VIXについて
対象テーマ VIXとVIXに近い関係にあるもの
ボリューム 約2.2万字。読了時間の目安は 30分~(図・表を飛ばせば短縮可)
論旨からズレるが捨てるには惜しいと考えたものは全てコラムになっています。読まなくても主題は理解できます。
向いている読者
米国市場を本気で分析したい方
オプションや興味がある方
VIXについて知りたい方
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本記事は筆者の個人的な見解・学習メモであり、投資行動を推奨するものではありません。内容について正確性を保証するものではなく、誤りを含む可能性もあります。が、市場の歪みを捉えるための視点にはなると思います。気に入ったらスキ・シェアで応援してくださるとモチベに繋がります
免責事項
本稿の筆者は、プロのボラティリティトレーダーでもなければ、クオンツでもありません。ただの「VIXまわりがやたら好きな一介の物好きな個人トレーダー」です。
そのため、本稿の内容には、プロのクオンツやボラティリティ専門の運用者から見れば「いやそこは違う」「そこはもっとこういう前提がある」といったツッコミどころが多々あるはずです。複雑怪奇な金融商品を、できるだけ噛み砕こうとした結果としてのラフな近似や割り切りが含まれている点については、あらかじめご容赦ください
VIXの定義
今回は株式投資、そしてオプション取引において欠かせない代表的な指標VIXについて取り扱っていく。
VIX(CBOE Volatility Index)は、S&P500オプションの価格から算出される「今後30日間の予想ボラティリティ(インプライド・ボラティリティ)」を指数化したもの。
市場参加者の「今後の値動きの大きさ」への期待を数値化しており、別名「恐怖指数」とも呼ばれる。
数値が高い → 投資家が先行き不安を強く感じ、ボラティリティが上昇している状態
数値が低い → 市場が落ち着いていて、ボラティリティが低下している状態
ここまでが一般的な教科書的な定義である。
参考文献
Cboe Global Markets Cboe Volatility Index®
より厳密な定義で書き表すならば
VIXとは、「30日後のS&P500指数に対応するコールとプットのOTMオプションのインプライド・ボラティリティ」を表す指数である。
ただし実際の算出方法は単一のOTMだけでなく、満期が近い複数のOTMプットとOTMコールの価格を加重平均して「30日先のIV」を推計している。大雑把に理解するならばコールプットのOTM側のストライクを全て加重平均したものであると考えれば良い。
VIXは「常に30日先」を見に行くように、複数限月のSPXオプションのIVを線形補間して算出している。そのため、途中に米国の祝日が挟まって取引日数が減ると、「30日後」の中身(残り取引日数)が微妙に変化し、同じような相場環境でもVIXの数値だけズレて見えることがある。これは算出ロジック上の仕様であって、必ずしも市場参加者のセンチメントが急変したことを意味するわけではない。
時々「祝日を挟んだときに、VIXが○ポイント上がった/下がった。だから株は下がる(上がる)はずだ」と主張する人がいるが、これは完全に逆である。祝日前後の細かいVIXの上下は、単に「どの満期のオプションをどれくらい重み付けしているか」「カレンダー日と営業日のズレ」によるテクニカルなノイズに過ぎない。そこでVIXだけを見て「株が下がるに違いない」と結論づけるのは、写像の揺らぎを“市場心理の変化”だと誤認しているようなものである。ソロスは「市場は常に間違っている。誤認識をした人間がさらに認識を誤り、その過程で相場がフィードバックループを起こす」(再帰性理論)と主張したが、VIXのように広く知られている指数ですらこの有り様なのだから、さもありなんといったところだ
VIXが上がれば株は下がるという「俗説」
言ってしまえばVIXというものはOTMオプションの指数(インデックス)である。我々が恐怖指数と読んでいるものは加重平均されたオプションの塊であり、VIXが上がったから株が下がるというのは短絡的な反応に過ぎない。あくまで「株価の下落局面ではプット需要が増え、オプション価格が上がる → その結果、VIXが跳ね上がる。」このような現象の結果としてそのような相関関係があるということであり、この逆相関性はVIXに内包された構造上の性質ではないということに留意しておきたい。
上述したようにVIXというのは「コール」「プット」両方のOTMオプションを加重平均した指数である。理論上はコールが買われすぎても上がるのである。またVIXの計算式の関係上30日後と規定されており、米国で祝日を挟むと日数調整が発生する。ゆえに1日休場を挟んだけでVIXが上がる、なんてことが容易に起こり得るのである。このようにVIXが上がったからリスク資産が下がるといった回答はスマートではない。たしかにそのような傾向が見受けられるのは確かであるが必ずしもそう動くわけではないのである。
VIXの織り込み具合
VIXは「今後30日間のインプライドボラ(年率)」なのでVIXの定義より日次の値動きにざっくり直すことができる。ここではわかりやすさを重視するため厳密な計算には触れずザックリした変動率を記載する
ざっくり計算すると:
VIX 12 → 日次σ ≒ 0.76%
VIX 16 → 日次σ ≒ 1.0%
VIX 20 → 日次σ ≒ 1.26%
VIX 24 → 日次σ ≒ 1.5%
VIX 32 → 日次σ ≒ 2.0%…
である。ここ数年の環境ではVIX30程度までで止まることが多いためこの表を参照するだけでどれくらいボラティリティが出るか把握できるはずである。
IVとRV
IVとはオプション価格から逆算したボラティリティである。というのが教科書上の通説である。そもそもだがオプション価格も需要があれば上がり、需要がなければ価格が下がる。需要があるオプションはIVが上がるし、IVが下がるのである。筆者はこのIVを過熱感の指標として適用している。ベガとIVを比較した場合、「ベガに対して明らかに高いIVを持つオプション」がある。そのようなオプションの原資産は大概の場合過熱している。
RVとは実際に動いたボラティリティのことである。IVの対比となる言葉だ。IVが市場が予測するボラティリティであれば、市場開始から市場終了後まで一体原資産がどれだけ大きく振れたかがこの指標で表せる。例えばビットコインのように激しいボラティリティを持つ資産であれば高いRVを示すし、ゴールドのように静かな資産であれば低いRVを示す。
