怪我の恋人
Twitterに上げたSSです。
両片思いから付き合って間もない土銀。
土方さんと銀さんはお互い生傷が絶えないんでしょうけど、お互いが傷つくその度に胸を痛めてほしい…
いつまでもラブラブでいて欲しいです。
閲覧ありがとうございます。
お楽しみいただけたら嬉しいです。
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土方は怒っていた。
連れ込み宿の布団の上で銀時を押し倒し、黒いジャージのファスナーを下ろした。それで露わになったのは銀時の眩しいほどの白い肌、だけではなかった。腹部に巻かれた白い包帯。それも一緒に目に飛び込んできた。
「テメェ……、どういうことだこれは」
唸るよな低い声で問いつめる土方。
「あ、これ? もうほとんど治ってっから気にすんな」
銀時はあっけらかんと答えた。
「それより続き、しようぜ」
銀時は土方の後ろ首に手を回そうと腕を伸ばしたが、土方はそれを払った。
銀時はきょとんとした顔をした。
「……聞いてねぇぞ。いつだ。いつ怪我した? 何やった? また変な事に巻き込まれやがったのか?」
土方は怒っているのだ。
積年の想いを遂げてようやく恋人になれたというのに、この坂田銀時という男は肝心なことは何も言ってはくれない。たまにこうして会って身体を繋げても、ただそれだけ。心までは、魂までは、繋げてくれない。恋人だと思っているのはまるで自分だけのように感じていた。
(いったいテメェは俺をなんだと思っていやがる)
「ん~、二、三週間前かな? 浮気調査の依頼してたらよ、依頼主も付いて来ちゃってよ。浮気現場に遭遇したら興奮して突っ込んでいっちゃって。そしたら浮気相手もヤケになって刃物もって襲いかかってきてさ。んで、俺が刺された、ってわけ」
「……何で避けなかった」
「俺が避けたら依頼主に刺さっちまうところだったからさ」
「相変わらず見ず知らずの他人の為にお人好しやってんのか」
「……なんだよその言い方」
「浮気調査だかなんだか知らねぇけどな、テメーが刺されることねーだろーが」
「仕方ねーだろ。っていうか、何? 怒ってんの?」
「あぁ? 仕方ねぇだ? ふざけんな。別に怒ってねーよ」
「いーや、怒ってるじゃねーか。なんだよ急に」
「テメーは俺を怒らせるようなことしたのかよ」
「してねぇからわかんねーんだよ。何? 俺なんかした?」
「わかんねぇのか?」
土方は睨み付けるように銀時の顔を覗き込んだ。
見下ろされる格好の銀時は訳がわからないという顔をしている。
そうしていると土方が銀時の腹部を撫で始める。さすり、さすり、と包帯と掌が擦れる。
「……もしかして、怪我したこと連絡しなかったから怒ってるの?」
「……」
「わざわざ怪我した、なんて言うわけねーだろ。かっこ悪りぃ」
「……心配くれぇさせろ」
「しなくていい心配なんてさせるわけねぇだろ。オメー忙しいのに」
「うるせぇ。恋人が怪我したのに知らされねぇこっちの身にもなってみろ」
「……そんなもんかね。心配させたくねぇ俺の気持ちもわかってよ」
「わかんねぇよ」
「オメーの方が毎日あぶねー事してんじゃねぇか」
「心配か?」
「いんや」
「そうか……」
「……」
「……」
銀時はポリポリと頭を掻いた。これは一体どうしましょ、という時に出るクセだった。
土方は変わらず腹部の上の包帯を撫でている。
「まぁでも、たしかに、オメーが怪我とかしたら教えて欲しいかも」
ふーっとため息を吐きながら銀時は声を出した。
「他の誰かから聞いたり、治った後に何もなかったかのようにされんのは嫌かも、な」
腹部を摩り続ける土方の手に重ねるように手を置く。
土方は置かれた手を撫でて指を絡めてくる。
「悪かったな、知らせねぇで」
へらっと笑った銀時を見て土方のムスッとした表情が和らいだ。
