P「自分がアイドルとお忍びパーティーに同行ですか?」
夏葉、千雪、美琴の成人組を取り上げた越境的なラブコメ?のような話を書きました。
思いつきのシチュをつらつらと書いていて、あれもこれもと欲張った結果、本作が出来上がりました。
駄文・怪文書ですが、エンタメ二次創作として楽しんでいただけると嬉しいです。
【余談】
処女作のあさひSSを前回のシャニマス投稿祭に寄稿してから約1年弱が経ち、これまで数々の作品を投稿し続けられたのは閲覧や評価下さった皆様のおかげです、本当にありがとうございます。
『第5回シャニマス投稿祭』が盛り上がることを切に願い、本作にタグ付け致します。
日頃からすき!、いいね!、ブクマをありがとうございます!
作品へのコメント等もいただけると作者が大喜びします。
Twitterやマシュマロも宜しければどうぞ。
投稿は不定期ですが、ごゆっくりお付き合いくださると嬉しいです。
㊗️2022/07/16の[小説] 男子に人気ランキング8位
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「すいません、社長……もう一度伺っても宜しいですか?」
「知り合いの社長の息子が主催するパーティーの招待を受けている。283プロのアイドルを何人か呼んで欲しいという強い希望があって……関係上、無下に断る訳にはいかなくてな」
「……はぁ、それは理解出来ますが」
「アイドルたちだけでなく『お前』にも付き添ってもらいたい……理由は必要か?」
「……出来ればお聞かせいただけると」
「最近は色々とコンプライアンスがうるさくてな」
「あー、スキャンダルや不祥事、揉み消したはずの証拠がめくられたり……」
「それもあるが……一番はお前自身の有給消化が全く出来ていない件だ」
「ははっ、そっちですか」
「笑い事じゃないんだがな。まぁ、たまの一日ぐらい羽……翼を伸ばすぐらいしないと会社として困る」
「さすが社長! 上手い例えですが……自分で宜しいのですか?」
「既にお前の名前で先方に了承を得ている。昼間からの招待だが酒も提供されるらしい。万が一も考えて、アイドルは未成年じゃなく、成人組のみでアサインするように、はづきには伝えてある」
「なるほど……わかりました。その他に注意事項とかはありますか?」
「……そうだな。こちらで荷物は予め用意しておくから、軽装で構わないぞ」
~~~~~
当日を迎え、俺は現地に向かうべく事務所からアイドルを乗せた社用車のアクセルをゆっくりと踏み込む。社長が用意した荷物類は一つのトランクにまとめられ、はづきさんが事前に積込を済ませてくれていた。出発前に中身を聞くと、はづきさんは笑顔で首を振り「その時になればわかりますよ~」と教えてくれなかったのが少々気がかりだが。
「プロデューサー! パーティーって聞いているのだけれど、こんな昼間からやるのかしら?」
後部座席の夏葉は口元に手を置いて目を細めて呟く。
「あぁ。みんなの携帯宛にも社長からのメールは届いてるよな?」
俺はミラー越しに後部座席の三人に向かって携帯を見せる。
「はい。私の名前が入ったQRコードのメールですよね」
「……これのことかな」
「えっと……美琴さん、それで合ってますよ」
千雪が美琴の携帯の画面を覗き込みながら頷いていた。
「私も受け取ってるわ。けど二人は詳細な説明とか聞いたかしら?」
千雪も美琴も揃って肩を竦めていた。社長からは「社長の息子のパーティー」で「羽を伸ばしてこい」といった漠然とした情報のみで、俺自身も何も聞かされていない。
夏葉は俺の表情で意味を察したのか、少し不安げに視線を外に向けていく。
「でも『仕事と考えずに楽しんできてくれ』ってメール文に書いてありましたよね」
「……そうだね。私はレッスンのしすぎで『強制参加』って」
「あら、私も『普段のパーティーと違うから気兼ねしなくていい』ってあったわね」
どうやら社長からのメール文章はそれぞれ三人で内容が違っているようだ……あれ、俺のメールにも何か書かれてたような。
「おっと……皆、そろそろ着くぞ」
道路の先には豪邸特有の大きな正門の隣に守衛が立っていた。ゆっくりと車を正門に近づけ、窓を開けると愛想の無い大柄な男性にぎろりと睨みつけられる。
