■ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル第五回・「運ゲーと言ってくれ!」
僕
「俺、バカだからわかんねぇけどよお!
後列のユニットが前列のどのユニットに対してもブーストできるって形だと、
ブーストの組み合わせで27通り、
攻撃順を含めると162通り
あるわけじゃん?
これ人類には早すぎんじゃねーかって思うわけよ。
俺、バカだからわかんねぇけどよお!」
前回、ヴァンガードのルールをシンプルにする方向で丸めさせて頂いた我々でしたが、もう一点、プロデューサーのしまむー(マダムキラー型ロボット)と中村さんが話し合って、大きく変動した仕様があります。
プロトタイプのヴァンガードでは、ユニットの側面に記載されている「ガード値」が、実は色々あったんですよ!
発売時のヴァンガードでは、ガード値は「5000」「10000」「完全ガード」の3種類。
しかし、プロトタイプでは、「3000」とか「8000」とか、幅広い数値があったんですね。
そうするとどうなるか。
良い点としては、カードデザインの幅が広がるということです。
例えば、
「パワー10000、ガード値5000」のギャラティン
(よく使われていたバニラカード)があったとして、ガード値に幅のあるシステムであったとしたら、
「パワー9000、ガード値7000」というバニラカードも作れていたということです。(あえて合計値は同じではない)
これができると数多くの「強いバニラカード」を作ることができる上、テキスト能力を持つカードのパワーバランスも、ガード値の微調整で作りやすくなります。
実質、ガード値が5000と10000しかない世界とは、全くゲームデザインが異なります。
例えば、「攻撃力、防御力、打撃力」の3種類のスタッツがあるTCGでは、スタッツをバランスよく再配置するだけで、数多くのバニラカードが作れます。
沢山のバニラカードが作れるTCGは、
インフレを緩やかに抑えられる。
テキスト量でしか差別化できないゲームと違い、
複雑化も防げる。
よってヴァンガードも、ガード値を数種類に振り分けられる方が、ゲームデザイン的には絶対的に有利だったのですが……
「カードの数値を5000と10000の2種類に絞り込むことで、攻撃側も防御側も計算をシンプルにすることができる」
というしまむーの意見にも、勿論価値がありました。
そのうえで、
「完全ガードを作るのか、防御20000のカードを作るのか」
という議論もあったようです。(僕はこの議論に参加しておらず、最終決断が出てから聞かされました。)
完全ガードの演出上の弱点としては、何らかのコンボでめっちゃパワーを上げるというロマンを否定してしまうという問題点があります。
「おりゃーーー!パワー27000じゃあああああ!守れるもんなら守ってみぃ!」
「完ガで。」
「はい。」
完全ガードがなくて、ガード値の上限があるデザインであれば、
いかに攻撃力を上げるか、に意味が出てきます。
アニメの演出でも、
「ふふふ。こちらにはガード値20000が2枚あるぜ!
……何ッ……攻撃力41000…だと?!?!」
というシーンが作れますね。
しかし結局、
「ガード値は5000と10000のみ。その他は完全ガード」
と決まったのは、
「全ては、小学生でも計算できるように。可能な限りシンプルにするために。」
という方向性で、デザインの考え方が一致した結果、と言えるでしょう。
これも取捨選択。AとBの考え方があって、どっちも正しい場合、どちらを選ぶのか。
物作りとは、選択と「要素の削り落とし」の連続です。
あと、「完全ガードは必須カードなので、売れる。」というのもあったかも……
実際、ヴァンガードというゲームのガード値が何種類もある世界線では、
「相手がドライブして手札に入れたカードを覚えておく」
という基本攻略テクニックが、ぶっちゃけ使えなくなっていたでしょう。
「異常に記憶力の良い人間が勝つ」
という、子供向けTCGに求められないゲーム性になっていた可能性が強い。
とは言え、カードデザインの幅は凄まじく狭まったので、デザイナーの中村さんは苦労するだろうな……と思いました。
なので僕は、将来自分がTCGを作るとしたら、何が何でも使えるスタッツ(基本能力数値)を3種類以上にしよう、と心に決めていましたね。
正直に言うと、この変更は中村さんにとってはかなり痛かったはずです。カードデザインの自由度を大幅に削られたわけですから。
しかしそれでも泣き言を言わず、ヴァンガードのデザインを何年も続けた中村さんを、僕は率直に尊敬します。
さて、ゲームデザインの段階でのエピソードはこれぐらいにして、ちょっと話が前後しますが、ヴァンガードを作る際に、木谷社長がゲーム内容に出したオーダーについて、大事なポイントがあるのでご紹介しましょう。
それは、「運ゲーに見えるように作ってほしい」です!
