300万円かけた自伝が「裁断処分」に…シニアに広がる自費出版ブームの闇、家族が受け取り拒否する“悲劇の正体”
”武勇伝”を書きたがる団塊世代。コンプラ無視の差別表現も……
自費出版を希望する主な世代はシニア層だが、B子さんはこう分析する。 「90〜80代の方は、戦時中や戦後のどさくさなど戦争の記録を遺したいという真摯な内容が目立ちますが、メイン顧客の70代・団塊世代はとにかくパワフル。原稿の多くは、学生運動でいかに自分が“革命の志士”として戦ったかという英雄譚から始まります。しかし、数ページ後には『そんな尖っていた俺が、当時いかに女性にモテたか』という艶聞録がネチっこい性描写とともにねじ込まれてきます。女性著者は、亡くなった夫への恨み節を延々と綴る方や、義理の兄弟への実名攻撃、さらには科学的根拠のないスピリチュアルな健康法など。『神が書かせた』と言ってまったく修正に応じない人も」(同) 中小企業の「叩き上げ社長」による一代記も悩みの種だという。 「昭和の成功譚はドラマチックで面白いのですが、地方蔑視や女性・若者への差別表現が散見されて……修正を求めると『何が悪いの? 俺が生きてきた時代の真実だ』と開き直られる」(同) そんななか「優良顧客」と見なされがちなのが、定年を迎えた「元教師」だ。書き手と実際の契約交渉を担う、40代の営業担当C氏はこう明かす。 「彼らには『教え子』という確実な購買ターゲット層がある。出版記念パーティを開けば教え子が集まり、本を一定数買ってくれる。出版社としては最初から売上の計算が立つ、とてもありがたいお客様です」 しかし、そこにも独特の苦労が伴う。 「教育理論が“バリバリ昭和”のまま止まっていることも多いのですが、『先生』と呼ばれてきたプライドが邪魔をして、修正案がなかなか通らない。だが編集はコンプライアンスを守りたい。つねにその板挟みになります」
高額な出版費用の件で家族関係が悪化するケースも
こうした本の出版費用は活字中心であれば1冊300万〜500万円。新車が一台買える金額だ。当然、家族は大反対するケースが多い。 「家族に相談するも『誰が読むの』『お金の無駄だ』と責められ、内緒で契約を進める方もいます。その結果、あまりに悲しい結末を何度も見てきました」とC氏は声を落とす。 「ある時、見本が出来上がったタイミングで著者が亡くなり、ご家族が受け取りを頑なに拒否されたことがありました。生前の独善的な契約が原因で、家族関係が壊れていたんです。結局、著者が“命を削って”書いた1000冊はそのまま製本所で裁断処分に。なんとも言えない気持ちになりましたね」 さらに、一度本を出して「著者リスト」に載れば、追い打ちをかけるように別の出版社から営業がくることもある。 「『お出しになった本、拝読しました。次はブラッシュアップ版を出しませんか』。そんな甘い言葉で、一度味わった高揚感を再び煽られる。追加の課金を繰り返し、気づけば老後の資金を削り取られてしまうケースも、決して珍しくはないんです」(M氏) そんな業界に最近、生成AIを使った「執筆代行」という新勢力も登場している。 「ターゲットは、セルフブランディングを急ぐ現役のビジネスマンや若手経営者層です。30分程度のインタビューを受ければ、AIが数日で『本らしきもの』を作り上げる。そこには執筆や校正の苦しみも、葛藤も存在しません。『本を出している』という実績をタイパ良く手に入れることが目的化しています」(M氏) 命がけで言葉を絞り出す高齢者の横で、AI製の書籍が電子の棚を爆速で埋めていく。 「自費出版は、『本を出した自分になる』という体験をパッケージして売る一種のアトラクション。私たち出版社はそうした著者の満足度をいかに上げるかに腐心していると言っても過言ではないですね。私はもう、自分を編集者ではなく“有料のカウンセラー”と思っています」(B子さん) 自費出版とは、本を売る商売である以上に、「本を出したい人の人生」に伴走する商売なのかもしれない。 <取材・文/浅田みやこ>
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