「ははっ、どうも。えっと、283プロの……」
「四人分のIDを」
「あ、はい。これと……おっと、皆も用意してくれるか」
無口な男性は窓ガラス越しに手元の機械で全員の携帯画面を読み込ませ、どこかに電話を掛けながら全員の顔を確認しているようだ。
「認証しました。それでは先にお進みください」
「……どうも」
男性の軽い会釈と共に大きな門が開く。車をゆっくりと走らせていくと、敷地が広いせいか豪邸までは道路がまだ続いていた。
「ここ……大丈夫なのかしら」
「まぁ、社長の知り合いだし……多分、大丈夫だと思うけど」
とはいえ、少し想像と違っている部分は否めない。俺自身がこういったパーティーに招待された経験が少ないから、金持ちはこういうものなのかと勝手な解釈を交えていたが、辺りを訝しむような夏葉の様子を見る限り、特殊なケースなのだろう。千雪も美琴も同様に窓の外をチラチラと見回している。
奥にそびえたつホワイトハウスのような外観の豪邸が目前に近づいてくると、道端から執事の恰好をした人影が両手を挙げていた。
「ようこそ、お越しくださいました。283プロ様ですね」
「あ、はい」
「こちらで車をお預かり致しますので……キーをお借り致します」
言われるがまま、荷物をトランクから取り出してキーを預けると、今度は空港にあるようなアーチ型の金属探知機へ案内される。
「携帯電話やカメラ・通信機器の持込はご遠慮いただいております……ご帰宅時にお返し致しますので」
仕方なく、四人ともポケットや手荷物から携帯等を預けていく。どうやらセキュリティはかなり厳重なようだ。俺はトランクを引きつつ、三人を連れて豪邸へ向かって歩き出していく。
玄関らしき入口では、別の使用人から四人分の同色のリストバンドを手渡され、その場で装着を促された。
「パーティーの参加者である目印なので、会場内では外されないほうが宜しいかと……」
「……プロデューサーさん。これって宮沢賢治のお話みたいじゃないですか?」
「ははっ。確かに『注文の多い料理店』みたいだな」
千雪の不安そうな問いかけに、俺は明るく振舞おうとするものの、内心は穏やかじゃない。
「もし、そうだとしたら……私たちは」
「……食べられてしまうってことかしら?」
美琴と夏葉の呟きに背筋がゾクッとした。「いやいや、そんな訳ないだろ」と答えようにも言葉が出ず、トランクのキャリーを引く手が強張ってしまう。
古風なメイドの格好をした使用人の女性に上階の客室へと案内される。室内は高級ホテルのような内装で、当たり前だが非常に広々としていて、ダブルベッドが二つ備え付けられていた。
全員で室内を見渡していると「お着替えはどうされますか?」とメイドに質問されてしまう。
「着替えなんて持ってきてたかしら?」
「ちょっと待ってくれ。もしかしたらこの中に……」
案の定、俺は手元にあったトランクの鍵を外すと、それぞれの名前が記載された小さな紙袋が出てきた。着替え一式にしてはやけに袋が小さいなと不思議に思いつつ、自分の名前が書かれた紙袋を開けると、トランクス型の水着が顔を覗かせる。
「どうやら持参されているようですね。お着替えが済みましたらご案内致します」
メイドが扉を閉めていくと同時に、三人の視線は一斉に俺の手元の個々の名前がついた紙袋に降り注ぐ。手に取った紙袋の中を見て、千雪は顔を赤らめ、美琴は遠い目を、夏葉はなぜか余裕しゃくしゃくな表情だ。
「あ……とりあえず、俺はトイレで着替えるよ。終わったらノックしてもらえるかな……」
しばらくして、ノックの音で扉を開けると、室内には水着姿の三人が立っていた。案の定、ビキニ型の水着を着用して白・黒・赤とそれぞれ色もバラバラだ。パッと見で布面積は少なく大胆な印象だった。恥ずかしがる千雪に、腕を組んで仁王立ちの美琴、胸を張って腰に手を添えた夏葉に咄嗟に俺は顔を背けてしまう。
「……これのことだったんですね、昨夜のはづきの連絡」
「そうだね。言われた通り、処理しておいて……よかったかも」
「そうなの? 私は普段から処理済みよ」
三人がヒソヒソと小声で話している中、俺は再度トランクの中身を確認していった。
