ませる。台湾メディアは「極めて異例」と表現している。 中国共産党が統治する中国本土や香港でも、「21世紀にもかかわらず、海外経験のある中国の天才たちが不可解な死を遂げると誰が想像しただろうか」といいうような憶測が広がっている。 一部の中国メディアは、本誌が把握する9件の死亡時案に含まれない別の死亡例がアメリカで発生していることや、多くの科学者がアメリカで学んだ経験を持つことにも言及している。 ただ、中国の科学者がアメリカで学ぶこと自体は珍しいことではない。中国は長年にわたり、優秀な科学者数万人をアメリカのトップ大学に留学させてきたからだ。 そして、その多くは自発的に、もしくは中国政府からの圧力に屈して中国に帰国し、科学技術および軍事の近代化に貢献してきた。
続く不慮の死
交通事故による他の科学者の死亡例には、2024年12月に死亡した62歳の張暁新(チャン・シャオシン)が含まれる。サウスチャイナ・モーニング・ポストによれば、張は国家衛星気象センターの宇宙専門家で、気象監視と早期警戒システムを専門としていた。 「張は中国軍から科学技術進歩に対する最高賞を受賞したが、研究プロジェクトに関する情報はほとんど公開されていない」 2018年には、中国の軍事科学者であり国防科技大学のマイクロエレクトロニクスの専門家で、「中国の高性能兵器用チップ研究開発チームのリーダー」とされた57歳の陳樹明(チャン・シューミン)が交通事故で死亡したと報じられた。 また、死因が公表されていないことも多い。 著名な化学者である周光遠(チョウ・クアンユエン)も2023年12月、51歳で死亡したが、死因は公表されていない。Sciencenet.cnの追悼記事は、長年の研究の末に周が「国家の必要とすることを行うというより深い自覚を持つようになった」と記している。 主に高分子材料の専門家であった周は中国科学院の会員であり、大連化学物理研究所の研究者として研究成果の実用化に取り組んでいた。 極超音速分野でも人材の喪失が続いている。今年2月には方岱寧(ファン・タイニン)が南アフリカで予期せぬ体調不良により死亡したとされる。享年68歳だった。サウスチャイナ・モーニング・ポストは、方が北京理工大学で宇宙機や先進エンジン向けの超強度材料を研究していたと報じている。 同じく極超音速研究者の閻洪(イェン・ホン)は、米オハイオ州のライト州立大学で勤務した後、中国に帰国してアメリカの制裁対象となっている西北工業大学に所属していたが、3月に病気の後に死亡したと報じられている。享年56歳。 国防科技大学無人システム研究所の元副所長であり、雲智航科技の創業者でもあったドローン専門家、張代兵(チャン・タイピン)が湖南省長沙で死亡したと、シンガポールの聯合早報が報じた。享年47歳。死因は公表されていない。 また、著名なデータサイエンティストである劉東昊(リュウ・トンハオ)も、2024年に原因不明の事故で死亡した。環球時報によれば、彼は貴州ビッグデータ保護工程セキュリティ研究の創設者であり、中国のデータセキュリティ管理システム分野の先駆者であった。 さらに、国際的に著名な生物医学化学者であり、教育部の「人材計画」の受賞者で、非共産党系政党の致公党のメンバーでもあった李民勇(リー・ヨンミン)は、2025年11月に広州で急病により死亡した。享年49歳。追悼文によると、「可視化と光制御調節に基づく革新的な医薬品」を開発していたという。
トランプも「極めて重大な事態」と語る
アメリカでも科学者の失踪や死亡が相次いでおり、FBIが調査に乗り出している。 ミズーリ州選出のエリック・バーリソン下院議員は4月19日、「外国による作戦」との関連の可能性を指摘している。 「我々は中国、ロシア、イランと核技術、先進兵器、宇宙分野で競争している。その一方、アメリカのトップクラスの科学者が次々と姿を消している」 近年の先進的な宇宙、防衛、核分野のアメリカの専門家の死亡や失踪の増加について、ドナルド・トランプ米大統領は先週「極めて重大な事態」と懸念を示した。 「偶然であることを望む」
ディディ・キルステン・タトロウ (国際問題担当)