「AIでエンジニアが不要になる」は本当か。求人データが示す意外な現実
「生成AIの普及でエンジニア採用の需要は減りませんか?」
という質問です。本当に聞かれることが多くなりました。当然、トップとしてはカウンターの回答を用意しないといけません。
まずはシンプルにですがFindyの事業がエンジニアの中でもミドルからハイスキルの方に使っていただくことが多く、そういったエンジニアに関してはむしろAIを使いこなせる層として需要が増えてきています。
とはいえファクトデータでも示していかないといけず、調査をしてきたことを含めて記事にしてみたいと思います。
結論として「エンジニア需要は減っていない。求められる像が変わっている」
これが実際に起き始めていることです。
AIの利用でコーディングは自動化されてきています。完全自動にはならなくとも、Copilotなどを利用して補助をうまく活用している企業もあります。いずれにせよ、手を動かすポイントが変わってきています。
その分、需要になってきているのが設計の分野です。何をどう作りたいのかをしっかりと設計してAIに適切に読み込ませることが重要になってきます。またチームでのAI活用はレベル感がまちまちになり気味です。そこでハーネスエンジニアリングなどの言葉も出てきていますが、AIの”使い方”を磨いていく必要が出てきています。
また、FDE(Forward Deployed Engineer)といった、顧客先にエンジニアが出ていき、課題を解決するなど役割の多様化が始まっています。FDEは元々、パランティア(Palantir)社が提唱した、顧客の現場に常駐し、技術を用いて直接課題解決と利益創出を担うという難しいミッションを持ったエンジニアです。
OpenAIやDatabricksのFDEが登壇するイベントも開催するのでぜひ関心のある方は覗いてみてください。
日本ではエンジニアの需要はほとんど減っていない
昨年の春頃は生成AIの影響を受けて、ファインディの採用サービスも苦戦しました。背景にはセールスフォースが”今年”はエンジニアを採用しないと発表したり、それを受けて日本のメガベンチャーでも採用をストップする企業が出てきました。
ただ、その後はむしろ上述の通りAI対応をスタートアップから大手までする必要があり、AI普及によってエンジニア需要が減っているという実感はあまりありません。むしろ採用難が続いているというのが、日々お客様と話している中で感じる肌感覚です。
dodaの転職求人倍率レポートを見ても、エンジニア(IT・通信)の求人倍率は季節性のアップダウンはあるものの、10倍を超えており、まだまだ高い状況です。特にシステムの更新や内製を進める大手企業の需要は強く、結果的にエンジニア採用は簡単にはなっていません。
詳細はこちら→https://doda.jp/guide/kyujin_bairitsu/
アメリカも、実はエンジニア需要が回復している
「日本はそうかもしれないけれど、アメリカは違うのでは?」
と聞かれることもよくあります。アメリカのテック企業のレイオフ報道は強烈ですし、AIによる代替の文脈でもよく引き合いに出される国です。
ただ、アメリカのデータも丁寧に見ていくと、また違う風景が見えてきます。
Indeedの求人データでは前年比+11%でソフトウェアエンジニア求人が伸びており、求人トラッカーのTrueUpによると2026年に入って求人数は前年比+30%増、67,000件以上のポジションが開いていて過去3年超で最高水準とのことです。
詳細はこちら→ https://www.citadelsecurities.com/news-and-insights/2026-global-intelligence-crisis/
つまり日本はエンジニア需要は減っていない、またアメリカもハイスキル層を中心に回復傾向にある、これが今のデータから見える姿だと考えられます。
2022〜2024年の「急落」の仮説
ここからは、アメリカのデータをもう少し詳しく見ていきます。
Indeedの求人データを見るとソフトウェアエンジニアの求人は2020年2月を100として、2022年前半に約200まで急騰した後、2024年末には68前後まで急落しています。
この数字だけを見ると「やっぱり需要は減っているのでは」と感じるかもしれません。
ただ、急落の時系列をよく見るとAIの普及とは連動していないように見えます。急落が始まったのは2022年。FRBが急激な利上げに踏み切ったタイミングであり、VC投資が急収縮してIT企業が採用凍結に走った時期でもあります。また、ソフトウェアに関する税制の変更なども影響しているという説もあります。
