ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学』勝手に紹介文

 このたび、ジョセフ・ヒースの著書『資本主義が嫌いな人のための経済学』が早川書房で文庫化されます。既にハードカバーをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、吉川浩満さんによるアツい解説と、文庫版のために書き下ろされた序文がついてくるので、改めて買って損なしです。ぜひ手に取ってみてください。

 そしてなんと、不肖わたくし、文庫版書下ろし序文「ポピュリズムの時代に」の翻訳を担当させていただきました!

ジョセフ・ヒース『資本主義が嫌いな人のための経済学〔新版〕』

 そういうわけで、この記事では私なりに本書の内容や魅力を紹介してみたいと思います。

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民主主義では足りない(ボー・ロススタイン「政治的正統性を創出する:民主的選挙vs政府の質」メモ)

 今回紹介するのはBo Rothstein "Creating Political Legitimacy: Electoral Democracy Versus Quality of Government"という論文。前回の記事では「政府の質」の定義について紹介したので、今回は、なぜその「政府の質」というのが重要なのか、を分かりやすく論じている論文を取り上げる。

kozakashiku.hatenablog.com

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「政府の質」を定義する(ボー・ロススタイン&ジャン・テオレル「政府の質とは何か」メモ)

 今回紹介するのはBo rothstein & Jan Teorell “What Is Quality of Government? A Theory of Impartial Government Institutions”という論文。著者の1人、ボー・ロススタインは、「政府の質(quality of government)」研究の第一人者であり世界的に影響力のある政治学者である。もう1人の著者であるジャン・ティロールは、言わずと知れたノーベル賞経済学者だ。ジャン・テオレルも、ロススタインと同じくスウェーデン政治学者である*1。この論文はそんな世界的な研究者たちによる共著論文で、引用数も現時点で2000を超えており、この分野の基礎文献と言える。

Bo Rothstein "The Quality of Government"

*1:Jan Teorellという字面でジャン・ティロールだと勘違いしてしまっていましたが、ティロールのスペルはJean Tiroleなので別人でした。コメントでご指摘いただいたので、訂正いたします。お恥ずかしい……。

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ジョセフ・ヒース『資本主義にとって倫理とは何か(Ethics for Capitalists)』勝手に紹介文

 この度、ジョセフ・ヒースの著書"Ethics for Capitalists"の邦訳が『資本主義にとって倫理とは何か』というタイトルで出ることになったらしい。

ジョセフ・ヒース『資本主義にとって倫理とは何か』

Joseph Heath "Ethics for Capitalists: A Systematic Approach to Business Ethics, Competition, and Market Failure"

 

 しばらく前にこの本の簡単な紹介文を書いたことがある。この文章が日の目を見ることは結局なかったので、この機会にブログで供養しておきたい。諸事情で若干煽り気味な文章になっているのと、かなり乱暴に単純化している部分があるが、そこらへんは大目に見てほしい。

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リベラリズム、デモクラシー、国家機構(フランシス・フクヤマ『政治の起源』『政治の衰退』メモ)

 今回紹介するのは、フランシス・フクヤマの著書、『政治の起源』と『政治の衰退』である。フランシス・フクヤマというと、「歴史の終わり」でその名前を知っている人がほとんどだと思うが、「冷戦終了間際にリベラル・デモクラシーは完全勝利したとかのたまっていた傲慢で能天気なネオコン」みたいな認識で済ませておくのはもったいない人物だ*1。『政治の起源』『政治の衰退』は、様々な時代や地域の政治制度を取り上げながら、政治制度の発展と衰退のパターンを描くビッグ・ヒストリー本である。全体的な議論に同意するかはともかくとしても、鋭い洞察に溢れた非常に面白い本であることは間違いない。どちらも上下巻ある大部の本なので、本エントリでは全体を要約することはせず、筆者の関心にマッチし、読んでいて特に面白く感じた箇所を取り上げることにする。

*1:そもそも、「歴史の終わり」で一発当てただけの思想家、みたいな認識はだいぶ歪んでいて、例えば信頼官僚制に関する研究はたくさん引用されている

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ジェラルド・ガウス(Gerald Gaus)の業績(PPE学会による追悼文)

