5億円消失も…証券口座乗っ取りの手口と“補償されない現実”
「自己責任か、補償か」証券会社が揺れた判断
問題は、この被害に遭った人たちの損失を補償するかどうかでした。当初、証券会社は顧客に対する被害補償に対して消極的だったのは事実です。 いくつか理由はありますが、そもそもこれは証券会社側のシステムに問題がなかったからです。正規のID、パスワードを用いたログインについては、本人のものであるとみなす旨が規約に明記されており、オンライン取引を利用する人たちは、登録に際して必ずこの規約に同意しています。 また、いささか金融庁の初動が遅かった面も否めません。証券口座乗っ取りが顕在化したのが2025年1月からなので、この時点で多要素認証(複数の方法で本人確認をする仕組み)を徹底させれば、ここまで被害が広がることはなかったと思われます。 加えて、大口取引を行っているデイトレーダーは多要素認証を嫌う傾向にあり、そこに対する配慮もあったと思います。大口資金で1日の間に何度も売買を繰り返してくれるデイトレーダーは、インターネット証券会社にとってはとてもよいお客さんです。 そのデイトレーダーにとって大事なのは、自分が取引したい時に、いつでも口座を瞬時に開いて売買できる迅速性です。その点、IDとパスワードを入れれば、即、取引画面に移れる従来のシステムは、何かと便利だったのです。 しかし、多要素認証を導入すれば、IDとパスワードを入力した後、PCメールやスマートフォンのショートメールに届く暗証番号を入力しないと、取引画面に移れません。 これは証券会社によって異なりますが、暗証番号が届くまでに、数秒かかるケースもあります。特にデイトレーダーは数秒の差が命取りになったりもするので、できれば多要素認証は避けたいと考える人がいても不思議ではありません。 もちろん、前述したように証券口座乗っ取りで被害が生じたとしても、基本的に証券会社に落ち度はないので、状況を放置していた面もあります。結果、多要素認証の導入までに時間がかかり、被害額が大きく膨らんだのです。