「……わかればいいんだよ」
「なぁ、続き、しねぇの?」
そう言われて土方は銀時をぎゅっと抱きしめる。ぎゅうっと。
「なんだよ、いてぇって」
「……今日はしねぇ」
「え?! しないの?!」
「続きはテメーの怪我がちゃんと治ってから、な?」
土方は気付いていた。
腹部から消毒液と一緒に傷の臭いがしていることを。だてに怪我三昧の日々を送ってはいない。治癒期間中は傷は独特の臭いを放つ。ほとんど治っていると本人は言っていたが、完治には至っていないのだろう。
怪我をしているのを知らず、気付けず、押し倒して服のファスナーまで下ろしたのだ。これ以上銀時に負担はかけたくはなかった。
久々の逢瀬だったが、これは譲れない。
土方は銀時を抱きしめたまま。
「頼むから、もっと自分を大事にしてくれよ」
「大事にしてるよ。大事にもして貰ってるしな」
銀時は刺されたと言ったが、正確には刺されにいった、と言った方が正しい。
揉め合う依頼主と浮気相手、傍観する旦那。丸く解決するには、自分がサクッと刺されて三人それぞれに罪悪感を持ってもらうのが早いかな、と考えがよぎった。思惑通り、銀時が刺されて血が流れるのを見た三人は浮気問題どころではなくなった。刺した相手を警察に突き出すこともせず、恩を売って万事屋に借りを作らせたのも計算尽くだ。銀時ほどの手練れがそう易々と刺されるはずが無い。刃物を落とすのも容易かったであろう。それをわざわざ刺されにいったのだ。
土方は薄々だが、それにも勘づいていた。
ごろんと、布団の上に二人で寝転ぶ。お互いの顔が息のかかる位置にある。
「俺はテメーが大事なんだよ、銀時。これ以上、傷こさえんな。あと、ちゃんと言え。俺の事は大事だなんて思ってくれなくていいから。でも、何かあったらちゃんと知らせてくれ。一応、俺はお前の恋人なんだろ?」
「なんだよ、一応って。俺はオメーのことちゃんと想ってるつもりよ?」
「そうかよ、クソ天パ」
「天パは関係ねーだろ。ニコチン中毒が」
顔を近づけ合いながら二人でくすりと笑った。
銀時は今夜、土方に会うのをとても楽しみにしていた。それこそ、怪我が完治していないのを承知で会うくらいには。久しぶりの逢瀬。土方に触れたかった。
怪我をして、新八にも神楽にもこっぴどく怒られ、二人は過保護なまでに銀時を看病してくれたものだから、なかなか万事屋を抜け出すことが出来なかった。ようやくここまで治って外出が許された。外出が許されて最初にした事は土方と約束を取り付ける事だった。
積年の想いを遂げてようやく恋人になれたこの土方十四郎という男は、自分なんかを相手に恋愛ごっこをしてくれている。たまにこうして会って身体を繋げられるだけで、それだけで満足だった。心までは、魂までは、繋げてはいけない。土方の枷になる訳にはいかない。いざという時に離れられなくなっては困る。そんな思いが一歩踏み込めぬ壁となって土方を不満にさせているということに、銀時は気付いていなかった。
(まさか、怪我したくらいでこんな怒られるなんてな。案外、俺、愛されちゃってんのかね)
土方の指が銀時の頬に触れた。伝わる熱を捕まえて、銀時は唇を落とす。目と目が合う。
「オメーも指、ササクレてんじゃん。ちゃんと俺に報告しろよ」
「あぁ、そうするわ。あとはな、背中のニキビが一個潰れたわ。それとブヨに刺されたとこが跡になってやがる。あとな、」
「ストップ! やっぱいいわ。細けぇわ」
「テメーは細かくても報告しろ」
「えー、めんどくせぇ」
「しょうがねぇだろ、面倒臭い奴に捕まっちまったんだからよ」
「……そうね」
銀時は再び捕まえた指先にちゅっと音を立てた。
今夜はこうして二人でおしゃべりしながら添い寝して過ごすつもりの土方だったが、朝はまだまだ遠かった。腹の傷が開く事になったかどうかは、銀時のみぞ知るところ。