IVからRVを引いたもの、これをVRP(ボラティリティリスクプレミアム)と呼ぶ。VRPがプラスのときは市場が原資産とオプションを過大評価している。逆にVRPがマイナスであれば思った以上に原資産が動いたことを示している。こういった場合は大概ヘッドラインが出ている。
※バリアンスかボラティリティか文脈によりますが本稿ではわかりやすさを重視しボラティリティリスクプレミアムとして表記します
大概の場合は市場はVRPはプラスである。なぜなら人々は下落に対して過剰に恐怖し、過剰にヘッジしたがるためである。プットを買い漁るためIVは高く出やすい。逆にコール側が高くてVRPがプラスの時もある。この場合はコールを大量に買ってガンマスクイーズなどの踏み上げを狙った投機的な動きが多い。
一体どちらの動きでVRPが高く出ているのか?というのは実際にオプションの板を眺めてみる、あるいは25デルタスキューなどの指標を参照することですぐわかる。こういった動きを覚えておくと急騰銘柄で天井で掴むなんてことが減っていくはずである。
VIXの「普通」と「異常」をざっくり把握する
VIX12とVIX30に線を引いてある。
では、概ねVIXはいくつくらいから「異常値」と言えるのだろうか。
これは非常に主観的な話であって、厳密な定義があるわけではない。
ここではあくまで筆者の感覚として「どのあたりから空気が変わるか」の目安だけ置いておきたい。
長期平均が20前後であることを踏まえると、VIXが25〜30のレンジに入ってきたあたりからマーケットがそれなりに緊張している水準と見ている。
このあたりは、日足ベースでギャップや長いヒゲが増え、いつもより値動きが荒いなと体感し始めるゾーンだ。
VIXの高低はあくまで「文脈つきの主観」にすぎない
先ほども述べたように、VIXが高いか低いかという評価は、本質的には主観的なものである。そして筆者は、VIXという数字そのものの高低に拘泥すること自体に、あまり意味はないと考えている。
VIXはあくまでS&P500(SPX)オプションのインプライドボラティリティ(IV)の写像であり、VIXそのものが市場に影響を与えているわけではない。本体はあくまでSPXオプションの需給と、その結果としてのIVであり、VIXはその結果をまとめて表示している指標に過ぎない。
もっとも、「写像に過ぎないから無視してよい」という話でもない。
本体であるオプション市場の需給が大きく歪めば、その写像であるVIXも当然ながら大きく歪む。
その意味で、VIXの異常値を観察することは、「オプション市場で何かが起きているらしい」というシグナルを拾う作業だと捉えたほうがよい。
この「異常/平常」の感覚がどれくらい相対的なものかは、2022年のチャートを見るとわかりやすい。
形式的には本稿で「VIX30前後は異常値だ」と述べたが、2022年の相場ではその“異常値”がほぼ常態化していた。
さらに、パウエル議長がジャクソンホールでタカ派的な講演を行った後(いわゆる「パウエルショック」)は、
年内を通してVIXが20を下回ることはほとんどなかった。
2022年この局面(厳密に言えばある条件下におけるオプションの中のレジーム)だけを切り取れば、
VIX20台後半〜30台前半:その年における「平常運転寄り」
30台後半〜40台:ようやく“やや異常”と言っていいゾーン
というふうに、平時のレジーム自体が一段シフトしていたとも解釈できる。
ポイントは、「VIX30だから常に異常」「VIX20だから常に安全」という絶対的な線引きをすることではなく、その年・その相場環境における「平常レンジ」から どれくらい外れているかを見ることにある。
VIXを見るときは、
①その時代の“普通のレンジ”をざっくり把握したうえで、
②そこからの逸脱度合いを測る、
この二段構えで見ると、数字に振り回されにくくなるはずだ。
このパートで筆者がいちばん強調したいのは、VIXという数字は決して「絶対的な真理」ではなく、あくまで相対的なものにすぎないという点である。
にもかかわらず、「VIXが〇だからこうなる」と一刀両断で決めつけてしまうのは、相場の不確実性を無視した、かなり傲慢な態度だとすら思う。
こうした「VIXは相対的な指標にすぎない」という話は、実務のボラトレーダーの議論とも噛み合う。たとえばテールヘッジ系トレーダーで知られる Kris Sidialも、「VIX が30台だからといって、それだけで“明らかにショートと決めつけるのはおかしい」と繰り返し指摘している。
※Kris Sidial氏:ボラティリティアービトラージに特化したヘッジファンド The Ambrus Group の共同CIO(Co-CIO)。米国株オプション市場におけるテールリスクヘッジ戦略を専門とするトレーダー
彼の論旨を雑にまとめると、
ボラティリティは長期的には平均回帰するが、
「いまの VIX が、足元の実現ボラ(HV)やフォワードボラと比べて割高か?」 を見ない限り、ショートもロングも語れない実現ボラが 40 近くまで跳ねている局面で、VIX が 30 台前半に落ち着いているなら、
それは「高いボラ」ではなく、実現ボラに対してディスカウントされたインプラ”かもしれないその状態で「VIX30は異常に高いからショートだ」と言い切るのは、
保険料がまだ十分に高くもないのに「ずっと保険を売ってきたから今回も売る」と言っているのと構造的に同じ
という話になる。
ここまで来ると、
「VIX が 30 だから高い」「20 だから低い」といった絶対値だけの議論がどれだけ雑かがわかると思う。見るべきなのは水準そのものではなく、
その時々の 実現ボラ vs インプライドボラ
スポットボラ vs フォワードボラ(期先の VIX 先物)
過去数ヶ月〜数年の「平常レンジ」からの乖離度
といった相対関係である。
言い換えれば、「VIX は絶対値で高い・安いと断じるためのものではなく、その時代の文脈の中で “何に対して” 高いか/安いかを読むためのもの」であって、「VIX が30 だからこうなる」と断定してしまうこと自体が、相場の不確実性を無視したかなり傲慢な態度だ、と筆者は考えている。
スマイルカーブとスキュー
右 スキューがあるスマイルカーブ。
このようなグラフの場合はプットがコールに比べて割高である。
