スクープ/「みんなで大家さん」まで介在!/KDDI「循環架空取引」の仰天

2026年5月号 DEEP
by 高橋篤史 (ジャーナリスト)

KDDIの松田浩路社長(YouTubeより)

KDDIは3月31日、一連の不正会計問題に関し外部弁護士らによる調査報告書を公表した。それによれば、子会社のビッグローブと孫会社にあたるジー・プランを舞台に行われていたウェブ広告の架空循環取引は想像を絶する巨額の規模だった。ほかに21社が介在し、7年余りの間における取引総額は1兆円前後にも上っていたのである。

自転車操業の中継点

本誌は2月18日付号外速報で介在企業のうち主要3社を特定しているが、それらの役割も今回明らかになった。3社とは東京・西日暮里の広告代理店「TY」、大阪市の同じく「KOTONA」、それに東証グロース上場のバリュークリエーション(以下、バリュー社)である。固有名詞が匿名処理されている公表版の調査報告書中、「C社」がTY、「G社」がKOTONA、「H社」がバリュー社をそれぞれ指すと見られる。

これらのうち架空循環取引の当初から介在していたのはバリュー社とされる。不正行為の発端は、中途入社後に広告代理事業を立ち上げたジー・プランの担当社員(最終役職は部長、懲戒解雇)が数十万円の赤字を穴埋めするため思いついた邪な考えだ。この時、相談した先がバリュー社の取締役だった。2人は以前、同じ職場で働いており、少し前に担当社員はバリュー社が運用型広告に強みを持っていると聞かされていた。下流代理店(ジー・プランから見て発注先・買掛先)に入ったバリュー社はタネ銭の出し手を引き受け、ジー・プランと以前から取引があった上流代理店(同じく発注元・売掛先)にそれを流した。こうして3者間を架空の広告枠がぐるぐると回る循環取引が始まる。2018年8月頃のことだ。

露見を防ぐため介在企業の数は増えていった。上流代理店にTYが入ったのは22年3月頃、下流にKOTONAが入ったのは23年1月頃とされる。とはいえ、当時の取引規模はせいぜい年間で数十億円程度。それが飛躍的に膨張したのはビッグローブの事業参加と、それに伴う潤沢なグループファイナンスによるものだった。

もともとはポイント事業が主力のジー・プランが「Grep」と称し手掛ける新規事業の成功(実際には架空だが……)を見た親会社ビッグローブは22年暮れ、本業のインターネット接続事業が頭打ちとなる中、自らも「Brep」と称し広告代理事業に参入した。この時、ジー・プランの担当社員とその部下はビッグローブでの役職も兼務する形だった。要は、成績優秀な2人に対しビッグローブの事業基盤をテコとして与え、取引規模の拡大を狙ったわけだ。

架空循環取引はそれが正常なものと装うため、取引額に見合った資金を流す必要があるが、この時、役立ったのが総元締めのKDDIによるグループファイナンスだった。グループ内の余剰資金を集め、需要のある子会社に貸し付ける仕組みだ。ビッグローブは従来からそれを利用していた。またとないテコを手に入れたことで、架空循環取引には数百億円ものニューマネーが流れ込むこととなる。

他方、架空循環取引に当初から参加していた上流代理店の1社が23年頃に抜けたことでTYの役割は増大していった。下流ではバリュー社が継続して取引に参加し続けたが、むしろ比重を増したのがKOTONAだった。同社の取締役は妻の経営先などを新たな介在企業として紹介しており、結果的に悪事の露見を防ごうとする仮装工作に加担していたことになる。

じつはその後の取材により、23年頃、意外な会社が上流代理店として加わっていたことが今回判明した。昨年来、元本償還の遅延で社会問題化している不動産投資商品「みんなで大家さん」のグループ会社「都市綜研インベストバンク」(以下、バンク社)がそれだ。調査報告書中の「E社」である。取引額は約270億円とされる。

きっかけはTYの役割が増大したのと似ていた。当初からの上流代理店が自身の撤退の穴埋め役としてジー・プラン社員に紹介したのである。バンク社が属する共生バンクグループの広報担当者は一連の経緯についてこう述べる。

「大手企業の正当な業務と判断し、都市綜研インベストバンクの信用を供与する形で引き受けた。しかし、ジー・プランから『諸般の事情』を理由に取引終了の申し入れがあり、昨年11月に終了した。同社向け債務は紹介者の関係先に免責的に引き受けてもらった」

バンク社はグループ内で主に土地の仕入れを担う会社。そんな中、かねて話題の成田空港案件では安値で取得した山林原野をファンド組成会社の「都市綜研インベストファンド」に次々と高値で売却。投資家からの出資金が一時的に貯め込まれる役割だったわけで、その証拠に決算公告によれば、25年3月末の株主資本はじつに2203億円に上る。もっとも、同社は同時に各社への資金供給役でもあり、それら資金が回り回って分配金支払いや元本償還に充てられてきた。いずれにせよ、件の架空循環取引において介在企業として白羽の矢が立ったのは、自転車操業の中継点に過ぎなかったにせよ、その資金力だったようだ。

不正取引累計額「約1兆円」

KDDIが取引の膨張に不審な点を感じ始めたのは昨年2月19日のこととされる。経営戦略会議の場で髙橋誠社長(当時)は「コンプライアンス的に問題ないか」などと発言したという。その後、監査役などが社内調査に乗り出したが不正は発見できなかった。ただ、取引に制限をかけたことで架空循環取引は行き詰まる。最終的には昨年12月15日に予定されていたTYからジー・プランへの支払いがなされず、観念した担当社員は自白を始めたという。この時の決済額は824億円。一度にそれほどの巨額資金が不正取引の環の中をぐるぐると巡っていたわけだ。広告代理事業の収益はほぼ全てが架空だった。

一連のジー・プランとビッグローブによる入出金額からすると、不正取引の累計額は約1兆円にも上る。今回、架空取引によって水増しされていた売上高の取り消し額が2461億円にとどまるのは、多くの取引について売上高の認識を純額(手数料相当分)で行っていたためだ(ビッグローブではすべて純額表示だった)。他方、営業利益の取り消し額は499億円。これはとりわけビッグローブにとって致命的なものだった。水増し利益がなければ、実態は赤字。しかも24年3月期以降は債務超過だったからである。17年に約800億円でビッグローブを買収していたKDDIは今回、646億円の減損損失を余儀なくされた。

そのあたりの事情こそ、不正が長期間にわたり見過ごされてきた謎を解くカギではなかろうか。

調査報告書は不正行為に手を染めていたのは担当社員2人だけだったとし、周囲が気づけなかったのは仮装・隠蔽工作が巧妙だったからと結論づけている。20年に設立されたばかりのTYとの取引額は累計9000億円余りに上っていたが、その異常さは問題にされなかった。上役がTYの社長に抱いた感想は「かなり若い人物」といった程度だ。広告代理事業は当時、ビッグローブの浮沈を左右するものだった。詮索すると取引先が離れるといった担当社員のその場凌ぎの嘘がまかり通ったのは、見かけ上、収益が急伸していた同事業が、それゆえアンタッチャブルになっていたからではなかったか。

不正取引を巡っては今後、介在企業に対する約330億円に上る流出資金の回収や個人流用の有無などが民事刑事の両面で問われることになりそうだ。調査報告書で迫り切れなかった真実はそこで明らかにされるのかもしれない。

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著者プロフィール

高橋篤史

ジャーナリスト

『ペテンに踊る』(宝島社)など著書多数