『神功皇后論』発売記念 小林よしのりインタビュー
第4回「コンプラ気にして古代が描けるか!」
(インタビュアー・にしやん)
ー古代人の感覚で描く、というのは非常に重要な部分ですね。
小林「だから最初はほんの少し、うっすらだけど、あそこの陰毛ぐらいは描いていたんだよ。だってキューピーちゃんみたいに何もなかったら、やっぱりおかしいから。
ところが編集側は、それもダメだって言うんだ。
コンプライアンス違反になってしまうからって。
「ええっ!陰毛描いたらいけないの?別にそのもの全てを描いたわけじゃないのに。おかしいよ、そんなのは!」と思ったよ。
編集側は完全に現代人の感覚だなって、すごく不満だったよ。
でも仕方がないのね。だから描き直したんだ。そこを見えないように水しぶきとかで誤魔化してね。
なのに、驚いたよ!ネット媒体では載っていないんだよ!丸ごと1本、わしが描いたやつが載っていないの!凄いよ、ネットの規制ってやつは。
雑誌にはさ、もっと際どい扇情的なヌード写真とか載ってるのに、なんでわしの作品は載せられないの?どうなっちゃてるの?って思ってさ。」
ーそれは本当におかしな事態ですよね。
コンプライアンスの件ですが、先生がおっしゃった「古代人の感覚で描く」事に、どのような影響が出るのでしょうか。
小林「これは、わしが昔、『新しい歴史教科書を作る会(1997発足)』で執筆していた時、神話の部分で、アマノウズメノミコトが踊るシーンを書いた箇所があるんだけど。」〈※注〉
ー天照大御神を天岩戸から呼び出すシーンですね。
小林「その部分は、古語においては女性器を「ほと」と書いてあるんだ。わしは古語を訳す時、その「ほと」を、「陰部」という言葉で訳して書いたんだよ。
「つくる会」の理事は学者ばかりだから、当然その言葉を否定はできないよね。
だって現実に「ほと」って書いてあるわけだから。
だからその訳で載せたんだ。
それで教科書を作ったら、ちゃんと検定を通ったんだよね。」
ー正しい訳ですからね。
小林「そして結局その教科書は、中学校などで使われることになったんだけれども、そうしたら学校の先生達がそれを読んで、その「陰部」という部分に凄い抗議を入れてくるんだよ!
わしからすれば、えっ、なんなんだ?じゃあ一体どうすりゃいいんだ⁉︎ と思ってさ(苦笑)」
そういう事もあったし、コンプライアンスを理由に表現に規制を掛けたり、抗議をしてくるなんて本当に変な話だよ。
「神功皇后論」でいうと、太古のさ、あの時代の解放感みたいなものをそのまま描こうとしても、描けないんだよ、現代は。」
ーそれじゃ当時の雰囲気を、現代に伝える事ができないですよね。
小林「そうなんだ。作家の立場としては、表現の自由というものをうまく使って、太古の感覚というものに、一生懸命に迫ろう迫ろう!としているわけでしょ。それなのに、結局コンプラがそれを許さないんだよ!」
ー神功皇后論では、記紀に書かれてるほんの数行の部分を、先生にしか出来ない凄い想像力で、楽しくエンタメにもして描いてくださってるわけじゃないですか。それを潰してしまうなんて、本当に酷いですよね。
古代の物語って、その分からない部分に思いを馳せながら想像をするところに、楽しみだったりロマンみたいなものがあるのだと思うのですが。
小林「そうそう。それにわしは漫画家だから、古代を描くのは、小説家が文字だけで書くことよりももっと難しいんだよ!
つまり、登場人物が現代の人間なら、色んな髪型や服装があるからキャラクターの書き分けが簡単に出来るけれども、古代はね、もの凄く難しいんだ。
だって皆んな同じ格好をしているから(笑)
皆んな同じ髪の結い方だから(笑)
しかもその上で、顔に個性をつけないといけないからね。そこでどこまでオリジナリティーを出そうかって考えるのは凄く大変なんだ。
今、神武天皇の兄弟を描いているけれども、4人もいるから、全員顔を描き分けて一人一人違うデザインにしているんだ。そうすると、なんかもう覚えきれなくなっちゃうんだよ、キャラがあり過ぎて(笑)
漫画ゆえに、古代人を描くのはもの凄く苦労するんだ。
本当にさ、そこまで考えでやっているのにさ、コンプライアンスに引っかかるからなんて言われるとね、もう本当にガックリくるね。
古代の開放感なんて、本当は出来るだけ生々しく描いた方が絶対に面白いんだよ。それを漫画で伝えたいのに伝えられないなんて、本当につまらない時代になってしまったよ。」
※注
当該箇所の記述は以下のとおり。
「スサノオの命は天照大神を訪ねていくが、何しろ気性の荒いスサノオは神殿に糞をするわ、天照大神の神聖な機屋に、馬の皮をはいで落とし入れるわで、ついに天照大神はおそれて天の岩屋にこもってしまう。すると、天も地も真っ暗になり、あらゆる災いが起こった。
そこで神々は策を考え、祭りを始め、常世の長鳴き鳥を鳴かせる。アメノウズメの命が、乳房をかき出して踊り、腰の衣のひもを陰部までおしさげたものだから、八百万の神はどっと大笑い。天照大神が不思議に思って、岩屋戸を少し開けたところをアメノタヂカラオの神に引き出され、岩屋には注連縄を張られてしまったので、ついに世界に光がよみがえった。
バックナンバー
第1回「古代史から現れたフェミニズム」
第2回「『日本書紀』にも捏造がある!」
第3回「漫画だから描ける、古代人の感覚」
慰安婦問題も、現在のコンプラ感覚で過去を裁こうという感覚による産物だったわけですが、たかが現在生きている自分が知っている感覚を絶対化して、自分の生きていない、知らない時代のことを上から目線で断罪してもいいのだというような、果てしなく思い上がった意識はもういい加減に消滅させないと、表現はどこまでも萎縮し、貧しくなってしまうと非常に危惧します。
明日もお楽しみに!!