オプションの価値というものは理論的にはコールとプット両者とも同じ価値である。しかし実際の相場ではコールはプットに比べて割安に取引され、プットは割高に取引される。理由は複数あるのでここでは代表的なものを例として出しておく
カバードコールETFの影響でコールが割安になる
暴落時のヘッジ需要でプットの需要が大きい
プットは暴落時にとんでもない勢いで跳ねるので売りにくい
コールよりも先物やレバレッジETFを使ったほうがわかりやすい
機関投資家のカラー取引などの影響(プロアクティブプット需要)
市場特有の負のスキューがリスクプレミアムになっている
などなど、複数の要因が重なり、コールは割安に、プットは割高に取引される。
実際にこのようにオプションの価格をATMを起点にコール側とプット側まで描画したのがスマイルカーブである。このグラフは需給とストライクを表し、グラフが上に跳ねていれば跳ねているほどそのストライクにおけるオプションの価値は高くなる。基本的にはプット側(左側)が跳ねていることが多い。投資家が暴落を恐れてコールを売り、コールを売った代金でプットを買っている、正常な相場の状態である。逆にコール側が跳ねている場合は要注意である。本来コールが大きく釣り上がるということは珍しくほとんどの場合は投機需要によるものである。この場合IVを見てみると一緒につり上がっている。
このスマイルカーブのプット側の部分を指数化したものがスキュー指数である。投資家がどれだけ暴落を恐れているかがわかる。別名ブラックスワン指数と呼ばれる。過度にOTMなプットオプションが買われている場合この指数が釣り上がる。よく観察しているが特に相場が上昇基調だとこの指数も上がることが多いようである。逆に軽めでも調整が入ると投資家がプットを処分してしまうのかすんなり下がることが多い。
スマイルカーブとIVサーフェス
ここまで単一の満期におけるIVの形(スマイル/スキュー)を見てきたが、現実のオプション市場では満期もストライクも連続的に存在している。その全体像をまとめたものをIVサーフェス(ボラティリティ・サーフェス)と呼ぶ。
イメージとしては、
横軸:ストライク(あるいはデルタ)
縦軸:満期(残存日数)
高さ:インプライド・ボラティリティ
で張られた三次元の地形図のようなものだ。
先ほど見た「スマイルカーブ」は、このサーフェスをある一つの満期で水平にスライスした断面図にすぎない。逆に、あるストライク(ATM 付近など)で縦に切れば「タームストラクチャー(期限ごとのIVの並び)」になる。
IVサーフェスを見るメリットは、単純なスマイル以上にどの方向に歪みが集中しているか”が分かる点にある。例えば:
近い満期のOTMプットだけ異常に盛り上がっている
→ 直近イベント(決算、CPI、FOMC)に対するヘッジ需要が局所的に集中しているサイン長めの満期の全体がじわじわ高い
→ 中長期の不確実性(マクロ・政局・クレジット不安など)が意識されているサインOTMコール側だけ特定ゾーンが高い
→ ミーム株やコール買い主導のショートスクイーズ相場でよく見られる“コールサイド山脈”
といった具合に、単一のスマイルでは見えない「時間軸方向の偏り」が見えてくる。
なお、VIXはこのIVサーフェスのうち「30カレンダー日前後のOTMゾーン」を取り出して線形補間しただけの指数であり、サーフェス全体の情報を潰した要約に過ぎない。したがって、VIXだけを見て相場を語るのは、サーフェスという地形図を捨てて「標高の平均値」だけで山を語るようなものである。
本気でオプションを触るなら、少なくとも単一満期のスマイル(断面)主要ストライクのタームストラクチャー、その組み合わせとしてのIVサーフェスくらいまでは頭の中にイメージしておきたいところだ。
VIXのガンマを考える
ここまで、VIXそのものの定義と需給について見てきた。
このパートではもう一歩踏み込んで、「ガンマ」という観点からVIXをどう捉えるかを考えてみたい。
ガンマはざっくり言えば、
オプションのデルタ(価格感応度)が、原資産の動きに対してどれくらい変化するかを表す指標
である。
デルタ:原資産が1動いたとき、オプション価格がどれくらい動くか
ガンマ:原資産が動いたとき、そのデルタがどれだけ増減するか
ガンマが大きいということは、
「原資産が動けば動くほど、オプション価格の反応が加速度的に強くなる」=凸性が強い、ということでもある。
SPXオプションでよく言われる
ディーラーがポジティブガンマだと値動きを吸収しやすい
ネガティブガンマだと値動きを増幅しやすい
といった話は、すべてこの「デルタの変化率」という視点から出てくる。
VIXそのものの「ガンマ的な」性質
VIXはSPXオプションのIVの写像であり、SPXが下落したときに非線形に跳ね上がりやすいという意味で、
SPXに対して「ガンマっぽい」動きをする指標でもある。
SPXが1〜2%下がった程度では、VIXは数ポイントしか上がらない
しかし、SPXが5%級のクラッシュになると、
VIXは+10〜+20ポイント単位で一気に吹き上がることも珍しくない
SPXの下落幅が大きくなるほど、VIXの“感度”が加速度的に上がる。
この非線形性(凸性)こそが、広い意味での「VIXのガンマ的性質」と言ってよい。
言い換えれば、
SPXの「普通のボラ」にはそこまで反応しないが、
クラッシュ寄りの動きになった瞬間に、感度が一気に跳ねる
ように設計されている指標だとも解釈できる。
VIX先物・VIXオプションのガンマ
次に、金融商品としてのVIXのガンマを考える。ここで注意したいのは、上場しているVIXオプションの原資産は「VIX先物」であって、VIXスポットそのものではないという点である。
つまり、VIXオプションのガンマは、VIXスポットではなく対応する満期のVIX先物に対する凸性を表している。さらに、そのVIX先物自体が、SPXの将来のボラ期待(IV)それを巡る需給(テールヘッジ/ボラ売り/ETNのロールなど)に依存しているため、
SPX→ SPXオプションのIV→ VIXスポット→ VIX先物→ VIXオプション
という「多段階の写像」を通じてガンマが伝播している構造になっている。
実務的に見ると、
VIXコールをロングしている投資家は、「VIX先物が大きく跳ねる局面での凸性(クラッシュ時のボラ急騰)」を買っている。
逆に、そのVIXコールを売っているディーラー側は、VIX先物に対してネガティブガンマになり、相場が動くほどヘッジのためのVIX先物売買を強いられるという形になる。
