2026/02/17 小日記
お風呂に入るために脱衣所でめがねを外そうとしたら、そのまま右目のレンズがぽろっと取れた。えあっ、と情けない声が出て、顔をあげて鏡を見てみると視界が微妙に歪んでいて、鏡に映る私は間の抜けた顔をしていた。目からうろこが落ちるってこんな感じだろうか。どうやら、めがねのレンズを固定するネジが取れてしまったらしい。ネジはピアスのキャッチの半分もない大きさで、今まで見たことのあるネジの中でも一番小さかった。こんなにもささやかな部品に自分の視界を委ねていたのだ。道具は、壊れたときにはじめて人間の前に本来の物体としての姿を現すので、私はめがねと出会いなおしたみたいだった。
もしかすると家にあるドライバーキットのいちばん細いので直せるかもしれない。思いつきで試してみるものの、肝心のドライバーは前に買ったたまごっちの電池を入れるときに使ったままどこかに消えていた。しかたなくたまごっちを裏返してみると、めがねのネジのよりも八回りくらい大きなねじが背面のフタを留めていた。
めがねの保証書はちょうど確定申告のための領収書の整理をしたときに捨ててしまっていた。保証書がない場合は修理にいくらかかるんだろうとめがね屋さんに行ってみると、なんと無料だったうえに、5分で直してもらえた。あの米粒のように小さいネジをちゃんと回収して持ってきたのが功を奏したのかもしれない。ついでにレンズも鼻当てもぴかぴかになっている。レンズの入っていない、ふちだけめがねをかけた店員さんから自分のめがねを受け取って「お金は…」と私が言い出すと同時に「めがねの代金に含まれているので無料です!!」と元気たっぷりな声が重なった。
あんまり仲が良いわけではない人とお茶しに行って、ああもう私が全部お金払ってしまいたいなあ、いろいろ揉みたくないなあ、と思いつつお財布を中途半端にひらいて、「お金は…」というときと似ている。出してもない財布をしまった気分だった。本当は店員さんのおごりで私のめがねを直してもらっていたのだとしたら、と勝手に想像する。
けれど、とにかく視力が戻ってきたし、それも無料で嬉しかったので「ありがたい世の中だなあ」と声に出して伝える。どうもありがとうございました、とめがねをかけようとして、自分がいま、前まで使っていた度の弱いめがねをかけていたのをすっかり忘れていて、店員さんの前でめがね・オン・めがねを披露するおかしい人になってしまった。店員さんが笑ってくれたのでよかった。


久々の投稿嬉しいです🥲 素敵な物語きけて嬉しいです♪
「道具は、壊れた時にはじめて人間の前に本来の物体としての姿を現す」という文章が好きです。確かに私たちが見出している価値を取り払った、道具でない物体こそが本来の姿なのかもしれません。 私はむぎちゃんに憧れてnoteを始めたので、久々の投稿嬉しいです。これからも応援しています!
めがね・オン・めがね! 想像して思わずフフッと笑ってしまいました。 店員さんの温かい笑顔まで目に浮かびます。 視界を支える、ピアスのキャッチより小さなネジ。 当たり前の日常って、そんなささやかなものに守られているんですよね。 (小さな足裏が全身を支えているのと似ているなと、妙に納…