 ジェラルド・ガウス(Gerald Gaus)は政治哲学の分野においては非常に著名な研究者で、論文も本もいっぱい出している(筆者は社会契約論との関連でガウスを知った)。ガウスは惜しくも2020年にこの世を去ったのだが、その際にPhilosophy, Politics, Economics学会が追悼文を出している。この追悼文が、ガウスの膨大な業績をかなり簡潔にまとめており面白かったので、以下にその訳を掲載する。野良訳なのと、筆者自身はガウスの研究に全然詳しくないので不正確な部分があるかもしれない、という点には留意してほしい*1

Jerry Gaus: Constant Learning in a Complex World - The Philosophy, Politics, and Economics Society

ppesociety.org

著者: Jacob Barrett, Adam Gjesdal, Bill Glod, Keith Hankins, Brian Kogelmann, Ryan Muldoon, John Thrasher, Kevin Vallier, and Chad Van Schoelandt

*1:原文ではJerryという愛称で統一されているが、翻訳ではガウスで統一している。またAmazonリンクは原文にはない。

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日本ウォッチャーたちの2025年参院選論評(ノア・スミス、マット・アルト、クイコ・トロ)

 今回の参院選、そして特に参政党の躍進を巡って、日本のメディアやブログ、SNSでは様々な論評が既に溢れている。では、海外出身の日本ウォッチャーたち*1は今回の参院選についてどんな論評を行っているのだろうか。本稿では、3人の日本ウォッチャー、ノア・スミス、マット・アルト、クイコ・トロが参院選直後に出した記事をまとめていく。

*1:とは言いつつも、ノア・スミスも日本に住んでいた時期があり(今でもよく来ているようだ)、マット・アルトとクイコ・トロも基本的に日本在住のようなので、日本ウォッチャーというのはやや不適切かもしれない(特に在日外国人にとって今回の選挙が非常に現実的な脅威をもたらしていることを考えれば)。とはいえ、海外のオーディエンスに日本の政治や経済の動向を伝えているという点では「日本ウォッチャー」と言っても問題はないと思う。

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Abundance運動の3つの源流:YIMBY、進歩研究、ステート・キャパシティ・リバタリアニズム(マイア・ミンデルのAbundance論)

 アメリカの左派の間でAbundance(アバンダンス、豊かさ)を巡る議論が盛り上がっているのをご存知だろうか。2025年3月にエズラ・クライン(Ezra Klein)とデレク・トンプソン(Derek Thompson)が“Abundance”という著書を刊行したことをきっかけに、アメリカの左派の間で活発な論争が生じた。Abundanceというのは、短くまとめると、もっと家を建て、もっとインフラを整備して、みんなで豊かになろうという政治的アジェンダだ。Abundanceは、アメリカの左派が「結果を生む」ことよりもプロセスばかりを気にかけ、政府の能力を非生産的な仕方で縛るような規制をかけて自縄自縛に陥っていることを問題視している。こうした懸念に賛同し、Abundanceはトランプ-共和党から権力を奪い返すための民主党の新たな方針だと強く肯定する者もいれば、それは左派を「新自由主義」へと取り込む動きだと非難する者もおり、アメリカ左派の政治談議の一大トピックとなっている。

Ezra Klein& Derek Thompson "Abundance"

Abundance (English Edition)

Abundance (English Edition)

Amazon
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道徳心理学における「義務」の復権(ジョセフ・ヒース他「人はなぜ酔うと不道徳な行動をとるのか」メモ)

 今回紹介するのはJoseph Heath & Benoit Hardy-Vallée  "Why do people behave immorally when drunk?"という2015年の論文。タイトルは「人はなぜ酔うと不道徳な行動をとるのか」というものだが、内容としては、道徳心理学(モラル・サイコロジー)の分野における感情主義・ヒューム主義の影響力の大きさを疑問視し、「義務」を重視するアプローチ(カント主義)の復権を唱えるものとなっている。ヒースの『ルールに従う』は義務を取り込んだ意思決定理論と、その進化論的背景については扱っていたが、この論文はそれを補完する内容になっていると言えるだろう。議論の移り変わりが激しい分野なので、10年前の論文だと古くなっている部分もたくさんあると思われる。そこらへんは承知しておいてほしい。

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