ヴァンガードやヴァイスシュヴァルツは、よく「運ゲー」と言われます。
ですがこれは、設計の失敗ではなく、むしろ成功です。
木谷社長は、ディメンション・ゼロの経験から、
「実力だけで決まるゲームは、人を選びすぎる」
ということを理解していました。
だからこそ、
「運の要素があるように見えるゲーム」を作ろうとしました。
結局のところ、囲碁や将棋より、麻雀が好きな人が圧倒的多数。
だから大事なのは……ちょっと理解しにくい、難しいことを言いますよ。
「本当は実力が大きく反映されるゲームでも、最初にルールを聞いた時、『運ゲーだな、これ』と思った貰えるゲームの方が、参加障壁が低い。」
という事なのです。
ヴァンガードは、1試合中に何度ドライブがめくれるかが強力な運の要素として、誰でも直感的に理解できます。
ヴァイスシュヴァルツもそう。ダメージがキャンセルされるかどうかは運次第。
それが解るから、
「運ゲーじゃん。初心者の自分でも勝てそう。」
と思ってもらえて、始める時の緊張感が薄れる。
「負けて恥ずかしい」という想いも、運のせいで他責にできるし、運のお陰で勝てそう、とも思える。
だから木谷社長は、ブシロードで最初に作ったTCG、ヴァイスシュヴァルツのときから、中村さんに、
「運ゲーと呼ばれるようなゲームを作って下さい。」
とオーダーしたのですし、ヴァンガードもその系譜でした。
ヴァイスとヴァンガード発売時、2ちゃんねるに、
「こんなの運ゲーじゃねーかww」
とバカにする文脈で書かれるたびに、木谷社長は
「良かった!運ゲーと呼んでくれーーーっ!!」
と喜んでましたよ。(笑)
それだけ、ディメンション・ゼロで、「運ゲーじゃない。ガチゲーがやりたい」という言葉に騙された……いや、言い方が悪いな。裏切られたというべきか?どっちにしろヒデーな。
その経験が大きかったのでしょう。
ユーザーの要望に応えたかっただけなのに……ううう。(涙)
まぁ、僕もディメンション・ゼロの企画当初は、「運ゲーなんて嫌だ」というユーザーの声を信じていたのですから、気持ちはめっちゃ解ります。
それに、「運ゲーなんて嫌だ」と言っていたユーザーも嘘をついていたわけじゃない。本当にそう思っていた。
実際にやってみたら、全然勝てなくて楽しめなかった、というだけで、誰も悪くないんや……歴史の悲劇なんや。
だから未だに、「運ゲーなんて嫌だ!ガチゲーをプレイしたい!」というXのツイートを見かけるたびに、イラァ・・・っとする(暗黒池っち)……もとい、
「ああ、この人にディメンション・ゼロをプレイしてほしいな……」
と心から思うんですよね。
もしかしたら本当にディメンション・ゼロが肌に合う人かも知れませんし。
そんな訳で、ヴァイスもヴァンガードも、木谷社長の
「運ゲーと呼んでほしい!」
という慟哭とともに生み出されたTCGだったと言っていいでしょう。(涙)
次回、ヴァンガード誕生秘話 ― あの現場のリアル・第六回!
「ヤベーー!!」
に続きます!
注釈:本当に運ゲーか?
ヴァンガードとヴァイスが運ゲーかどうかと言うと、実は全く違ってて、運の要素もありつつ、計算とプレイングがめちゃくちゃ影響するTCGです。(うわぁぶっちゃけた!)
例えばヴァイス。
ヴァイスはダメージがキャンセルされるので「運ゲー」と言われますが、実は、デッキが一周することがほとんどなので、「全てのカードがゲーム上で公開されている、珍しい情報開示度の高いゲーム」です。
よって、ヴァイスの上手い人は、それを全てカウンティングしています。
特に後半は、相手と自分のデッキの中身を全て覚えていて、攻撃時のキャンセルの確率計算までやっています。
それにより、攻撃を刻むか、大ダメージが通るかの勝負どころを計算しています。
プレイングでも、どのカードをデッキに戻すか等、「強い山札になるようなプレイング」を心掛けていると聞きます。
事実、ヴァイスが流行っているお店では、大会の上位陣は固定化されています。
つまり、運の要素が強いゲームではなく、
「強さの再現性が高いTCG」
だと証明されています。
ヴァンガードも結構プレイングゲーなのですが、それは皆さんもお気付きでしょうから、ここでは割愛しましょう。勿論運の要素も大きいんですけどね。
要は大事なのは、事実ではなく、「運の要素が強いと思われている事」が大事なんですね。
うーん、世の中は一見複雑そうだけど、複雑だぜ!


シールド値は5000刻みならもっとバリエーション作ってもいいのになと当時は思ってました(15000シールドの代わりにパワーが低い、デメリット能力持ちとか)