「キャップにサングラス、サンダル、薄手のパーカー……日焼け止めもあるな。一応、羽織るものもあるし準備は……」
各々が必要そうなものを手に取り、準備は万端だと三人が頷くのを確認する。廊下に出ると、また別の執事らしき人が直立不動で待機していた。「ご案内致します」と導かれ、後についていくと、軽快な音楽がうっすらと聴こえてくる。
「すいません。ここのパーティーってどういう……」
「283プロの皆さんは初めてですね。もし、至らぬ点がありましたら、いつでもお気軽に御用命ください」
「……それはどうも」
中庭へ通じた扉の前で執事は立ち止まり、扉に手を掛ける。先程から聞こえる軽快な音楽は、より一層大きく鼓膜を刺激していた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ」
~~~~~
頭上からじりじりと照り付ける太陽光に目が眩む。真っ先に視界に飛び込んできたのは大きなプールと、周りをぐるっと囲むように騒ぐ若者の群れだ。『パーティー』というよりは『クラブ』や『フェス』という言葉に近い。
プールサイドのDJブースの横に備え付けられた大きなスピーカーからは爆音が響き、音を全身で感じるように飛び跳ねる若い男女の手にはアルコールの瓶が握り締められていた。
装飾に散りばめられた中庭の隅々にまで人が埋め尽くされている状況は、毎年のハロウィンで特集される都内を彷彿とさせる。違いとしては全員の仮装が共通して『水着』といったところだ。
「これは、凄いな……」
「うん。でも、なんだかこういうところって……」
美琴が伏し目がちに俯いてしまう。騒々しくて、苦手に感じても仕方がない。
「美琴。もし嫌なら無理せず客室に戻ってもいいからな」
「あ、ううん。そういう訳じゃなくて」
「……美琴? うわっ、奇遇~!」
目の前を通りかかった女性二人がサングラスを外して、自分の顔を指差しながらニコニコと笑っていた。
「あ、久しぶり。来てたんだ」
「時々だけどね。こっちの人は……彼氏?」
「ううん。私たちのプロデューサーで、こっちの二人は……」
美琴に紹介され、千雪と夏葉と一緒に会釈すると、相手は昔から仲のいいダンサーの友人らしい。
「美琴、あっちに他のダンサーの友達もいるんだけど、よかったら寄ってかない?」
「あ、えと……」
美琴の視線に頷いて「俺たちはぐるっと見て回るさ」と付け加える。ホッとした表情でダンサーの子たちと連れ立って歩いていくのを見送る時、なぜか変な違和感を覚えてしまう。
その時、突如として腕に柔らかな感触がした。
「プロデューサーさん。あっちにバーがあるみたいですよ!」
「プロデューサー。早速、行くわよ!」
「お、おう……それじゃ行こうか」
両腕をがっちり千雪と夏葉に掴まれ、抜け出せそうにない。ぐいぐいと引きずられるように、プールサイドの賑わう人混みに向かって歩き出していく。
ごった返す人混みをかきわけるように進むと、南国のリゾートをイメージしたようなバーカウンターが目に入った。丁度、三人分の空いた席に腰を下ろすと、ウェイターからオーダーを聞かれてしまう。
「プロデューサーさん、夏葉ちゃん。一杯目はどうしましょうか?」
「あーっと……そうだな」
「任せて頂戴。マルガリータを三人分貰えるかしら」
メニューを探す間もなく、夏葉が代わりに注文を行い、てきぱきとカクテルが準備されていく。乾杯の合図と共に一斉に口に含む。甘味とグラスのふちについた塩味が鼻からすっと抜けていくようだ。
「わぁ、美味しい~」
千雪が頬を押さえて余韻に浸るのも理解できる。まるでリゾート地に来たかと錯覚するぐらいだ。
「でも、すごく広いわね。まだ奥のほうに他のプールもあるし、あれはゲストハウスかしら?」
夏葉が指差した人混みの先にはウッドロッジの建物が見える。人が出入りを繰り返している様子から開放されているのだろうか。
「凄い規模のパーティーだよな。さっきから通り過ぎる人達も業界人や芸能人ばかりだし」
「社長のおかげかしらね……あ、ピニャコラーダをいただけるかしら」
「私はマティーニでお願いします」
早速、二人はグラスを空にして、おかわりを頼んでいく。
「そうだな、俺は……」
「お、283プロさん?」
