斎藤知事は公益通報者保護法に違反していない─制度趣旨から読み解く誤解と真実
はじめに
2024年春以降、兵庫県政で話題になっている「元県民局長による文書問題」。一部のメディアや第三者委員会は、「斎藤知事が公益通報者保護法に違反した」と断定的に報じました。
しかし、この主張は制度の趣旨や要件に沿ったものと言えるでしょうか。公益通報者保護法は、内部告発者を守る重要な制度ですが、文書があるだけで通報と認めるのは誤りで、制度の信頼を損なう可能性があります。
また、その文書についても、単に事実があるだけで判断できるものではなく、内容をしっかり精査する必要があります。
本記事では、これまでの3回にわたる検証を踏まえ、斎藤知事の対応がなぜ公益通報者保護法違反に当たらないのかを、改めて整理・検証します。
公益通報者保護法の基本整理
まず押さえておきたいのは、公益通報者保護法における「公益通報」の定義です。
法律上、公益通報は次の3類型に分かれます。
1号通報:事業者内部への通報
2号通報:行政機関への通報
3号通報:報道機関・国会議員などへの通報
公益通報として成立するには、以下の要件を満たす必要があります。
通報者の身分:労働者、退職者、役員、派遣労働者などに限定
通報の目的:専ら不正の目的ではないこと
通報の形式:適切な通報先に対して行われること
これらの要件が欠けていれば、それは「公益通報」とは認められません。つまり、文書があるだけでは通報とはならず、保護の対象にもなりません。
「文書=公益通報」という誤解
一部では、元県民局長が作った文書は「公益通報文書」だとされ、その結果、斎藤知事が受け取った文書も公益通報だと考える誤解が広まっています。しかし、公益通報は「行為」であり、文書そのものではありません。
たとえば、匿名で噂を書いた紙を役所に送っただけでは、公益通報にはなりません。また、不正の目的がなく、真実相当性のある文書であっても、パソコン内に保存されているだけでは通報として認められません。
文書がなくても口頭で通報すれば公益通報となる場合があります。逆に、文書があっても通報の要件を満たさなければ、公益通報にはなりません。
このことから、公益通報とは「通報行為」であり、文書そのものではないのです。
元県民局長の文書の性質
問題の文書は2024年3月12日に複数の機関や人物へ送付されました。
しかし、内容は「〜と思われる」「〜かもしれない」といった憶測的な記述が中心で、裏付けとなる証拠は一切確認されませんでした。
文書末尾には「各自の判断で活用いただければありがたい」と記されており、作者自身が公益通報として提出している自覚もなかったことが明らかです。
また、後の陳述書でも、この文書は噂話にすぎないことが繰り返し示されています。
匿名の外部通報が保護されるためには、真実相当性が必要です。つまり、通報対象の事実が実際に生じている、または生じようとしていると信じるに足りる合理的な理由があることが求められます。単なる憶測や伝聞だけでは、保護の対象にはなりません。
例えば、第三者委員会では、外部から見てキックバックという不正行為があったと見られて仕方ない状況であるとして、真実相当性が認定されました。しかし、実際にはキックバック(背任罪)を裏付ける証拠や信用性の高い関係者の供述は一切存在せず、制度上も保護の対象にはなりません。
そもそも斎藤知事は「公益通報」を受けていない
斎藤知事が文書を手にしたのは、2024年3月20日に第三者から渡されたときです。この第三者は純然たる民間人であり、公益通報の主体(労働者・退職者・役員等)には該当しません。マスコミ関係者や議員関係者でもないことを、斎藤知事は偽証罪の適用がある百条委員会で明言しています。
したがって、知事が受け取ったのは「公益通報」ではなく、単に「怪文書を渡された」にすぎません。
ここで重要なのが、消費者庁の公式見解です。
Q:「「3号通報を受けた者から通報内容を聞いた者は、当該内容を公益通報として扱わないといけないのか」
A:「公益通報だとして聞いたのであれば、公益通報として扱わないといけないが、公益通報であることを聞かなかったのであれば、当該内容が公益通報だと知らないことになるので、配慮はできないと思われる。」
斎藤知事の場合、3号通報を受けた者から一般人を介して文書内容を聞いただけであり、公益通報だと認識していなかったため、公益通報者保護法上の義務は発生しません。
また、事業者(兵庫県)にとっては、3号通報先が公益通報として受理し、是正等のアクションを事業者(兵庫県)に対して取らなければ、公益通報として受理された事実を知ることはできません。
実際、受け取った10箇所はいずれも公益通報として受理せず、兵庫県への是正措置も行われていません。受け取った県議の一人も、この文書を怪文書と見なし、評価に値しないと発言しています。
以上のことから、兵庫県としては公益通報の事実を知る手立てがなかったといえます。仮に知事が受け取った文書を公益通報として扱う義務があったとすれば、誰でも根拠のない文書を「公益通報」と主張できることになり、制度の悪用を招く可能性があります。
