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中東から日本に向かう11隻のタンカー:ホルムズ海峡の不安定化×石油輸送の多重化|渡邉英徳研究室

2026年4月30日 09:00 時点で,中東から日本を目指して進行中のタンカーを11隻確認しました。

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2026年4月30日 中東から日本に向かう11隻のタンカー

MarineTraffic上では,日本沿岸に到達した船,南シナ海・マラッカ海峡を進む船,アラビア海を東進する船,紅海を南下する船が,同時に表示されています。

内訳は,おおきく三つに分かれます。

  • UAE フジャイラ発:6隻

  • 紅海・地中海側経由:4隻

  • ホルムズ海峡経由:1隻

つまり,現在確認できる日本向けタンカーの多くは,ホルムズ海峡そのものを通過しているわけではありません。UAEのフジャイラ,サウジアラビアとエジプトの紅海側など,ホルムズ海峡の外側に位置する積地・中継地から,日本へ向かっています。

一方,サウジアラビアのRas Tanuraを出発した原油タンカー「出光丸」は,ホルムズ海峡を通過し,アラビア海側へ抜けました。これは,日本関係の大型原油タンカーが,選別的な通航秩序のなかで通過した重要な事例です。

ただし,11隻全体の分布を眺めると,いま起きていることは「ホルムズ海峡の正常化」とはいえません。むしろ,ホルムズ海峡の不安定さを前提に,日本向けの石油輸送が複数の経路へ分散し始めている,とみるべきです。

さらに,UAEがOPECおよびOPEC+から離脱するとの報道も重なりました。これにより,フジャイラ発の日本向けタンカー群は,単なる迂回輸送ではなく,UAEがより自律的な生産・輸出戦略を強めるなかで,アジア市場へ向けた供給を拡大している動きとしても読めます。

確認された11隻のタンカー

今回確認した11隻は,以下のとおりです。

  • 出光丸:原油タンカー/VLCC。Ras Tanura発,名古屋行き。ホルムズ海峡を通過した象徴的な日本関係船。

  • NEW GIANT:原油タンカー/VLCC。フジャイラ発,千葉行き。すでに日本沿岸に到達。

  • NEW PARADISE:原油タンカー/VLCC。フジャイラ発,千葉行き。NEW GIANTに続くフジャイラ発の後続船。

  • NEW PEARL:原油タンカー/VLCC。フジャイラ錨地発,名古屋行き。中京圏向けの大型原油輸送。

  • TRIKWONG VENTURE:原油タンカー/VLCC。フジャイラ発,四日市行き。香港船籍の大型原油タンカー。

  • ADAMANTIOS:原油タンカー/VLCC。サウジアラビア紅海沿岸のAl Muajjiz発,千葉行き。ホルムズ海峡を通らない紅海側の大口輸送。

  • ARGEUS I:原油タンカー。エジプトのAin Sukhna発,四日市行き。紅海・スエズ側から日本へ向かう中大型原油タンカー。

  • AL BATEEN:石油製品タンカー。アルジェリアのSkikda発,千葉行き。目的地欄に「ARM GUARD」と表示。

  • MINERVA ZOE:原油タンカー。Port Said Anchorageを最終出発地とし,「JAPAN FOR ORDERS」と表示。MarineTraffic上ではSkikda発・東京方面行き。

  • VESTA:石油・化学製品タンカー。フジャイラ発,堺行き。製品油・化学品系の補完輸送。

  • NAVE TITAN:石油・化学製品タンカー。フジャイラ発,千葉行き。同じく製品油・化学品系の輸送。

このうち出光丸NEW GIANTNEW PARADISENEW PEARLTRIKWONG VENTUREADAMANTIOSはいずれも,全長約330m級のVLCCです。喫水も19〜20m台と深く,MarineTraffic上でも「Laden」と表示されています。空船ではなく,実際に原油を積んだ状態で,日本へ向かっているとみられます。