ガタイのよい小麦色の肌をした男性から声を掛けられる。男性がサングラスを外した際に、切れ長な目でじろりと見つめられてしまった。
「あ、はい。283プロのプロデューサーの〇〇と申します」
「あはは、プロデューサーさんか。驚いたよ、綺麗な彼女を二人も連れている男がいると思ってさ」
「ははっ……いえ、そんな。えっと……」
「俺はこのパーティーを仕切ってるボンクラ息子の親友さ」
「ご友人ですか。こっちは弊社アイドルの桑山千雪と有栖川夏葉で……」
挨拶をする二人に対して、小麦色の男性は手をひらひらと振りながら飄々とした様子だ。
「あ、二人とも楽しんでいってね。疲れたらあっちのゲストハウスとか、いつでも好きなように使っていいらしいからさ」
「ありがとうございます。ところで、その息子さんはどちらに?」
「そうだね……プロデューサーさんだけなら案内出来るよ」
「自分だけ……ですか?」
「ちょっと事情があってさ。そっちの二人は、その間色々とその辺を見て回ってくれると助かるな」
~~~~~
千雪と夏葉に断った上で俺は席を立つ。小麦色の肌の男性と共に連れ立ってプールサイドを歩きだす。先程のバーカウンター周りの喧騒から離れ、奥に向かっていく。見るからに『関係者』専用といった見た目のゲストハウスの前で手招きされる。
「ここは、そのボンクラ息子と仲良し友達だけ……いわゆるVIP専用ね」
ゲストハウス内は照明を落とし、ミラーボールが反射する中で少人数の男女が室内で踊っていた。外より人数も少ないが、決定的に違うのは女性が水着どころか一糸纏わぬ姿でいることだ。「あれ、コンパニオン。どっかのグラドル……だったかな」と呟くのを聞き、どうも落ち着けそうな空間ではないと感じる。
室内の奥のカーテンで仕切られたソファー席に通されると、眼鏡を掛けて落ち着き払った様子の男性が深々と座っていた。
「あ、283プロの〇〇です。本日はお招きいただきまして……」
「あー、そういう堅い感じはいいって。こいつにはもっとくだけた感じでさ」
「え、はぁ」
隣に腰を下ろした小麦色の肌の男性がそう呟くと、テーブルの上のボトルからグラスになみなみと酒を注いでいく。眼鏡の男性は黙りこくったままだ。
「まぁプロデューサーさんも、とりあえず乾杯しようぜ」
「い、いただきます」
「……」
三人でグラスを持ち、乾杯と共に中身を口に含む。ストレートでグラスを空にした二人に倣って一気に中身を飲み干すと、喉の奥から胃に向かってアルコールが流れていくのがはっきりと感じる。早速、空いたグラスに補充していく様を横目に、俺は目の前の眼鏡の男性へと向き直る。
「あの、招待をありがとうございます。という挨拶だけしに来まして……」
「プロデューサーなんだっけ……三人の中で誰だったらいいの?」
「は?」
「君が連れてきた三人のアイドルのことだよ。誰ならいいのかな……もしくは全員とか?」
「えっと、いいというのは……」
再度、注がれたグラスを持って「それじゃ、乾杯」と合図に一斉に二人はグラスを空けていく。勢い任せでぐいと一気に飲み干した瞬間、視界がぐらついてしまう。
「いいってのは……芸能事務所の人間ならわかるだろ? そういう意味さ」
「プロデューサーさんも、あの子たちならいいと思って選抜してきたんだろ?」
「それは……」
そういう意味で連れて来たんじゃないと……そもそも俺が選抜した訳じゃないことを、この二人に説明しても無意味だろう。もともと、『そういうこと』が一部で蔓延っている業界だということは重々承知しているし、283プロ自体は業界でも大手の事務所ではない。ここで断ることは彼女たちの今後の芸能活動に大きな支障をきたしてしまうことも、酔いが回った頭でも十二分に理解出来る。
「……」
「プロデューサーさん。沈黙は肯定ってことでいいのか?」
「……おい、三人とも呼んで来てくれるか」
小麦色の肌の男性が腰を浮かそうとテーブルに手をついた瞬間、俺は覚悟を決めた。
それは単なる俺のエゴで、彼女たちのこれからの人生を含めて、全てをこの場で決めることだ。
「おい……座れ。まだ俺は『いい』なんて言ってないぞ」
俺はそう吐き捨てて、テーブルの上の瓶に直接口をつけ、中身を全て体内に流し込んでいく。