消費者庁も「公益通報として聞かなければ、配慮はできない」と明確に否定しています。
「不正の目的」だったことの証拠
さらに、この文書配布が公益通報者保護法の対象外である理由の一つは、「不正の目的」があったことです。
実際に押収された公用パソコンには、「クーデター」「革命」「逃げ切る」といった記述が残っており、文書が専ら不正の目的で作成されたことが明らかになっています。
例えば、公用パソコンの中には以下の文章が存在し、更に続けて詳細な人事案というのが、40ページあまり作成されておりました。
「知事が維新に傾いた時、その違和感は逆モーションで増幅し、取り返しのつかない弊害となる。怪文書をあちこちにばら撒いてみる。〇〇室長が片山に相談したら、片山は握りつぶす。その後でマスコミに撒く。マスコミから知事に直接あのペーパーが行く。マスコミには写しを同封し、知事に『見たことがあるか、これは事実か』と確認させる。知事の信用を失った人事当局がいかにしんどいか思い知らせる。片山他3名を仲間割れさせる。出番が来るまで待つ。辺境の地で待つ。クーデターを起こす方法はあるのか。メンバーは揃っている。担ぎ上げるリーダーは?」
これは、今回の文書を信用失墜のためにばら撒いて、クーデターを起こそうとしていることを、公用パソコンの中にメモとして残している可能性を示す記述と言えるでしょう。
不正の目的について、詳しくは以下の記事をご覧ください。
公益通報者保護法は、不正目的の通報は対象外としています。
消費者庁の公式Q&Aでも、「事業者は不正目的の通報に対して通知等の対応を行う必要はなく、悪質な場合には懲戒処分もあり得る」と明記されています。
この観点からも、兵庫県の対応は法的に問題がなかったと判断できます。
兵庫県の処分と元県民局長側の対応
兵庫県としては、この文書配布を公益通報とは認めず、誹謗中傷性の高い文書であると判断しました。そして、文書作成者が元県民局長であることを突き止め、以下の4つの問題行動を確認しました。
本誹謗中傷文書の作成・配布
人事課時代の女性職員の人事データの不正取得・持出
平成23年以降14年間にわたる長時間の職務専念義務違反
令和4年5月の原田職員局長へのハラスメント文書の送付
公式の処分理由は画像の通りです。
もし渡瀬氏側が「3月の文書配布は公益通報であり、県の処分は違法だ」と主張する場合には、不服申立てを行う必要があります。
しかし、渡瀬氏は不服申立てをせず、遺族も民事訴訟を起こさず、職務専念義務違反に対しては給与の自主返納まで行っています。
したがって、兵庫県が「3月の文書配布は公益通報ではなかった」として行った処分は、事実上確定しているといえます。
危機管理上の観点
仮に第三者機関による長期調査を待っていた場合、文書による誹謗中傷被害はさらに拡大していたと考えられます。
実際、この文書では実在する人物や企業が名指しで誹謗中傷されており、いずれも事実が確認されていませんでした(詳細は以下をご参照ください)。
特に、パレード警備担当の元課長については、「一連の不正行為と大阪府との難しい調整に精神が持たず、うつ病を発症し、現在病気休暇中」と記されていましたが、事実無根です。
このような記述により誹謗中傷被害が発生しており、結果として当該職員は自殺に至っています。
以上の状況を踏まえると、斎藤知事が迅速に対応したのは、公益通報者保護法違反ではなく、むしろ危機管理上、当然の判断であったと評価できます。
斎藤知事も、しっかりとその点を説明されてます。
まとめ
ここまで整理したように、斎藤知事が公益通報者保護法に違反したという主張は誤りです。
文書=公益通報ではない
公益通報は「通報行為」であり、文書そのものではありません。知事が受け取った文書提供は公益通報ではない
提供者は一般人であり、公益通報の主体に該当しません。文書には真実相当性がなく、不正の目的が明らか
裏付けとなる証拠はなく、公用パソコン上の記述からも不正目的の意図が確認されています。消費者庁の見解
不正の目的の通報は公益通報に含まれない
真実相当性がない場合は保護義務は発生しない
兵庫県及び渡瀬氏の対応
・兵庫県が公益通報ではなく、誹謗中傷性の高い文書と判断して渡瀬氏を処分
・渡瀬氏は不服申立てをせずに遺族も民事訴訟を起こさず、事実上この処分は確定危機管理上の判断
文書による誹謗中傷被害を拡大させないため、知事の迅速な対応はむしろ正当だった
以上から、「斎藤知事が公益通報者保護法に違反した」という言説は根拠のないデマにすぎません。
本件を通じて改めて強調すべきは、公益通報者保護法を正しく理解し、制度を悪用することなく、本来守るべき真の公益通報者を適切に保護することの大切さです。
これは兵庫県だけの問題ではなく、制度の信頼性を守るために、私たちは「公益通報とは何か」を再確認する必要があります。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
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