クラッシュ局面でVIXが吹き上がるとき、VIXコール売りが積み上がっていると、ディーラーは上昇するVIX先物を買い戻しながらヘッジせざるを得ないため、それ自体がさらにVIX先物の上昇圧力になり得る。
SPXガンマとVIXガンマの「二重構造」
ここまでをまとめると、
ボラティリティの世界ではざっくり、
SPX側のガンマ(現物・インデックスオプション)
VIX側のガンマ(VIX先物・VIXオプション)
という二重構造が存在していることになる。
SPXオプションでネガティブガンマが積み上がると、SPXの値動き自体が増幅されやすくなる。同時に、テールヘッジとしてのVIXコールが積み上がれば、VIX先物側でもディーラーのネガティブガンマが増え、クラッシュ時のVIX急騰に拍車がかかりうる
極端な局面では、
SPXが下がる→ ショートガンマのSPXディーラーが売りで追いかける
→ VIXが跳ねる→ ショートガンマのVIXディーラーがVIX先物を買い戻す
→ ボラがさらに跳ねる
という形で、
現物サイドとボラサイドのガンマが同時に火を噴く構図もあり得る。
もちろん、現実にはこれほど教科書的に連鎖することは少ないが、「どこにガンマが溜まっていて、誰がどの方向にショートになっているか」を意識しておくことは、VIXのチャートを眺めるうえでも、かなり重要なヒントになる。
VIX先物とタームストラクチャー
ここまでで、VIXそのものは「おおよそ30日先のインプライドボラティリティの集合体」だと説明した。ここでは一歩進んで、VIX先物とタームストラクチャー(VXカーブ)を整理しておきたい。
VIX先物とは何か
まずざっくり言えば、VIX先物は
「将来ある時点のVIXスポット(=その時点での市場の予想ボラティリティ)」に対する
リスク中立下での期待値 + ボラリスクプレミアム + 需給
だと思っておけば大きくは外れない。
ここで注意したいのは、
VIXそのものはインデックスであって現物が存在しない
SPXのオプション価格から算出される「その時点の30日物IVの写像」に過ぎない
という点だ。
株やコモディティのように「現物を倉庫に入れておいて先物で受け渡し」という世界ではないので、
VIX先物は将来のVIX値そのものにキャッシュで決済される「予測市場」に近い性質を持っている。
イメージとしては、「○月のVIXがいくつくらいになっていそうか?」について、市場参加者がそれぞれの見通しとヘッジ需要を持ち寄って価格をつけている。そういう意味で、Polymarket のような予測市場に似た構造を持っている、と捉えてもよい(※厳密にはリスクプレミアムや裁定制約が入るのであくまで比喩)
タームストラクチャー(VXカーブ)
各限月のVIX先物を並べて、
縦軸:VIX先物価格
横軸:残存期間(期近→期先)
でプロットしたものが、いわゆるタームストラクチャー(VXカーブ)である。
ボラティリティは平均回帰の性質が強く、
直近のイベントが少なく、
足元のVIXスポットが落ち着いている局面では、
たいていの場合、期近より期先のほうが高い右肩上がり(コンタンゴ)になりやすい。市場は「短期的には今と同じか少し低め、長期的には“平年並み”のボラ水準に戻るだろう」と見ているイメージである。
逆に、
眼前にFOMCや重要指標、選挙といったイベントが集中しているとき
すでにクラッシュが進行していて足元のVIXスポットが異常に高いとき
には、特定の限月だけVIX先物が盛り上がる/期近が期先より高くなるといった形でカーブが歪む。
この状態が、いわゆるバックワーデーション(期近>期先)である。
VIXのタームストラクチャーも基本的な読み方は他の先物と同じで、
「コンタンゴがきつい=時間価値とボラリスクプレミアムを払っている」
「バックワーデーション=足元の恐怖が強く、近い将来は今より落ち着くだろうという見方が織り込まれている」
とざっくり解釈しておくとよい。
VIXとベガの関係
VIXとベガには密接な関係がある。
VIX先物の価格は、ざっくり言えば「将来のボラティリティ水準」に対する市場のコンセンサスを表しているため、実務的にはボラティリティそのものへのエクスポージャー(=ベガ的なポジション)として扱われることが多い。
形式的には、VIX先物は
VIXスポットに対してはデルタ1・ガンマ0の線形商品であり
SPXの価格変動に対しては、直接のデルタやガンマはほとんど持たない(あくまで間接的な感応)
という性質を持つ。そのうえで、VIX自体がSPXのIVの写像であるという構造から、トレーダーの間では「VIX先物をロングする = ボラにロングするといった感覚で使われることが多い。実務的に「純粋にボラティリティ側に寄せたい」ときに、株価デルタやガンマをあまり増やさずにポジションを取れる、という意味で ベガ寄りのプロダクト と捉えておくとよい。
理論上は、SPXオプションを使って
コールやプットを買い
必要に応じて先物でデルタをヘッジし
といった組み合わせによって、ボラティリティだけを抽出したポジション(いわゆる「デルタヘッジされたロング・ガンマ/ロング・ベガ」)を作ることもできる。ただし、こちらは常にデルタを取り直す必要があり運用は煩雑になりやすい。
それに対して、VIX先物を使ったポジションは、
SPXの方向性(デルタ)にはあまり賭けず
「ボラが上がるか下がるか」に比較的ストレートに賭けられる
という意味で、ボラティリティだけをトレードしたいときに使いやすいツールになっている。
ポジティブガンマとネガティブガンマの項で触れたように、オプションのマーケットメイカーは、ガンマをヘッジするために先物や現物を売買している。
たとえば、SP500のコールを売った場合にSP500先物をショートすれば、デルタの一次リスクはかなりヘッジできる(ただしガンマリスクは残る)。
しかしこのとき、ベガ(ボラティリティ変動)に対するリスクはそのまま残っている。ボラが上昇すると、ショートしているオプションの価値が一斉に膨らみ、デルタヘッジだけでは吸収しきれない損失が出る可能性がある。
そこで実務上は、
満期やストライクの異なるSPXオプションを組み合わせてポートフォリオ全体のベガを中和したり
必要に応じて、VIX先物やVIXオプションを補助的なヘッジ手段として使ったり
することで、トータルのベガリスクを管理しているケースが多い。
要するに、デルタ/ガンマの一次リスクは現物・先物でベガ(ボラティリティ)のリスクは他のオプションやVIX系プロダクトでというのが、オプションマーケットメイカーのごく大雑把なヘッジの分業イメージである。
