国民の病歴が中国のネット上で売られてる! 50万人分の医療データが流出、匿名化の神話は通用せず
流出したのは50万人分の遺伝子や疾患情報が含まれる大規模なデータセットだ【木村正人(国際ジャーナリスト)】
[ロンドン発]英国のデジタル政府とデータを担当するイアン・マレー閣外相は4月23日、下院で、ボランティアから提供されたデータを提供する独立系非営利団体UKバイオバンクの医療データが中国の電子商取引プラットフォーム「アリババ」に漏出していたことを確認した。 【動画】中国のウェブサイトで販売されている50万人の英国人の医療データ…一体何が起こっている? マレー氏は「UKバイオバンクのデータに対する容認しがたい不正利用であり、研究目的でデータを提供する参加者が当然期待する信頼を裏切る行為だ。政府は事件を極めて深刻に受け止めており、UKバイオバンクが対応するのを迅速に支援する」と述べた。 UKバイオバンクのデータは患者の健康増進につながる重要な研究のため世界中の研究者と共有されている。心臓病やがんリスクに影響を与える遺伝子の発見、認知症の新たな予測方法の特定、がんの早期兆候の発見、パーキンソン病の早期発見に向けた取り組みも含まれる。
漏洩元として特定された研究機関のアクセス権を取り消す
UKバイオバンクのデータを販売していると思われる出品が3件確認された。少なくとも1つにはUKバイオバンクのボランティア参加者50万人全員のデータが含まれている。その他の出品ではデータへのアクセス権を持つ研究者向けの分析サポートが提供されていた。 UKバイオバンクの説明では、これらのデータには参加者の名前、住所、連絡先、電話番号は含まれていない。英国政府は4月23日、当該業者に連絡を取り3件の掲載情報を削除させた。削除される前の購入はなかったとの回答も得たという。 UKバイオバンクはデータの漏洩元として特定された研究機関のアクセス権を取り消した。英国政府は同様の方法でデータがダウンロードされることを防ぐため技術的な解決策を講じるまでデータへのアクセスを一時停止するようUKバイオバンクに要請した。
「オープンサイエンス」の前提になる「匿名化」
ケンブリッジ大学公衆衛生・プライマリーケア学部のジョン・ダネシュ教授は「UKバイオバンクは英国科学の至宝であり、医学的発見のため他に類を見ない強力なリソース。おそらく世界で最も価値のある大規模な生物医学データセットだ」と解説する。 今回のデータ漏洩について、欧州分子生物学研究所のイーワン・バーニー教授は「データセットは徹底的に匿名化されており、UKバイオバンクと中国当局は迅速に対応したが、それでもなお懸念すべき事態だ」と指摘する。オープンサイエンスの前提になっているのが匿名化だ。 しかしオックスフォード・インターネット研究所のリュック・ロシェ准教授は「これは昨年夏以降、UKバイオバンクのデータ漏洩が確認された198件目の事例。UKバイオバンクのデータは販売されているだけでなく、オンラインで誰でも閲覧できる状態にある」と語る。