出光丸:ホルムズ海峡を通過した象徴的なVLCC

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ホルムズ海峡を通過した「出光丸」の航跡

出光丸は,サウジアラビアのRas Tanuraを出港し,名古屋を目的地として表示しています。船種はCrude Oil Tanker,船籍はパナマ,IMO番号は9334210です。全長333m,幅60m,DWT 300,433トンのVLCC級原油タンカーです。

この事例は,ホルムズ海峡をめぐる状況を考えるうえで重要でした。海峡では,「通れる船」と「通れない船」が選別される秩序が形成されてきました。そのなかで出光丸が通過したことは,日本関係の大型原油タンカーにも,個別の条件のもとで通航の枠が開き始めたことを示します。

ただし,これは「ホルムズ海峡が全面的に正常化した」ことを意味しません。むしろ,個別に調整された例外的・選別的な通航であった可能性が高いと考えます。

フジャイラ発の船団:海峡外側のハブから日本へ

今回の11隻のうち,もっとも構造的に重要なのは,フジャイラ発の日本向けタンカー群です。

NEW GIANTNEW PARADISENEW PEARLTRIKWONG VENTUREVESTANAVE TITANの6隻は,いずれもUAEのフジャイラ,またはフジャイラ錨地を出発地として表示しています。このうち,NEW GIANT,NEW PARADISE,NEW PEARL,TRIKWONG VENTUREはVLCC級の原油タンカーです。

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4月30日 フジャイラから日本に向かう「TRIKWONG VENTURE」の航跡

フジャイラは,ホルムズ海峡の外側,オマーン湾側に位置するUAEの戦略拠点です。UAEはアブダビ内陸部からフジャイラへ原油を送るパイプラインを持ち,ホルムズ海峡を通らずに外洋側へ原油を出すことができます。

つまり,フジャイラ発のVLCC群は,ホルムズ海峡の通航リスクを避けながら,日本向けの原油輸送を維持するルートとして依然として機能していることを示します。

さらにUAEのOPEC脱退の報道を重ねると,この動きにはもう一つの意味が加わります。フジャイラ発・日本行きのタンカー群は,日本側が危機回避のために選んだ代替ルートにとどまらず,UAEが将来の輸出戦略を踏まえ,アジア市場へ向けて動き出したシグナル,としても読むことができます。

製品油・化学品,そして紅海経由のルートも動いている

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4月30日 南シナ海を航行する石油製品・化学品タンカー「VESTA」

フジャイラ発の船は,原油VLCCだけではありません。

VESTAはフジャイラ発・堺行き,NAVE TITANはフジャイラ錨地発・千葉行きです。いずれも表記は「Oil/Chemical Tanker」で,原油輸送というより,石油製品・化学品の補完的な輸送の担い手です。

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4月30日 紅海経由で日本に向かうタンカー4隻

また,紅海経由で日本へ向かうタンカーも確認できます。

ADAMANTIOSは,サウジアラビア紅海沿岸のAl Muajjizを出発し,千葉へ向かうVLCC級原油タンカーです。ホルムズ海峡を通らず,紅海からバブ・エル・マンデブ,アデン湾,インド洋を経て,日本へ向かいます。

ARGEUS Iは,エジプトのAin Sukhnaを出発し,四日市を目的地とする原油タンカーです。VLCCではありませんが,Suezmax級に近い船型で,紅海・スエズ側から日本へ向かう原油輸送の存在を示しています。

AL BATEENは,アルジェリアのSkikdaを出発し,千葉を目的地とする石油製品タンカーです。目的地欄には「JP CHB ARM GUARD」と表示されており,紅海・アデン湾のリスクを意識し,自衛措置を可視化しながら日本へ向かっている船とみるべきです。

4月30日朝,本稿執筆直前に,ギリシャ船籍の原油タンカー「MINERVA ZOE」も確認しました。Port Said Anchorageを最終出発地とし,目的地は「JAPAN FOR ORDERS」と表示されています。MarineTraffic上では,Skikda発・東京方面行きとして表示されており,地中海側の石油輸送がスエズ・紅海を経由して日本方面へ接続している事例とみられます。

シャドーフリート・制裁対象船ではないか?