コラム MSQとレプリケーション
先だって触れたように、先物とオプションは理論的に相互に複製可能である。たとえば、ATMのプットとコールを用いて合成先物を組むこともできるし、逆に先物とプットを使ってコールを構成することもできる。こうした関係は、SQ(特にMSQ)に近づくにつれて、先物・現物・オプションの価格が理論値へと収束していく過程でより明確に可視化される。
しかし実務では、これらの複製にはベガやガンマ、流動性の問題が介在し、理論通りに構築・維持するのは困難である。そこで、SPXオプションに加えてVIXオプションなどのボラティリティ派生商品を組み合わせることで、デルタ・ガンマ・ベガをある程度個別にコントロール可能な複製構造が設計できるようになる。たとえば、先物とSPXオプションのポジションで価格変動に対するデルタ・ガンマを管理しつつ、VIXオプションでボラティリティ変動へのベガリスクを調整するといった具合である。
このように、MSQに向けて各プレイヤーがリスクを切り分けながら動かすポジションの背後には、常に何らかの「複製ロジック」が存在している。
それが裁定機会を生み、最終的にMSQでの価格収束を導くメカニズムでもある。
しかしその多くは、“不可解”なのではなく、先物・オプション・現物を組み合わせたレプリケーション戦略のロジカルな調整に過ぎない。特に、デルタ・ベガ・ガンマを分離して管理するデリバティブ・ポートフォリオを運用する年金ファンドやヘッジファンドなどの機関投資家は、MSQに向けて理論価格と市場価格の差(サヤ)を解消するポジション調整=サヤ寄せを実施する。その結果、通常のテクニカル分析では説明しきれない、流動性の薄いタイミングでの一方向のフローが発生し、価格に「不可解な動き」として表れることがある。これはSQという“価格収束点”に向けて、複製ポジションが理論値に収束するプロセスそのものとも言える。
VVIX
VIXと関係が深い指標として、しばしば VVIX(VIX of VIX) が挙げられる。
VIXが「S&P500の30日物OTMオプションのインプライド・ボラティリティを合成したもの」であるのに対して、
VVIXはざっくり言えば、
「VIXオプションのインプライド・ボラティリティ」=
VIXそのものが今後どれくらいボラティリティを伴って動きそうか
を数値化した指標である。
もう少しだけ噛み砕くと:
VIX:SPXオプションのIV「株価指数の今後30日間のボラ期待」
VVIX:VIXオプションのIV「VIX自体のボラ期待(=ボラティリティのボラティリティ)」
という関係になっている。
実務的には、VVIXが高い水準にあるときは、「VIXが大きく跳ねる(=株式市場のボラがさらに急騰する)リスク」に対して市場参加者が高い保険料を払っている状態と解釈できる。
逆に、VIXがそこそこ高くてもVVIXが落ち着いている場合は、足元のボラは高いが「ここからさらに“ボラのボラ”が暴れる」シナリオまでは
それほど強くは織り込まれていないと読むこともできる。
ただし、VVIXはVIXそのものよりもノイズが多く、短期のフローにも敏感に振れやすい。したがって、「VVIXが○○だから即ショート/ロング」という使い方をするよりも、VIX×VVIXの組み合わせでストレスのレジームをざっくり分類する「今は“ボラのボラ”まで買われている相場なのか?」を確認する補助指標くらいの位置づけで眺めておくほうが実務的だろう。
筆者の場合はタームストラクチャーと合わせてVVIX/VIXなどの比率を見てどれくらい今後どれくらい荒れている予想なのか?と解釈することが多い。この方法は2024年の大統領選で直近フローを見極める際に大いに使えたので場合によっては使えるようである。
コラム ボルガとVVIX
VVIXと似た概念としてボルガある。ベガの感応度を図る指標で、数学的に言えばボラに対する2階微分である。あくまでボルガは各オプションのベガの感応度に対し、VVIXはVIX(s&p500のIVインデックス)の感応度である。よく似た立ち位置ではあるが違う。なおボルガは普段は使わないがストラドルを組む際には非常に役に立つグリークである。特にストラドルやショートストラドル、その派生形を扱う人は覚えておいて損がないグリークだと思われる。
プットコールレシオ
VIXの次に語られる指標として、プットコールレシオという指標がある。これ単体ではなにかの役に立つということはない。例えばコールの数が多いからと言ってそれだけでは過熱していると断定することはできない。プットコールレシオが跳ね上がりIVも非常に高くなっているという場合なら別だがこの指標単体では決めつけることは何もできないのである。
コールが跳ね上がっているからと言って「コールを使ったスプレッド」かもしれないし、「コールとプットと先物を複雑に組み合わせたポジション」の可能性もある。はたまた限月をバラしたカレンダースプレッドの可能性もある。そうした無数の可能性がある中でこの指標はプットコールの比率しか表現できないし、断定はできないということである。
よくこの指標を取り上げてそれっぽく解説している人間がいるが(コールが多いから過熱してる、プットが多いから弱気など)筆者としては本当にこれだけでなにかわかるのか?と訝しい目で見ている。
ではなぜこの指標を取り上げるのか?他の指標と組み合わせて使うことである程度方向性が絞れる指標だからである。この指標単体では意味をなさないが複数のポジションと合わせて使えばそれなりに使える。いくつか例を上げよう。
プットコールレシオといくつかの組み合わせ
プットコールレシオを使っている代表的なものとしてfear&greed indexが挙げられる。
トレードをしていれば一度は聞いたことのあるインデックスだろう。このインデックスは少なくとも7つの指標を採用しており、プットコールレシオはそのうちの1つに当たる。少なくとも有名なインデックスの1つに採用されるあたり全く価値がないというわけではないのだが、この指標を1つを取って見れば簡単に見誤るのである。
筆者個人は普段オプション指標の中ではVIXとVRPとSkewの3つをよく見ており更に細かく解析したいと言った中で使用するものがプットコールレシオである。例えばVIXにおいてはプットのほうが通常比率が高いのだが時たまコールだけで駆動する状態がある。そんなときにプットコールレシオを参照すると現在どちらのオプションが強いのか一目でわかって大変便利である。またIVと比較するやり方もまた便利である。落ち着いてる際のIVと過熱時のIVは明確に違うがこれだけでは過熱してるとは一概に言えない。そんなときプットコールレシオを参照すれば一発でフロス状態にあるのかどうかわかるのである。
