イマジン
戦争をさせないために
イマジン
戦争をさせないために


ジョン・レノンの『イマジン』が発表されたのは1971年。ベトナム戦争が激化していた最中でした。
「殺す理由も死ぬ理由もない」
「想像してみよう、みんなが平和に生きていることを」
パートナーのオノ・ヨーコさんの本から着想を得た詞は、現状への追認を繰り返し戦争が起きている時にこそ、平和な世界を想像することが重要なのだと教えてくれました。
しかし、その想像力を高市早苗首相は持ち合わせていません。
イランに戦争を仕掛けたドナルド・トランプ大統領に、2026年3月20日の日米首脳会談で「世界に平和と繁栄をもたらせるのは、ドナルドだけ」と言いました。戦争初日の2月28日、米国はイランの小学校を爆撃して160人以上の児童が命を落としています。亡くなった子どもたち、その親やきょうだい、友だちの前で同じことを言えるでしょうか。
トランプ大統領に追随するだけではありません。
高市首相には、「日本を戦争ができる国にする」という明確な意思があります。自民党の草案をもとにして、改憲することに政治生命を賭けています。
1930年代と酷似する今
想像力とは、歴史に学び、他者と未来に思いを馳せること。
私たちTansaは、そう考えています。戦争を体験していない人が、日本社会の多数を占めるようになった今、歴史に学ぶことから出発する。その上で、世界でなお戦争の犠牲になっている人たちと、次世代へ残したい未来に思いを馳せるのです。
しかし、歴史に学ぶことは愚行と悲劇に対峙することでもあります。目を背けている人が多いのではないでしょうか。
現代の日本は、1930年代から40年代にかけての日本と酷似しています。
中国との対立を深めて国際的に孤立し、経済が回らなくなる。その苦境を戦争で解消しようとするものの、膨らむ軍事費に国家財政が追いつかず借金だらけ。国民の暮らしは一層苦しくなる。それでもメディアは、国家権力と一体となって戦争を煽る――。
当時、日本の世論では「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」という言葉がスローガンになりました。「横暴な中国(支那)を懲らしめろ」という意味です。
世論を追い風に中国への侵略を進めれば進めるほど、日本は国際社会から孤立しました。国際連盟からも脱退してしまいます。
国際的な孤立は、資源に乏しい日本にとって、経済的な困窮につながります。石油を求めてアジアで戦線を拡大していきますが、それが更なる孤立を招きました。中国だけではなく、米・英という大国を相手に戦争を始めてしまいました。
1931年9月 | 満州事変始まる |
1932年5月 | 五・一五事件で、海軍の青年将校らに犬養毅首相が暗殺される |
1933年3月 | 国際連盟を脱退 |
1937年7月 | 日中戦争始まる |
1941年7月 | 石油確保を目指し、日本軍が南部仏印(ベトナム)進駐 |
8月 | 米国が日本への石油輸出を全面的に禁止 |
12月 | 米英に対して開戦 |
戦争遂行への道は、国家権力が人権を踏みにじっていく過程でもありました。
治安維持法が施行され、政府や軍部に批判的な人は次々に投獄・拷問されました。死刑になった人もいます。
権力が暴走する時、歯止めをかけるのはジャーナリズムの役割です。
しかし、1930年代から終戦まで、新聞をはじめとしたメディアは機能しませんでした。右翼活動家や軍部の脅し、戦争報道による部数拡大の誘惑に屈してジャーナリズムの役割を放棄しました。戦争を止めるのではなく、煽りました。
1941年には、国家総動員法に基づいて「新聞紙等掲載制限令」が施行。政府・軍部の報道発表に沿った記事しか掲載できなくなってしまいました。
中国を射程に入れた
ミサイル配備
高市首相は歴史に学んでいません。自身の実行する政策が、どのような事態をもたらすかの想像力がありません。
2026年3月31日、陸上自衛隊は熊本市の健軍(けんぐん)駐屯地に国内で初めて長距離ミサイルを配備しました。射程は1000km。中国の沿岸部に届きます。
敵の基地を攻撃する力を得るためで、2022年末の安保3文書改訂を受けた措置の一環です。
しかし、想像してみてください。
高市首相は2025年11月、衆院予算委員会で、「中国が台湾を攻撃した場合は、日本の存立危機事態だから自衛隊が出動できる」という認識を示しました。日本は自国が攻撃されていなくても、中国に武力行使することができるというメッセージであり、中国との関係が悪化しています。
その状況で、中国を射程に入れたミサイルを配備すれば、両国の緊張が高まるだけです。
ミサイルを配備している以上、健軍駐屯地が攻撃されるリスクは高まります。
しかし高市首相は、地元住民の不安を想像することもありません。
健軍駐屯地は、市街地の中にあります。半径1km以内に小学校、中学校、高校、知的障がいがある生徒の支援学校、盲学校、ろう学校、そして病院があります。子どもや避難する際に支援が必要な人が多くいるのです。爆撃された場合、どうやって命を守ればいいのでしょうか。
第二次安倍政権からの14年
高市政権は、突如として現れたわけではありません。平和国家としての道を大きく踏み外し始めたのは、2012年に発足した第二次安倍政権からです。それから14年でいかに日本の針路が変わったか、主要な政策を時系列で追うだけで明白です。
2013年 | 特定秘密保護法成立 |
|---|---|
2014年 | 集団的自衛権の行使を容認する閣議決定 |
2017年 | 共謀罪が新設 |
2020年 | 日本学術会議が推薦した会員候補を、菅義偉首相が任命拒否 |
2022年 | 経済安保法成立 |
安保3文書を閣議決定 | |
2023年 | 防衛産業強化法成立 |
2024年 | 入管法を改正 |
2026年 | 武器輸出が全面解禁 |