これらのタンカーについては,シャドーフリート・制裁対象船が「日本行き」を自称している,という可能性も考えられます。ただし公開情報を確認した限り,明確な制裁対象船として確認できるものは見当たりませんでした。また,シャドーフリート的な特徴もみられません。

VesselFinderで確認できる範囲では,船主・管理会社・P&I保険・船級が比較的明瞭です。

船主と管理会社

  • 出光丸:Idemitsu Tanker

  • AL BATEEN:ADNOC Logistics & Services

  • ARGEUS I:Capital Ship Management

  • NAVE TITAN:Navios Tankers Management

  • TRIKWONG VENTURE:Wah Kwong Ship Management

  • ADAMANTIOS:Dynacom Tankers Management

P&I保険や船級も,Japan Ship Owners’ P&I,UK P&I Club,West of England,North of England,Skuld,Lloyd’s Register,Nippon Kaiji Kyokai,Bureau Veritas,DNV GLなどが確認できます。

一般に,制裁回避に使われるシャドーフリートでは「AISを長時間切る」「虚偽書類の使用」「頻繁な船名・船籍の変更」「不透明な所有構造」「古い船齢」「STSの多用」といった特徴がみられます。今回の11隻には,2010年前後に建造された船も含まれますが,ADAMANTIOSは2022年建造,ARGEUS Iは2025年建造と新しく,MINERVA ZOEも2019年建造です。

もちろん,これは「リスクが絶対にない」という意味ではありません。さらに精査すれば,追加的な情報が出てくる可能性はあります。

ただ,現時点で得られたデータによれば,今回の11隻は,少なくとも典型的な制裁回避の船団・シャドーフリートとはいえません。むしろ,従来の石油輸送の枠組みの範疇で,日本向けの配船が多重化している,とみるほうが自然です。

おわりに:正常化ではなく,多重化

これら11隻の到着地を見ると,日本側の受け入れ地も分散しています。

千葉,名古屋,四日市,堺。最新のMINERVA ZOEは「JAPAN FOR ORDERS」ないし東京方面行きとして表示されています。つまり,東京湾,中京圏,四日市,関西圏という,日本の主要な石油・石化拠点に向けて,複数の船種・複数の積地からタンカーが向かっているのです。

ホルムズ海峡をめぐる情勢は,依然として不安定です。すべての船が自由に通れる状況に戻ったわけではありません。海峡では引き続き,どの船が,どの属性を示し,どの文脈に属するかによって通航可否が左右される,選別的な秩序が続いていると考えられます。日本向けの石油輸送は,その不安定さを前提として再構成されつつあるようです。

もちろん,出光丸のホルムズ通過は象徴的なできごとです。しかし,より大きな構造として,フジャイラ発・紅海のサウジアラビア側・エジプト側からの原油タンカー,アルジェリア・地中海側からの石油製品・原油タンカー,そして日本における複数の受け入れ港への分散が,同時に進んでいます。

いま起きているのは,ホルムズ海峡の「正常化」ではなく,日本向けエネルギー輸送の「多重化」と考えられます。

ホルムズ海峡を通る船,海峡の外側から出る船,紅海側から向かう船,地中海側から来る船。それぞれの動きを重ねることで,危機下における石油輸送の新しい姿がみえてきます。今後もデータをもとに考察を重ねていきます。

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いち早くの情報ありがとうございました。

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モカ

テレビ、Twitterなどでいつも最新の情報ありがとうございます。 石油関連製品の欠品という最悪の事態は少しずつ回避出来そうになってきてうれしいです。

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1974年生。東京大学大学院情報学環教授。「ヒロシマ・アーカイブ」「忘れない:震災犠牲者の行動記録」「ウクライナ衛星画像マップ」などを制作。著書に『データを紡いで社会につなぐ』『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』『戦中写真が伝える 動物たちがみた戦争』など。
中東から日本に向かう11隻のタンカー:ホルムズ海峡の不安定化×石油輸送の多重化|渡邉英徳研究室|渡邉英徳
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