「早く征きたい」
「大空の記」は、しばらく発表された神雷部隊の戦果や、新聞に載った戦友の回顧が続く。親しかった戦友が次々と戦死してその名が新聞に載る、それを見たときの感情は想像するしかないが、佐伯の敵愾心に火が付いたようにも見える。
「早く征きたい」は、最初の頃の、先輩搭乗員から木の棒で尻を殴られ、雑用を押し付けられ、落ち度がなくても殴られる、こんな毎日が続くぐらいなら早く出撃して死んだほうがいい、という記述とは明らかにニュアンスが異なる。
だが「大空の記」には、知っている讃美歌がいくつも記され、ときに昔、教会に行った話や、クリスチャンの戦友が歌う讃美歌に共感と懐かしさを覚えたりする記述があるから、キリスト教の教えに救いを求める気持ちもあったのかもしれない。海軍ではクリスチャンだからといって差別されるようなことはほとんどなく、名だたる戦闘機乗りをはじめ軍人のなかにも意外に多く信者がいた。私は2001年、75歳になった佐伯とハワイ・真珠湾に一緒に行くなど話を聞く機会が多かったにもかかわらず、宗旨については一度も訊ねたことがなかった。「大空の記」を熟読して、はじめて気づいたことである。
【後編を読む】<「人間爆弾」桜花発案者が戦後「別人」になっていた…海軍上層部の「スケープゴート」にされた大田正一の驚くほど数奇な運命>