「……一人でも駄目に決まってんだろ。うちの事務所……283プロはそういうことは一切しない。俺が担当する限り、彼女たちに指一本でも触れさせやしないからな」
呆気に取られたのか、目の前の二人ともが何も言わず押し黙ってしまう。やばい、言い過ぎたか。いや、もう謝罪したところで取返しもつきそうにないか。本当……社長にも申し訳が立たない。
「……はははっ! プロデューサーさん、あんた最高だな」
「え……」
「冗談冗談。そんなことはこっちも求めてないさ」
小麦色の肌の男性が腹を抱えて笑う中、眼鏡をした男性も口角を上げて笑い出す。
「……坊ちゃん、もう宜しいですか?」
「あぁ。さすが天井さんのお気に入りだな。気に入ったよ」
眼鏡の男性は仰々しく小麦色の肌の男性へと会釈し、席を離れていった。
「騙すようなフリをしてすまない。あの状況で頷いたり、所属アイドルをアテンドするようだったら、出禁にするつもりだったけど、283プロさんは誠実な事務所で安心したよ」
「えっと、あなたはご友人……ではなくて」
「あぁ。俺が『ボンクラ息子』で、このパーティーの『主催者』だよ。事務所の人って、こっちが願ってもないのに自社の所属アイドルを宛がおうとするのが多くてさ……でも、天井さんのところは違ってて安心したよ」
小麦色の男性の説明曰く、どうやら試されていたようだ。ほっとした瞬間、全身に酔いが一気に回り出してしまう。
「今後もおたくの事務所とは仲良くしたいな。で……一つ、お願いがあってさ」
~~~~~
ゲストハウスから出た俺は、ふらつきつつ人の賑わうプールサイドを歩いていると、道の真ん中に設置されたビリヤード台にぶつかりそうになってしまう。
「おっと、すいません……って美琴?」
「……しー」
鋭い目つきの美琴がキューを構えている。スナップをきかせたショットは正確無比に狙いの番号の球をポケットへと流し込んでいた。
「うわー……あのお姉さん上手いな」
「一体どこまで連勝する気なんだ?」
周りのギャラリーは腕を組みつつ感心したように唸る。真横に設置されたホワイトボードの数字を見ると美琴の名前の下には大きく『9』と書かれていた。
「……さすがだな、美琴。ところで千雪と夏葉は一緒じゃないのか?」
「えっと……はい、私の勝ち。夏葉ちゃんなら、あそこかな」
美琴の指差したプールの水面には、なぜかソファーが浮かんでいた。正確には、ソファーを下から男性複数人が担いでいて、その上に大きな水鉄砲を持った夏葉が立っている。プール内に群がる男性の口にめがけて水ではない別の液体を撃ち込んでいるようだ。
「強すぎる……もしかしてプロのハスラーか?」
「……昔から『タマ』を突くの得意なんだ。他に突かれたい人いる?」
肩にキューを担ぎ、ぼそっと呟く美琴に、ギャラリーの男性陣は一斉に自身の下腹部へ目線を送る。
「……ちょっと、喉乾いたかも。誰かチェイサー持ってきてくれるかな?」
「おい、女王様の命令だぞ!」
「ただいま、お持ち致しますので……こちらへどうぞ」
ギャラリーの男性陣に先導されていく美琴の背中を見送る。美琴に関して心配は無さそうだが……あそこで暴れ回っている夏葉を止めるべきか、所在不明な千雪を探すべきか朦朧とした意識を奮い立たせていると、不意に背中を叩かれる。振り返ると、知らない女性の二人組が微笑んでいた。
「お兄さんは一人ですか~?」
「良かったら~、一緒にゲストハウスで呑みません?」
「ははっ……えっと」
モデル体型でスタイル抜群な女性二人組に声を掛けられ、男としてまんざらでもないのは事実だが、どうしたものかと頭を掻いてしまう。
「ね、見て。この人のリストバンドの色」
「あ……なーんだ。ごめんなさい、行きますね」
さっと離れていってしまう二人に、なんだか複雑な気分になる。
先程も感じた違和感……美琴とダンサー友達のリストバンドの色が違っていたところだった。
ーーーーー
『……わかりました。では、三人へと確認してみます』
『前向きに検討してくれると嬉しいな。あとリストバンドは帰るまで外さないように忠告しておいた方がいいかもよ』
『リストバンドですか?』
『あぁ。283プロさんに渡したリストバンドの色は『決まった相手がいる』ってやつさ。強引なナンパとかを防げるように、ここでは事前にルールを設けてるのさ。特にアイドルなんかだと必要だろ?』