要するに、コロナ禍の「採用バブル」が崩壊したところに金融引き締めが追い打ちをかけた結果で、AIによる代替だけが原因とは言い切れない、というのが正直な見方です。もちろん、AIによるジュニアの需要が減ったというのはありそうです。
2026年のエンジニア需要の回復と二極化
興味深いのはTrueUpやIndeedのプラス成長が、「Q1だけで52,000件の技術職レイオフ」と同時並行で起きていることです。AIによる代替で消えているポジションがある一方で、AIを構築・運用できるエンジニアへの需要が急速に生まれている点から二極化が起きているといえます。
詳細はこちら→https://www.metaintro.com/blog/software-engineer-job-listings-spike-2026-ai-demand
CNNも最近、「ソフトウェアエンジニア職の消滅は誇張されすぎ」という記事を出しています。また、Citadel Securitiesも2026年2月のレポートでIndeedデータを引用し、「AIによる雇用破壊」説を正面から否定しています。金融機関がここまで言い切るのは、一つのシグナルとして面白いですね。実際にここのグラフがXで貼り付けられてバズっていました。
詳細はこちら→https://edition.cnn.com/2026/04/08/tech/ai-software-developer-jobs
Citadelはこの現象を「Jevonsのパラドックス」と呼んでいます。AIでコーディングが安くなると、企業はソフトウェア開発にこれまで以上に投資するようになる。石炭の採掘効率が上がると消費量が増えたのと同じ原理で、結果としてエンジニアの需要が増える、という考え方です。AI設備投資がGDPの2%(約650億ドル)に達し、全米で2,800以上のデータセンター建設が計画されている現実が、この論点を後押ししているのではないでしょうか。
求められる技術力は上がっている
ただ、回復しているといっても、2022年のピークとは中身がまるで違います。
一番わかりやすいのは世代別の二極化です。スタンフォード大学デジタル経済研究所によれば、AI露出が大きい職種では22〜25歳の雇用が6%減少した一方、30歳以上では6〜13%増加しているそうです。「採用は起きている、ただし若い世代向けではない」という厳しい現実ですね。ベンチャーキャピタル「SignalFire」の調査でも、大手テック企業の新卒採用は2023年から2024年で25%減少しているとのことで、シニアとジュニアの需給格差は開く一方です。
役割そのものも変化しています。AIエンジニアの平均年収は2025年に約20.6万ドルに達し、前年比5万ドル増と、報酬面でも「AIをつくれる人」への需要の強さがはっきり出ています。CNNの記事でも、「企業はソフトウェア予算を拡大し、エンジニアのヘッドカウントを増やしている」と紹介されていました。
業界の分散も進んでいます。金融、保険、製造、医療など「非テック」業界でのエンジニア求人が急拡大していて、採用戦線はもうIT企業だけの話ではなくなっています。これは日本で大手企業が内製化を推進する中でエンジニアの就職先がSIerやWeb系企業だけではなくなってきているのと同じですね。
ファインディはどうしていくのか
この変化は、エンジニアにとって追い風になると思っています。なぜならエンジニアができることが広がり、ソフトウェアが社会に実装される範囲が広がっていきます。その結果、エンジニアがプロダクトを作る人からビジネスそのものを創る人になっていくのではないかと思っています。
また、エンジニア需要の絶対量が消えるわけではなく、「どんなエンジニアを」「どの業界が」「どんな経験年数で」「どんなAIスキルで」求めているかが複雑になっていく中で採用サービスを運営している会社としては社会に対してこうした情報をどんどん発信していきたいと思っています。
エンジニア採用市場、皆さんはどう見ていますか?
「AIでエンジニアが不要になる」というナラティブはキャッチーで広まりやすいのですが、日米いずれのデータを見てもますますAIを使えるエンジニアの必要性は上がっていきそうと考えています。むしろAIがエンジニアの仕事を高度化させながら、需要をさらに押し上げている側面のほうが強いのではないでしょうか。
ジュニアエンジニアにとっては、たしかに厳しい市場になっています。ただ、それはAIに代替されたからというよりも、AIを使いこなす経験値を積む機会そのものが構造的に減っているから、というのが実情に近いように感じます。この問題は採用市場だけでなく、教育・育成の文脈でも一緒に考えていく必要がありそうです。



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