VIX連動ETP
ここまで見てきたように、VIXそのものはインデックスであり、現物を直接売買することはできない。そこで登場するのが、VIXに連動することを目指した上場投資商品(ETP:Exchange Traded Product)である。
世の中的には、だいたい以下のようなタイプがある(銘柄名は代表例):
短期VIX先物へのロング
例:VXX(ショートタームVIX先物ロングETN)
短期VIX先物ロングのレバレッジ版(2倍など)
例:UVXY(レバレッジVIX先物ロングETF)
短期VIX先物へのショート(インバース)
例:SVXY(インバースVIX先物ETF)
例:XIV(2018年のボラティリティショックで消えた伝説枠)
本稿では、個別銘柄そのものよりも、「何に連動していて、どんなクセを持っているか」に焦点を当てて整理する。
VIX ETPの連動対象
まず重要なのは、ほぼすべてのVIX連動ETPは「VIXスポット」には直接連動していないということだ。
多くのVIX ETPは、
「1ヶ月前後のVIX先物を常に持ち続ける」
期近のVIX先物を少しずつ売り、期先のVIX先物を買い足す(ロール)
そのポートフォリオ全体の値動きに連動することを目指す
といったインデックスに対して連動するよう設計されている。
この構造のせいで、チャート上は「VIXと何となく一緒に動いている」ように見えるのに長期で持つとロールコストとボラリスクプレミアムで減価しやすいという、直感と実際のパフォーマンスがズレやすい商品になっている。
コンタンゴとロールコスト
VIX先物のタームストラクチャーのところで述べたように、
平時の相場では 「期先のVIX先物のほうが高い」=コンタンゴ のことが多い。
短期VIX先物ロング型のETPは、だいたい残存30日前後の期近VIX先物残存60日前後の期先VIX先物を組み合わせて、毎日すこしずつ期近を売る、毎日すこしずつ期先を買うというロールを行っている。
コンタンゴ状態では、「安い期近を売って、高い期先を買う」
という行為を毎日繰り返すことになるため、
時間が経つだけでポートフォリオの期待値がじわじわ削られていく。
これが、VIXロング型ETPの構造的なロールコストであり、
ボラがそれなりに動いていても「長期チャートが右肩下がりになりやすい」主因のひとつとなっている。
インバース型・レバレッジ型の地雷
一方で、インバース型(ショートVIX)やレバレッジ型は、
この構造的な減価を「収益機会」として利用しようとする商品である。
たとえば、短期VIX先物ロングが「時間とともに減価しやすい」ならそれにショートで乗るインバースETPは、コンタンゴが続く限り構造的追い風を受けるという理屈だ。
ただし、ここには典型的な地雷がある。大きなボラティリティショックが発生し、VIX先物が一気に数倍に跳ねたときンバース型やレバレッジ型のVIX ETPは、一日で製品の価値が大きく毀損する可能性がある
2018年2月のいわゆる「ボラティリティショック」(通称ボルマゲドン)では、インバースVIX ETN(XIV)が一晩で実質的に吹き飛び、そのまま償還に追い込まれた事例もある。
教訓としてはシンプルで、ロング型:構造的に減価しやすいという、かなり極端なリスク・リターン構造を持っている、ということだ。
個人トレーダー目線での使いどころ
では、個人トレーダーはVIX ETPとどう付き合うべきか。
筆者のスタンスとしては、明確なシナリオがある短期トレード(数日〜数週間)で、「イベント前後のボラの動き」に限定して乗るぐらいなら条件付きでアリだろうと考える。
もし長期保有でなんとなくボラに備える/賭けるというのはほぼやる意味がない(ロールコスト&ボラプレミアムに負けやすいため)
さらにレバレッジ・インバース型で日経インバETF感覚で遊ぶというのも本稿を理解できない(あるいは筋道だった反論ができない)ならやめておいたほうがいいくらいの距離感が現実的だと考えている。
VIX連動ETPを触る前に、最低限:
「この商品が連動しているインデックスは何か」
「どの限月のVIX先物をどの比率で持っていて、どうロールしているか」
「平時のコンタンゴ/バックワーデーションでどう振る舞うか」
の3点だけは、目論見書なりインデックスの仕様書なりで確認しておきたい。VIXそのものがすでに「SPXオプションの写像」であるのに対して、VIX連動ETPはそのさらに外側のレイヤーにある商品だ。ボラに賭けたいという欲望だけで触り始めると、気づいたら写像の写像のロールコストだけを集める仕事になりかねないので、まずは仕組みを一段ずつ分解して理解しておくことが重要だろう。
VIX1Dと0dteオプション
さてVIXと一口に言えど複数種類あることは皆さんご存知だろうか?通常のVIXは30日後のインプライド・ボラティリティを表すが、実はその日のうちのIVを表すVIX1DからVIX9D、VIX3M、VIX6M、そして1年後のVIXを表すVIX1Yまで存在している。S&P500だけではなくナスダック100やラッセル2000、米国債、WTI、ゴールド、ビットコインなど、オプション市場があるところにはそれぞれに対応するVIXが存在している。このように数多あるあるVIXであるが今回は現代トレーディングの世界において特に重要なVIX1Dと0dteオプションについて取り上げる
VIX1Dとはなにか?
VIXと言えば、一般には「市場の恐怖指数」として知られている。
具体的には今後30日間のS&P500のインプライド・ボラティリティ(IV)を示す指数であり、金融ニュースでも頻繁に登場する。
しかし最近、この「VIXの中でも特にヤバいやつ」として注目を集めているのが、その日のうちのボラティリティだけを対象とした、超短期指標——VIX1D(1-Day VIX)である。VIX1Dはその名の通り、「今日中に満期を迎えるオプション(0DTE)」のIVから算出されるボラティリティ指標だ。
つまり、「明日どうなるか」は一切無視して、 「今この瞬間の市場がどれだけ神経質か」を数値化したもの。
このVIX1D、2023年にCBOEがローンチして以来、
0DTEオプションの急激な取引増加に呼応するように、一部のトレーダーにとって新しい“天気予報”として使われ始めている。
なぜVIX1Dが重要になってきたのか?