『確かに、それもそう……ですね』
『プロデューサーさんは自由だからリストバンド外しちゃってもいいけどさ。まぁ……楽しんでってよ』
ーーーーー
「……プロデューサーさん! 聞いてます?」
いつの間にか、むっと頬を膨らませた千雪が目の前に立っていた。
「うおっ、ビックリした」
「いま、他の女の子に声かけられてましたよね?」
「……見てたのか」
「鼻の下を伸ばしちゃって……ついていかなくていいんですか?」
千雪はじっとりとした目つきで唇を尖らせていた。
「ははっ。もうどこかに行っちゃったし……それに俺は千雪のこと探してたからさ」
「……えっ」
「千雪は声をかけられたりはしなかったか?」
「私も時々……でもこのリストバンドを見て、皆どこかへ行っちゃいました」
「あ、それなんだけど……」
「……プロデューサーさん!あれ見てください」
千雪の視線の先には人型サイズの『ユアクマちゃん』の着ぐるみが瓶を持って、辺り一帯の人が咥えた漏斗に向かって注ぎ込んでいた。可愛らしい姿からは想像もつかない所業と、周りの狂喜乱舞とした様相は雛菜が見たら卒倒しそうな程、混沌としている。
「あの……行ってみませんか?」
返答する間もなく、千雪にぐいっと手を引っ張られてしまう。向かった先では、付近のギャラリーに漏斗を手渡され、周りに倣って咥えて上を向くとなんだか分からない液体が一気に流し込まれる。チラリと隣の千雪の様子を覗くと、懸命に喉を鳴らしながら飲み込むも、口元から溢れた酒が胸元の谷間で小さな水溜りを作っていた。
一瓶分を飲み終えると、少しふらつく千雪の肩を咄嗟に支える。
「っとと……大丈夫か?」
「うふっ。全然、平気れすよ」
「呂律が怪しいぞ。ちょっと向こうで休まないか?」
「……心配しなくても、まだまだ飲めますっ」
「いや、俺が休みたいのもあるからさ」
ふらつく千雪をなんとかゲストハウスの外に備え付けられたソファーへ運ぶ。俺自身もかなり酔いが回ってはいるが、なんとか理性を保てているのは奇跡に違いないだろう。
「すいません、チェイサーを2つ程お願いします」
通りがかった使用人へオーダーすると、千雪は不満そうな表情で抱きついてきた。
「わぁ、駄目ですよ~。まだまだ飲み足りないです」
「わかったから……交互に水も入れてだな。ちなみに千雪はさっきので何杯目だ?」
指を折って数えるものの「えっと……わかんないです」との返答だ。目が据わっているのもあって、かなりの量だということは予想できる。
「これで最後にしますから、一緒に飲みませんか?」
千雪はテーブルの上のショットグラスを持ち上げ、近くのライムと塩の小皿を手に取る。
「これで最後だぞ……乾杯」
「うふっ、乾杯」
お互いに塩を舐めてから、ショットグラスを勢いよく傾ける。
「くっ……あれ、俺のライムは?」
「……ここですよ~」
千雪は口に咥えたライムをぐいっと俺の口元へと突き出してきた。
「手で取ったら……もう一杯追加ですよ」
「ちょっと、それは……さすがに」
「隣の人達もやってますよ。多分ルールなんじゃないですか?」
隣のソファーの男女はライムじゃなくてお互いの舌を激しく貪っているだけだ。ここまで理性をなんとか保っていたが……千雪の煽情的な恰好と紅潮した表情を見て、周りの状況に流されてしまうのも悪くないかもしれない……なんて思考に陥ってしまう。
そっと肩を抱き寄せ、目を瞑る千雪の口元のライムに向かって……俺は口で受け取るだけだと必死に自分へと言い聞かせる。
「……千雪と何してるの? プロデューサー」
……水鉄砲を構えた夏葉がソファーの横から俺を見下ろしていた。
「いや、口でライムを受け取ろうとしてた……だけだよ」
「……へぇ、楽しそうなことしてるわね。私も混ざろうかしら」
「なら、俺と交代して、千雪と夏葉で」
「はぁ?」
「はい?」
「ははっ……俺は美琴の様子を見に行かなくちゃだし」
「……私がどうかした?」
夏葉の背後にはキューとグラスに刺さったストローを咥えた美琴がいた。
「美琴とはさっき合流したのよ。プロデューサーが千雪とゲストハウスに行ったのを見たって聞いてね。そしたら、まさかこんなところで乳繰り合ってたとは……驚いたわ」
