(Re:Ronピックアップ)不公正な性差別、許したくない 弁護士・太田啓子さん「私の一歩」
半世紀前のアイスランドで、女性の9割が仕事や家事を一斉に休み、女性の地位向上を訴えたムーブメント「女性の休日」。そのドキュメンタリー映画の公開を機に、日本でもアクションが広がりました。Re:Ronでは、ジェンダー平等を目指す女性たちへの聞き書き特集「私の一歩」を配信。DVや離婚案件に弁護士として関わる太田啓子さんが、自身の一歩と、3月のアクションについて語った回を紹介します。
「私の一歩」と聞いて思い出すのは、小学校での場面です。体育ではかされたブルマ。男女同じ教室での着替え。身体測定は下着姿で待たされたこと。本当にいやだった。今振り返ると、性的な尊厳、プライバシーを侵害する暴力だったと思います。
当時の大人の言葉による苦痛も、記憶にあります。中学生のとき、理科の授業で教師が「洗濯物が乾きやすいのはどんな条件か。女の子もわからない?」。まるで「女子は男子よりも家事をしているから詳しい」とでも言いたげで、性別役割の押しつけを感じ、とてもいやだとも感じたのを覚えています。
そんな子ども時代の記憶もあり、大学では法学の知識を身につけました。その知識を、性暴力・性差別によって尊厳を削られた人を守るための力にしたかったからです。
大学3年生で司法試験の勉強を始め、20代半ばで弁護士として働き始めました。結婚と息子2人の育児、パートナーとの離婚を経て、離婚事案を多く担当しているとこう思います。
社会全体のジェンダー格差が家庭にも入り込んで、女性が尊厳や本来の自分らしさ、生活を削られてしまっている――。
離婚事案に関わり続けるのはそこにある性差別を許したくない思いがあるためです。
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映画「女性の休日」を見たとき、「これは今の日本だ」と思いました。女性たちが1975年当時を振り返り、日々の抑圧を語ります。家庭のケア役を担わされ、将来の夢も制限され、男性よりも賃金は安く……。
映画に関連する記事で読んだ、アイスランド女性権利協会の人の言葉「心の底からインジャスティス(不公正)だと思った」は、子どもの頃から感じていたことに重なりました。同じように感じる人はたくさんいる。声をあげれば社会を変えられるはず、と背中を押されました。
思い起こしたのは、2025年夏の参院選のとき、横浜の街頭でのスタンディングです。参政党の党首が「子どもを産めるのも若い女性しかいない。高齢の女性は子どもは産めない」と発言し、「産む存在」であることに女性の価値があるように述べた差別的な言葉へ抗議を示す行動でした。参加者らにマイクを回し、自身がどう党首の発言を受け止めたか、自身の経験や思いを語ってもらう。傷を語り、聞く場ができていました。
映画に背中を押された人たちと企画したのが、3月6~8日の日本版「女性の休日」アクション。全国で一斉に、街頭でのスタンディングやリレースピーチを呼びかけました。SNSではそれらの投稿を共通のハッシュタグで一覧できるようにもしました。女性差別のある今の社会に対して、似た思いをしている人々が全国各地にいることを示したかったのです。
インジャスティスや、傷ついた経験を言葉にして聞き合うことで、つながりは広がっていきます。
米ハーバード大の研究でも、コミュニティー・オーガナイジングといって、「Self(自分自身)」「Us(私たち)」「Now(いま目の前にあること)」の語りの手法が、仲間を増やしていく、連帯につながる効果があると言われています。なぜ自身が生きづらさを感じるのかを自身の経験と思いを語る。そして、語るひとと聞くひとの間に「私たちの問題でもある」という共感につながるという風に。自分語りを深めることこそ社会を変える種なのです。
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しかし、つながることの難しさは映画のなかでも描かれました。一斉に職場や家事から離れるアクションを「ストライキ」と呼ぶことに保守派の女性たちが反対し、折衷案として「休日」と呼ぶことに落ち着く場面です。
今の日本にも似た壁を感じています。経済格差や結婚の有無、子どもがいるか、性自認のありかた。女性といってもそれぞれの日常や抱える生きづらさは多様です。
近年は女性差別や暴力への抗議を語りつつもトランスジェンダー差別に基づいた言動を目にします。トランスジェンダー当事者らに対して「女性ではない」「女性のスペースが脅かされている」など、差別的な投稿がSNSでぶつけられているのも見かけます。こういう言動で女性が分断されてはならない。
分断を乗り越える、差別に加担しない方法の一つは「正しく知る」ことだと考えます。ネット上の根拠の薄い言説に惑わされず、事実に基づいた知識を学ぶこと、当事者の書いた本、伝えたいメッセージ、勧める記事を読み、知ろうとしたい。知らないがためにマイノリティーを差別し、傷つけないように。
私は、人権が守られる社会を次の世代に残したい。
人権は守られているか。ジェンダーは是正されているか。社会の仕組みや法律そのものにジェンダーの観点で問題はないか――。そんなことを今後も考え、行動したい。
「女性の休日」に出てきた女性の言葉も忘れずに。
「最初は無視され、笑われ、けんかを売られ、最後に勝つ」(構成・高室杏子)
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おおた・けいこ 1976年生まれ。2002年に弁護士登録。現在は、神奈川県の法律事務所に所属。著書に「これからの男の子たちへ」(大月書店)など。
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Re:Ron(リロン)ピックアップ
◆記事全文はQRコードから。Re:Ron特集「私の一歩」では、映画「女性の休日」に背中を押されて「日本でも」と、アクションを起こした多くの女性たちから、4人のインタビューを配信しています。
◇「Re:Ronピックアップ」は原則、第4火曜日に掲載します。
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