理由はシンプル。0DTE(0 Days to Expiration)オプションが市場で爆増したから。
昔のオプションは週1回の満期だった。
今はSPX(S&P500)において、ほぼ毎日0DTEオプションが登場している。
結果として時折「その日の指数の値動きがオプション市場のフローで歪む」現象が起こるようになった。
そこで登場するのがVIX1D。
こいつは、その日の超短期オプション市場のボラティリティを即時反映する。つまり、今まさに取引されている0DTEオプションの緊張感を数値として見ることができる唯一の指標だ。言ってしまえばVIX1Dと0dteフローを読まずにして米国市場でオプションを触るなど「ありえない」ことなのである。
コラム:原資産別ボラティリティ・インデックスの世界
「VIX」と聞けば、多くの投資家はS&P500に連動する恐怖指数を思い浮かべるだろう。だが実は、この“VIX”という概念はS&P500に限ったものではなく、さまざまな原資産に対応するボラティリティ・インデックスが存在している。
たとえば、
VXN:ナスダック100を原資産とするボラティリティ指数
GVZ:金ETF(GLD)を原資産とするもの
OVZ:原油ETF(USO)に対応するインデックス
などが代表的だ。また、上記したようにVIXには短期・中期・長期の満期別のバリエーションも存在し、それぞれが異なる市場心理を映し出している。こうした“非メジャーVIX”はあまり語られることが少ないが、それぞれ特有の動き方や他資産との相関関係を持っており、トレーダーにとっては興味深い観察対象となる。筆者自身も検証しきれていない部分が多く、ボラティリティインデックスの世界は飽きることがない。もし市場の裏側に潜む“感情の地図”に興味があるなら、これらのチャートを眺めてみてはいかがだろう。クセやパターンを掴むことができれば、トレーディングにおいて一歩先を行けるかもしれない。
0DTEオプションとは何か
さて、「0DTE」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。
これはZero Days to Expiration、すなわち「本日満期のオプション」を意味する。つまり、買ったその日が命日。寝かせることは許されない、瞬間勝負のオプションである。
セータとガンマの関係
オプションの世界では、「セータ(時間価値)」と「ガンマ(デルタの変化率)」はトレードオフの関係にある。
セータが長ければ、ガンマは穏やか
セータがほぼゼロなら、ガンマは牙をむく
0DTEはまさに後者。時間がゼロな分、ガンマが過剰に効く。
そのため、1分前に100ドルだったプレミアムが、急騰して1万ドルになることもあれば、逆に100ドルが一瞬でゼロになることもある。この極端な価格変動が、日常的に発生する。それが0DTEだ。
この劇的な値動き、そして寿命ゼロという性質から、0DTEは一部で「カジノ」と揶揄される確かに、価格の振れ幅だけを見れば、ゲーム性は非常に高い。だが一方で、これを戦略的に活用するトレーダーやヘッジャーも多く存在する。デルタ・ガンマの調整を日中で精緻に行うプロ勢にとっては、この短命オプションは**「精密なツール」**としての価値を持つ。
米国市場での人気
この0DTE、今や米国市場で最も取引されているオプションと言っても過言ではない。
SPX(S&P500指数)では毎営業日0DTEが用意されており
取引高・建玉(OI)はほぼ毎月過去最高(ATH)を更新
特に、CPIやFOMC、失業率などの経済イベント当日には、0DTEのフローが相場全体の値動きを支配するレベルになる。かつては異端と見られていた0DTEオプションだが、今やマーケットの「日々の気分」を決定づける重要なプレイヤーとなっている。
1日の中で、極端な価格変動とポジション調整が交錯する場。
それが0DTEであり、VIX1Dのような“超短期ボラ指数”が注目される理由でもある。
コラム 0dteトレーディング
投機的やらカジノと毎度蔑称がつけられる0dteだが0dteで収益化することは十分に可能である。筆者は常に0dteで張る訳では無いが複数の条件が揃いフローの方向性が読める場合には0dteでガンマスキャルピングすることが時たまある。
すべての局面で勝てると断言できるほどうまくはない、大きく張ることもないが、0dte1枚をトレードするだけでも軽い副業程度に稼ぐことは可能である。大切なのは現在のガンマ、バンナ、チャームとヘッドラインの情報、原資産の出来高といま誰が売り買いしているのか?フローはどちらの方向に向かっているのかということを常に頭に入れながらトレーディングを行うことである。また0dte特有の現象として30秒後には雲散霧消かとんでもない暴騰が起きる可能性が常にあるためポジションサイズは小さく抑え細かく値動きを拾うことが肝心である。
フローで見るVIX
ここまで、VIXそのものの定義やVIX先物・VIXオプション・VVIXなどを見てきた。このパートでは視点を変えて、「そもそも誰が、何の目的でVIX周りを売買しているのか」をざっくり整理しておきたい。
「恐怖指数」という名前のせいで、つい「みんなが怖がっているからVIXが上がる」といったメンタルの話に見えがちだが、実際にVIXやVIX先物を動かしているのは、かなり具体的なフローである。
VIXを動かしている層
VIX(とその周辺プロダクト)に関わる主なプレーヤーは、大雑把に分けると次のようになる。
ロングオンリー勢のテールヘッジ(保険買い)
ボラ売り勢(保険の売り手)
マーケットメイカー / ディーラー
VIX連動ETPの発行体・リバランスフロー
相対価値・裁定トレーダー(リラティブバリュー勢)
短期トレーダー・個人投資家のイベントトレード
それぞれ、どんな意図でどんなポジションを持ちやすいか、簡単に見ていく。
ロングオンリー勢のテールヘッジ
まず、株を長期で持たざるを得ない人たちがいる。
投信・ミューチュアルファンド
年金・保険・ソブリン系
一部のロングオンリー株式ファンド
彼らは基本的に「株を売ってキャッシュにする」ことが難しいので、
大きな下落(クラッシュ)のときだけ効いてくれればよい保険として、
SPXの深いOTMプット
VIXコール、VIXコールスプレッド
VIX先物ロング(あるいはロングロール)
といった形でテールヘッジを組むことがある。
このフローは、平時はじわじわとプット・コールの需要を支える常在フローと機能しショック前:イベント前に保険需要が膨らみVIX先物やVVIXが先に動き始めるといった形で効いてくる。