「いや、まだ俺は何もしてなくて……」
「『まだ』ってことは……これからする予定だったの?」
朦朧とした頭で、なんとかこの場を収める選択肢を考える中、夏葉と美琴も隣の小皿からライムを口に咥え始めた。まさかとは思うが、おそらくそういうことだろう。
三人がソファーに座って目を瞑るのを見て、たまらず俺はソファーから立ち上がる。
「ちょっと、トイレ……すぐ戻るから」
~~~~~
ゲストハウス内のトイレを開けようとするも、鍵が掛かっていた。その場で立ち尽くすものの、一向に出てくる気配が無い。時折、コンコンとノック音があるということは、人が入っているに違いないのだが。
「兄ちゃん、そこ当分空かないと思うよ」
「え?」
「さっき、着ぐるみと女の子が一緒に入ってたから」
「うわ……マジか」
「上の階にもトイレあるから、そっち使った方が早いかもよ」
どうやら、人ではなく盛ったクマが利用しているようだ。堪らず「ごゆっくりどうぞ」と強めにノックする。
上階の空いたトイレで用を済ませると、窓からはDJブースとステージが一望出来る光景だ。
「あ、やべ……忘れてた」
急いで、先程のソファーに座った三人の元へ戻る。
「……私たちにステージの出演オファーですか?」
「主催者の方にお願いされてさ。一曲だけでいいからステージで披露してほしいってさ」
「……でも、もともと私たちって別々のグループじゃない?」
「……そうなんだよな。でも、どうにか出来ないかな」
「私たちの曲じゃなければ……どうかしら。準備可能かプロデューサーも確認してくれない?」
「……本当か、それは助かるよ」
「その代わり……プロデューサーに一つだけ条件があるわ」
「……条件?」
夏葉が千雪と美琴にこそっと耳打ちしていく。
「うん……いいんじゃないかな」
「わぁ……夏葉ちゃんに賛成!」
「じゃ、それでいきましょうか……『ミスター』」
日が暮れ始め、西日がプールの水面を反射する中、爆音のDJブースのMCに一連の経緯を含めて伝えると準備は可能だとのことだ。当該曲に関しては三人とも振付や歌詞についても問題無いということで、俺はほっと胸を撫で下ろした。
「ダンサーの子たちも協力してくれるから、人数も大丈夫かな」
ステージ横の美琴の隣には、ここに到着したばかりの頃に挨拶したダンサー二人が肩を並べて笑っていた。
「セッティングが済んだら出番だけど準備はいいか?」
「プロデューサー、後は任せて頂戴。この日だけの特別な『放クラ』を見せてあげるわね」
「夏葉ちゃん、それを言うなら特別な『アルスト』でもあるんじゃない?」
「『シーズ』だと、さすがに人数オーバーかな」
三人はステージ裏でイヤーマイクを装着しながら、手を合わせてクスクスと笑っていた。
俺はステージの正面が見渡せるプールサイドへ回り込むと、ステージ前のプールの水面に、人が乗って踊ってもびくともしないぐらいに大きなサイズの浮き板が設置されていた。事前にライブ開始時刻の周知がされているのか人も徐々に特設のステージに向かって集まってきているようだ。
「さすが、283プロさんだな。特別なライブにふさわしいよ」
振り返ると、小麦色の肌の男性……パーティーの主催者だ。
「本来のアイドルの曲では無いですが……しっかりとこちらで努めさせていただきますよ」
「あははっ。全然構わないさ。でも気に入ったよ……君みたいな人材が欲しいんだけど、転職とか考えていないのかい?」
「まだまだ、こんな俺を拾ってくれた天井社長に恩を返しきれてなくて……それを考えるのは、もう少し先になりそうですかね」
「それは残念。でも、君なら『次回』も期待できるかな」
手を挙げて去っていく主催者の背中を見送ると、夕闇のプールをステージ横の照明が七色に照らしだす。大音量のスピーカーが空気を震わせる中、MCが三人の名前を高らかに呼ぶと、ステージ横から水着姿で登場する夏葉・千雪・美琴に観客が熱狂していく。プールの水面から顔を出す浮き板の上に立ち、笑顔を見せながら手を振る様は、正にアイドルそのものだ。
「283プロダクション所属『放課後クライマックスガールズ』の有栖川夏葉です」
「同じく『アルストロメリア』の桑山千雪です」
「同じく『シーズ』の緋田美琴です」