今後もこの勢いに乗って、高市政権は国家情報会議と国家情報局の新設、スパイ防止法の制定などを進めるはずです。治安維持法を敷き、反戦を訴える市民や、反権力のジャーナリズム活動などを取り締まった、思想弾圧の歴史と重なります。
高市首相に欠ける
「犠牲者への想像力」
改憲については、2026年4月12日、高市首相は自民党大会で述べました。
「立党から70年、時は来ました。改正の発議について、何とか目処がたったと言える状態で、皆様と共に来年の党大会を迎えたいと考えています」
自民党の改憲草案は、前文で「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち」と書き出しています。現行憲法の書き出しは「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し」です。戦争ができるよう9条を変えているだけではなく、国民より国家を優先させる「国家主義」の色合いが濃いものです。
本来、憲法は国家権力を縛るものですが、国家が国民を縛るという倒錯した改憲草案になっています。
核兵器を「持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則についても、高市首相は見直す可能性を示唆しています。
広島市の平和記念公園には、原爆慰霊碑があります。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
この文言に主語はありません。原爆を落としたのは米国であっても、過ちを繰り返さないのは「全人類」という思いが込められているからです。この碑の前では、国籍を問わず犠牲者に思いを馳せ、「過ちを繰り返さない」一員となることを誓うのです。
高市首相には、原爆の犠牲者への想像力が、決定的に欠如していると言わざるを得ません。
小学生に「抑止力」を
説く防衛省
「戦争ができる国」にするため、高市首相が矢継ぎ早に政策を実行していく一方で、もう一つ、警戒しなければならないことがあります。
それは「文民統制」(シビリアン・コントロール)の崩壊です。
文民統制とは、軍事活動に関する決定権を、軍人ではなく政治家が持つことです。軍部の暴走を防ぐためのシステムで、民主主義国家の基本です。
社会に不満が充満しているのに、政治が機能しない。そういう時に軍部が政治に乗り出してくることは、世界の歴史が示しています。
日本でも戦前、1932年の五・一五事件で犬養毅首相が海軍の青年将校たちに暗殺され、政党政治が終焉。その後は軍部が政治に大きな影響力を持ち、戦争へと突き進んでいきました。
昭和恐慌により、都市と農村の双方で生活が困窮。農村では「娘の身売り」が横行し、欠食児童が増えていたのに、政治家たちは汚職と派閥争いで堕落していたことが、軍部が暴走する背景にありました。
今の日本社会も、やり場のない不満で満ちています。
非正規労働者が4割近くになり、格差が開いています。物価が上がっているのに、給料は上がりません。かといって、日本が目指すべき未来を真剣に語る政治家も出てきません。選挙は政治家の「就職活動」へと堕ち、目先の当選のため無責任な政策を並べ立てています。
このような社会状況が、政治の領域に侵食する隙を、自衛隊に与えているのではないか。私たちはそのことを危惧します。
幹部を含む自衛隊員が集団で靖国神社に参拝したり、自民党の党大会で自衛隊員が君が代を斉唱したり。戦後の日本ではなかったようなことが、次々に起きています。
防衛省は2021年から『まるわかり! 日本の防衛』という冊子を作成し、全国の小学校に配布しています。
2025年版では、「日本とは政治・経済に関する価値観を共有しない国」として、北朝鮮、ロシア、中国を名指し。抑止力についてこう書いています。
「自衛隊が万全の態勢を整えているということを示すことで、他の国に『日本を攻撃するのはやめておこう』と思わせて、戦争が起きないようにすることが、自衛隊そして日本にとっての一番の勝利なのです」
デモという希望
この事態を、私たちはもう止められないのでしょうか。
そんなことはありません。私たちはジョン・レノンの『イマジン』の次の一節に、希望を見出しています。
「僕のことを夢想家だと言うかもしれない。でも僕だけじゃない」
実際、国会前などでのデモを取材するたび、「一人じゃない」ことを感じることができます。初めてデモに参加する人が多く、世代、職業、性別などあらゆる属性を越えて、「戦争はさせない」という一点で結束しています。デモについては、ルポと動画で詳報しますが、参加者の声を紹介します。
「両親が空襲に遭った経験があり、目の前で友達がバラバラになったところを見たことがあると言っていた。日本は過去に戦争をなぜ止められなかったのかと、不思議に思っていたけど、やっぱり声を上げないとズルズルいっちゃう。プロパガンダに染まっていっちゃう」
「安倍政権の時に本当は来ればよかったんですけど、まだぼんやりしてた。今回は本当にヤバイな、何もしていないと本当に後悔するなと思っています」
「戦争ができる国になってしまうっていうのが、すごく怖くて。特に子どもたちに戦争を経験させたくなくて。自民党の意思だけでいろいろ決まってしまったら、この先すごく怖いなと思っています」
「日本全国でデモが起きているし、世界中でも起こっているので、地球市民として連帯しているなという感じが嬉しいです」
Tansaは、シリーズ「イマジン」で政治権力の暗部をえぐると同時に、平和を願う市井の人たちの息遣いを伝えます。
まずは5月5日から、熊本市の健軍駐屯地でのミサイル配備について、報じていきます。
「戦争をさせない」という意思に、イデオロギーや属性は関係ありません。
読者の方々と共に歩むことで、大きなうねりを起こしていきたいと思います。
2026年5月1日、79回目の憲法記念日を2日後に控えて
Tokyo Investigative Newsroom Tansa
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