憲法施行から3日で79年。私たちの日々の暮らしから憲法を改めて見つめる。
「じゃあ調べてあげる」
2年ほど前。オンラインゲームに夢中だった小学4年の長男に請われ、高松市に住む香川きょうさん(仮名)はインターネットの攻略サイトを開いた。スマートフォンの画面に突然、裸同然の姿で揺れ動く女性が現れた。ぎょっとした。成人向けのコミックやゲームに誘導する広告だった。
長男は自身でも攻略法を調べていた。「ずっと『性的広告』にさらされてきたのかもしれない」。調べると、性的な場面を「におわせる」ものや犯罪行為を疑わせるものもあった。
「子どもも閲覧するサイトに、こんな広告が表示されるのはおかしい」
2024年9月。性的広告が表示されるサイトを区別する「ゾーニング」を求め、オンライン上で署名活動を始めた。賛同は神奈川を含め、全国各地に広がった。対策強化を求める要望書に10万2526筆の署名を添え、こども家庭庁に提出した。
性的広告なぜ、ここまで広がった
性的広告への苦情は近年、増加の一途をたどっている。日本広告審査機構(JARO)によると、昨年4~12月に寄せられたネット広告に対する苦情は5903件。業種別では「電子書籍・ビデオ・音楽配信」(789件)が最多、「オンラインゲーム」(530件)が3位になり、それぞれ8割弱、過半が「性的」との指摘を受けた。
性的広告はなぜ、ここまで広がったのか。原因の一つにネット広告の仕組みが指摘される。
広告には「予約型」と「運用型」の2種類がある。予約型は広告主が特定枠を購入する方式で、内容を事前に厳しく審査される。一方、運用型は1回の表示ごとにリアルタイムで入札を行う方式で、掲載前に表現をチェックされることがない。ネット広告ではターゲットを柔軟に変更でき、広告料も安い運用型が選ばれるようになり、性的広告も広がったとされる。
「性的広告を見たくない人の『見ない自由』が保障されていない」
茅ケ崎市に住む女性(43)は待てど暮らせど対策が講じられない現状に、しびれを切らしていた。そんな時、署名活動を知り、香川さんが後に立ち上げた「性的なネット広告のゾーニングを目指す会」に名を連ねた。女性は「現実の公共空間に裸の人がいたら取り締まられる。それがネット上だと、規制も何もない」と憤る。
規制を求める声が保護者を中心に高まり、政府も25年8月、連絡会議を設置し、規制を含めた検討を始めた。ただ憲法21条が保障する「表現の自由」に抵触しかねないと規制に慎重な意見も根強い。
目指すのは自主規制
JAROの担当者も「あくまで自主的な判断を求める必要がある」と前置きした上で「良い方向へ導くために、寄せられた苦情は企業に積極的に伝えるようにしている」と説明する。
電子コミック大手でつくる「日本電子書店連合」は同年4月、全年齢が閲覧できるサイトに性的描写を含む広告を配信するのをやめた。JAROからの指摘を受けての措置だった。
「性的広告を全て廃止してほしいと求めているわけではない」。香川さんや女性が目指すのは自主規制がさらに進むことだ。
要望書を提出する前、表現の自由に強い関心を持つ人たちと交流サイト(SNS)上で意見交換し、▽性的な内容が含まれる場合、事前に閲覧者に警告する▽媒体側が内容に同意した上で掲載する仕組みを構築する-といった解決策を練り上げた。
「広告を見て感じる不快な気持ちは、軽視していいものでは決してない。見ない選択肢だって保障されていいはず」。力を込め、香川さんは言葉を継ぐ。「考えや立場の異なる人たちと対話を続けながら、おかしい現状に声を上げたい」
(市川莉央、荻野功輝)
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