「本日はお招きいただきありがとうございます」
「私たちの曲では無いですが……本日お越しいただいた皆様へ特別なステージをお届けします」
「……宜しければお付き合いください」
ターンテーブルが回り、スピーカーから曲が流れる。あの短時間でいつの間に打ち合わせをしていたのか、三人の歌唱とステップは完璧に揃っていた。
凛と澄んで、少女のように可愛らしく、息を飲むほどに綺麗な三人のパフォーマンスに中庭全体が魅了されていく。
~~~~~
無事にステージを終え、観客の熱狂が冷めやらぬ中、俺たちは中庭から豪邸の客室へ戻ることになった。
正直言って、『放クラ』『アルスト』『シーズ』の三組はそこまで世間の知名度は高くない……にも関わらず、あの盛り上がりと業界・芸能人に名前を覚えてもらえたことは、今後の芸能生活に大きく繋がっていくだろう。
「三人ともお疲れ様……客室で少しゆっくりしてから、帰り支度をしようか」
「もう帰っちゃうんですか?」
「ここのパーティーは明日の朝まで夜通し続くらしいわ。一泊していっても良いんじゃないかしら?」
「私も明日のレッスンは午後からだし、泊まって朝に帰ってもいいんだけど」
「いや、俺は明日朝から仕事なんだが……」
パフォーマンスの合間に水をがぶ飲みしたおかげか、少しだけ俺自身の酔いも冷め、現実的な考えに至ってたのだろう。廊下を歩きながら元いた客室に向かう最中、その他の部屋から漏れ聞こえる女性の絶叫にはあえて聞こえないフリをしつつだったが。
「……すごいわね」
「……激しいですね」
「……大丈夫かな」
「……」
何とか自分たちのスーツケースを置いた客室の前に辿り着き先に三人を招き入れる。ドアを閉める際に隣の部屋から出てきた別の男性客と目が合う……上下に服を着ていないことを除けば、普通の男性だった。
「おっ、三人も相手かい。兄ちゃん、張り切ってるな」
「ははっ……どうも」
会話を早々に切り上げ、念の為、俺は内鍵のカードキーを取り外しておく。室内に戻ってテーブルの上にカードキーを置いて、振り返ると三人はベッドへと腰を下ろしていた。
「それじゃ、順番にシャワーを浴びて着替えて……」
三人とも返答が無く、黙ってお互いに頷きあっている。
「……どうした?」
「プロデューサー、さっきの『条件』を忘れてないかしら?」
「ここの浴室って結構広いみたいですよ?」
「一人ずつ浴びるのは時間が掛かって非効率だし、全員で一緒に入れば効率的じゃない?」
「なら、まずは三人で入って、その後に俺だけ……」
「あら、この期に及んで約束を破るのかしら?」
「プロデューサーさん……そろそろ覚悟決めませんか?」
「私たちと入るのは……そんなに嫌?」
「わ、わかった……水着でなら……」
三人は一斉にリストバンドを取り外して、俺の足元に向かって投げてくる。
「「「水着も『リストバンド』も無しでね」」」
ふと、豪邸に来たばかりの頃の千雪との会話を思い出した。
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『これって宮沢賢治のお話みたいじゃないですか?』
『ははっ。確かに『注文の多い料理店』みたいだな』
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色々な注文を受けた客が最後に自身が食材だと気付いて食べられてしまう話……条件という名の三人の『注文』は、紛れもなく俺のことだろう。
俺の足元のリストバンドへ覆い被さるように、三色の水着が飛んできた。
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朝日が昇り、酷い二日酔いと共に精魂尽き果てた俺は主催者が用意した代行運転に身を任せ、社用車の助手席から窓の外をぼーっと眺める。三人は後部座席で心地の良い振動に揺られながら目を瞑って眠っているようだ。
ふと、返却された携帯電話でメールボックスを開いて下に遡っていく。以前に社長から送られたQRコード付きのメールと文面が目に入った。
『まぁ、その、あれだ……頑張れ』
これってどういう場所なんですか? ナイトプール? てかリストバンドつけてない人達もどこかの芸能関係者ってことなんですかね?