和歌山県田辺市の公立大学構想の経緯
公立大学構想が検討されている旧庁舎(和歌山県田辺市新屋敷町で)
和歌山県田辺市が検討している公立大学の設立構想。地域活性化の起爆剤として期待が寄せられる一方で、経営が成り立つのかという懸念もある。市は、大学設置の可能性について専門的見地から調査・検討しており、市としての方向性を近く公表する予定だ。これまでの経緯を改めて振り返る。
【目指す大学の内容】
公立大学構想は、関西学院大学国際学部の關谷武司教授(教育開発学)らが設立した一般財団法人「立初(たてぞめ)創成大学設立準備財団」(兵庫県宝塚市)が2024年8月、市に提案した。
文系・理系の枠にとらわれずに学ぶ「文理融合型」の四年制大学。市が大学の設置主体となり、財団メンバーらで構成する公立大学法人が運営を担う。学部は「社会情報科学部」(仮称)で、定員は1学年144人を見込んでいる。
自ら問いを立てて解決策を見いだす「探究」や、国内外でのフィールドワークを重視する。「AI(人工知能)・DX(デジタル変革)時代において、従来の地方や仕事のあり方に縛られない、自ら事を起こせる人材を輩出する」ことなどを目指している。
設置場所は、24年5月に閉庁した市役所旧庁舎(新屋敷町)を想定している。
【なぜ田辺市か】
財団は、大学の立地について「人工的な都市ではなく、その対極にある人間本来の生活が息づく豊かな地域を拠点にすることが重要である」としている。世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」をはじめとする歴史や文化が受け継がれてきた熊野は、構想を実現する場所としてふさわしいという。
紀南地域が高等教育機関の「空白地帯」であることも大きなポイントだ。高校卒業後は進学や就職のため市外へ出ていく若者が多く、それが人口の社会減の最大要因となっている。まちに大学があれば、若者の人口流出を抑えるとともに、新たな雇用や事業を生み出すかもしれない。人材育成や地域課題の解決など、さまざまな効果を生み出すことも期待される。
このため市は「真摯(しんし)に検討を行うべき提案である」として、検証を進めてきた。
【これまでの検証】
まずは25年3月、市が庁内での検証結果をまとめた報告書を公表した。学生の確保や財政面の課題などについて検討したところ、大学構想の「実現可能性は十分ある」とした上で「専門的見地からさらなる検証が必要である」と結論付けた。
同年4月の市長選では、大学構想について「ハードルはあるが、前向きに可能性を探りたい」と語っていた現職の真砂充敏市長が当選。調査・検討事業にかかる予算案を6月市議会に提出し、可決された。
大学設置に関するコンサルティングの実績がある業者に委託し、コストや経済波及効果、学生のニーズなどを調査。築50年以上たつ旧庁舎が大学施設として利用可能かどうかの調査も、建築設計事務所に委託した。
それらと並行し、学識経験者や産業界、保護者代表などからなる「検討会議」も立ち上げ、大学設置の必要性や可能性について検証してきた。
【実現へのポイント】
構想の実現を左右する主なポイントは「財政面」「学生の確保」「立地」だ。
市が25年3月にまとめた報告書では、旧庁舎の改修などを含む初期費用を50億円と想定。このうち、国からの助成金や企業版ふるさと納税寄付金などを除いた市の実質負担額は、約14億8千万~約25億円と見込んでいる。
ただし、助成金が採択されるか、寄付金がどれくらい集まるかは、現時点では分からない。初期費用がもっと高くなる可能性もある。
運営費用については、新設する学部が想定通りに理科系と認められるかどうかが鍵となる。収益の柱の一つである、国からの交付税を財源とした運営費交付金が、理科系かどうかによって大きく変わるからだ。
さらに重要なのが、学生が集まるかどうかだ。市が公表した開学後10年間の収支シミュレーションによると、学部が理科系だったとしても、定員充足率が80%に落ち込めば毎年赤字が発生することになる。
立地も課題だ。旧庁舎は築50年以上が経過している上、南海トラフ巨大地震の津波浸水想定域にある。
耐震性の確保や避難の対策を講じることはもちろん、この場所に大学をつくることについて、どこまで市民の理解が得られるかが重要となってくる。