【ファクトチェック】斎藤知事発言の検証:「元県民局長を公務員失格だと断じた」は誤り
■はじめに
2026年4月9日の兵庫県定例記者会見にて、フリー記者の菅野完氏が以下のような趣旨の発言を行った。
検察に起訴猶予にされた犯罪者井ノ元には公務員失格と言えないのに、なぜ犯罪者でもない県民局長を公務の会見の席で、「公務員失格 嘘八百と言ったのか」
まず「検察に起訴猶予にされた犯罪者井ノ元」といった発言については、起訴猶予とは「犯罪の嫌疑はあるが起訴しない」と検察が判断したにすぎず、これを“犯罪者”と確定的に断ずるのは不適切である。
これは前回の記事で説明しているので、こちらをご覧いただきたい。
その後の「なぜ犯罪者でもない県民局長を公務の会見の席で、「公務員失格 嘘八百と言ったのか」」というこの発言を前提に、「知事が元県民局長を公務員失格だと誹謗中傷した」とする言説が拡散している。
しかし、これは発言内容の正確な理解に基づいたものとは言えない。
■ 実際の発言内容
斎藤元彦知事が問題とされているのは、2024年3月27日の会見における次の発言である。
— 東京ファクトチェック協会(TFA) (@tokyo_factcheck) May 14, 2025
やっぱり、公務員ですから。
やっぱり色々こうあるにしても、選挙で選ばれた首長の中で、みんなで一体として仕事をしていくということが大事なので。
それをなんか不満があるからといって、自分の、しかも業務時間中なのに、「嘘八百含めて」ですね、文書作って流すという行為は、やっぱり公務員として失格ですので。
そういった行為はやっぱりこれからもあってはならないですし、まあそういった意味で、しっかり今回の事案を、調査結果踏まえながら。
今一度やっぱり公務員として、きちんとやっぱ誠実に、仕事していくということを、みんなで、共有していきたいなと思っています。
ここで一度、構造として確認したい点がある。
「嘘八百含めてですね、文書作って流すという行為は、やっぱり公務員として失格ですので。」
この一文の主語は何か。
文法構造として整理すると、主語は「嘘八百を含めて文書を作成し流布するという行為」と読むのが正しい文法である。
つまりこの発言は、「行為」を主語として、その行為を「公務員として失格である」と評価する構造になっている。
したがって、
「元局長個人を公務員失格と断じた」とする解釈は、文構造と一致しない
少なくとも形式上は「行為評価」である
という整理になる。
■ 知事自身の説明
その後の会見で、知事は発言について次のように説明している。
嘘八百を含めて文書を作って流す行為は公務員としては失格という強い表現をしたことについては、反省をしております。
私がこのような強い表現をした理由としては、まず1つ目として、私自身について書かれたことに、事実と異なる点があるということ。
そして、職員の実名や企業名、団体名などがいずれも実名でなされており、事実と異なる記載が多々あるということでした。
かつ、その内容は真実であることを裏付ける資料や供述内容も示されていなかったということです。
元県民局長自身も、文書の作成配布を事実と認めた上で、記載や内容については、噂話を集めて作成したということです。
つまり知事自身の説明は、
表現の強さについては反省している
しかし発言の趣旨は
→ 事実誤認の記述を含む文書の流布行為への綱紀粛正
という点にあると整理できる。
■ 文書の構造と問題点
問題となった文書には、多数の人物・企業に関する記述が含まれている。
文書の文字起こしは以下の記事で確認していただきたい。
この文書に記載された内容の特徴は、以下の通りである。
違法行為の断定
因果関係の断定
推測を含む評価
伝聞的表現の混在
つまり、事実・評価・推測が混在した構造となっている。
その中で、多くの人物や企業への誹謗中傷的内容が記載されている。
実際にどれだけの誹謗中傷的記述があったのかは、以下の記事をご覧いただきたい。
以下では代表的な2事例を取り上げる。
■ ① 五百旗頭氏に関する記述
文書には次のような記述がある。
・副理事長解任は五百旗頭先生と井戸前知事に対する嫌がらせ以外の何ものでもない
・その日の帰宅後、強い憤慨により夜も眠れなかった
・翌日も職員に同様の胸の内を明かしていた
・その日の午後に理事長室で倒れ、急性大動脈解離で急逝した
・情動的ストレスがトリガーになることもある
・命を縮めたことは明白である
この中で特に問題となるのは以下の点である。
・「命を縮めたことは明白である」
・「面談の翌日の午後に理事長室で倒れ、急性大動脈解離で急逝した」という時間的文脈で記述されている点
・死亡との因果関係が直接的に示唆されている点
しかし事実関係としては、
面談は死亡の前日ではなく6日前
死因は急性大動脈解離
特定の出来事と死亡との医学的因果関係を断定することは一般に困難
さらに重要なのは、
第三者委員会報告書においても、この因果関係は認定されていない
という点である。
つまり本件は、
一般論としてのストレス影響の可能性と本件における因果関係の断定が混同されている構造である。
したがって、
可能性の話を事実の断定として扱っている
という論理上の問題が存在する。
■ ② パレード担当者に関する記述
別の例として、パレード関連の記述がある。
パレードを担当した課長はこの一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、うつ病を発症し、現在、病気休暇中。しかし、上司の井ノ本は何処吹く風のマイペースで知事の機嫌取りに勤しんでいる。
この記述については以下の問題がある。
不正行為への関与が前提化されている
精神疾患の発症原因が特定されている
上司の人物評価が断定的である
しかしこの点について、第三者委員会報告書は次のように明確に判断している。
この判断が意味するのは、
・補助金と協賛金の間に見返り関係は存在しない
・したがって「不正行為」という構造自体が成立していない
・同課長の職務が不正行為と結びつく前提も存在しない
という事実認定である。
ここで重要なのは、単なる評価の違いではなく、
・前提となる事実関係そのものが成立しないと明確に判断されている点である。
したがって本件は、
・成立しない前提の上に構築された因果関係と評価が含まれている
という構造的問題を持つ。
なお、パレードに関する刑事告発が不起訴だったことに関しては、以下の記事で解説している。
■ 第三者委員会の整理
第三者委員会報告においては、
一部の事案について第三者委員会独自基準の評価基準でパワハラと評価されたものは存在する
しかし「7つの疑惑」とされる核心部分については
→ 多くが事実認定に至っていない
と整理されている。
つまり、文書には多くの事実誤認の記載があったということである。
■ 文書の性質
以上を踏まえると、当該文書の特徴は以下に整理できる。
断定的表現が多い
事実と推測が混在している
因果関係の飛躍がある
裏付けが明示されていない記述が含まれる
つまり、評価と事実認定が未分離のまま構成された文書である。
■ 結論
以上を踏まえると、問題となっている発言については次の通り整理できる。
知事の発言は
→ 行為(文書作成・流布)に対する綱紀粛正「元県民局長を公務員失格だと断じた」とする解釈は
→ 文構造および発言趣旨のいずれとも整合しない解釈である文書には
→ 明らかな事実誤認の記述が含まれている
したがって、「斎藤知事が渡瀬元県民局長を、嘘八百・公務員失格と断じた」という主張は事実誤認である。
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