こうしたテールヘッジファンドの実像に迫ったインタビュー本として挙げておきたいのが『カオスの帝王』である。実際にヘッジを担うロングオンリー勢やテールヘッジファンドが、どのような発想でポジションを構築し、どの局面でどう動いているのかが具体的に語られており、本稿のテーマに関心がある読者には非常に参考になる一冊である。
参考文献
ボラ売り勢
一方で、常に保険を売り続けてプレミアムを取りに行きたい勢もいる。
カバードコールやコールライトを組むファンド
インデックスに対してストラングルショートするタイプのファンド
VIXロングETPを対象にしたインバースETP・ショートVIX戦略
ストラクチャード商品(オートコール債など)の裏側
彼らは基本的に、「平時のボラは平均回帰してくる」「ボラを売ればリスクプレミアムが取れる」という前提で動いているため、
SPXプット/コール売り
VIX先物ショート
VIXコールショート(あるいはプットロングとの組み合わせ)
などを通じて、構造的なショートボラになることが多い。スマイルカーブのコール側を歪めるのは主にこの層である
このフローは、
平時:VIXやVIX先物の水準を押し下げる方向に効きやすい
ショック時:一斉に踏まされてショートカバー→VIX急騰の燃料になる
という「平時にプレミアムをくれる代わりに、ショック時に火をつける側」だと思っておけばよい。
マーケットメイカー / ディーラー
VIX先物・VIXオプションには、当然板を作っているマーケットメイカーが存在する。彼らは原則として「フラット志向」だが、顧客からのフローに合わせて一旦リスクを引き受け、他のVIX先物・オプション、SPXオプション場合によっては他指数のボラなどを使ってヘッジしていく。
顧客のVIXコール買いが続けば、ディーラーはVIX先物ショート・ショートガンマ/ショートベガ方向に押し込まれる
そこでVIXが吹き上がると、VIX先物を買い戻してヘッジせざるを得ず、
それ自体がさらにVIX先物の上昇圧力になることもある
つまり、ディーラーは中立を目指しているにもかかわらず、
結果としてフローの偏りが大きい局面では、VIXの動きを増幅する側になり得る。
VIX連動ETPの発行体・リバランスフロー
前のパートで触れたように、VIX連動ETN / ETFは「短期VIX先物のポートフォリオ」に連動するように設計されている。
発行体は、投資家からの資金流入・流出に応じて:
連動対象インデックスに合わせて、VIX先物を買い増し/売り戻し
毎日ロール(期近売り・期先買い)を行う
といったリバランスをする必要がある。VIXロングETPへの資金流入が一気に増えれば、発行体はVIX先物をまとめて買うことになる。逆に、インバースVIX ETPの解約や償還が発生すれば、それに伴うポジション解消がVIX先物市場に一気に出る。2018年2月のような「インバースVIX壊滅イベント」では、こうした ETPのリバランスフローそのものがボラショックを加速させたと指摘されている。
ボラティリティ裁定ファンド(ボラアーブ)
もう少しマニアックなところでは、
VIX先物とSPXオプション(バリアンススワップ)のスプレッド
期近と期先のVIX先物のカレンダースプレッド
VIX先物とVVIXの関係
他指数(例えばEuro Stoxxのボラ指標)との相対価値
などを見ながら、ボラ同士の歪みを取りに行く裁定戦略も存在する。彼らは基本的に「ボラ同士の相対価格」を触っているため、
VIXそのものの水準を動かす主役になることは少ない
ただし、歪みが極端に出たときにそのギャップを詰める方向のフローを出す
という形で、ボラ市場の歪みをある程度抑える役割も担っている。
コラム バリアンススワップとはなにか
バリアンススワップというのは、一言でいえば「これから先の一定期間で、どれくらい相場が荒れるか」にお金を賭けるためのスワップ契約である。価格そのものではなく、その期間中の「実際に起こったボラティリティ」によって損益が決まる点が特徴だ。
イメージとしては、「今から○日間の相場の荒れ具合を、『年率ボラ何%相当』と見積もるか」を取引相手と約束しておき、その約束より実際のボラが大きくなれば、ボラを買っていた側が得をし、逆に静かなまま終わればボラを売っていた側が儲かる、といった構造になっている。株価が上がるか下がるかより、「どれくらい揺れたか」で勝敗がつくわけだ。
ここでVIXとの関係が出てくる。VIXは「これから30日間のボラティリティ期待」をSPXオプションから合成した指標だが、プロの世界では「30日物のバリアンススワップがどの水準で取引されるべきか」をざっくり示す目安としても使われている。厳密な話を全部捨ててしまえば、VIXは「1か月先のバリアンススワップのフェアな水準にだいぶ近い数字」と思っておいても大きな間違いではない。
実務では、このバリアンススワップを銀行やヘッジファンド同士が店頭でやり取りし、そこで積み上がったポジションを、さらにSPXオプションやVIX先物でヘッジしたり分散させたりしている。個人投資家が直接触る機会はほぼないが、「VIXの裏側では、実現ボラそのものを売買する契約が飛び交っていて、その結果としてSPXオプションやVIXの価格が歪んでいる」という構図だけ頭に入れておくと、VIXが単なる恐怖指数以上のものに見えてくるはずだ。
要するに、バリアンススワップは「実現ボラそのものの先物」、VIXは「そのフェアバリューをざっくり指し示すインデックス」という関係にある。VIXの値段の背後には、「その水準で未来のボラを買いたい人」と「その水準で未来のボラを売りたい人」が綱引きをしている、というくらいに理解しておけば、このコラムとしては十分だろう。
短期トレーダー・個人投資家のイベントトレード
最後に、短期売買を好む裁量トレーダーや個人のフローがある。
FOMC/CPI/雇用統計などイベント前に、
「一時的なVIX上昇」に賭けてVIX先物やVIXコールをロングする逆に、イベント後に「ボラの消滅」に賭けてショートする
といった、数日〜数週間スパンのトレードである。
規模としては機関投資家やETPに比べて小さいが、
直近限月のVIX先物
短期のVIXコール・プット(特にOTM)
など、板の薄いところに集中的に注文が入ることで、局所的な歪みやVVIXのスパイクを生むことがある。
「誰が何をしているか」を意識してVIXを見る
以上を雑にまとめると、
ロングオンリー勢:保険買い(ロングボラ)
ボラ売り勢:保険の売り手(ショートボラ)
ディーラー:その間に挟まれて中立を目指しつつ、ときどき増幅装置になる
VIX ETP発行体:タームストラクチャーに沿って機械的に先物を売買する大口フロー
裁定勢:ボラ同士の歪みを詰めにくる
短期トレーダー・個人:イベント前後のスパイス
という構図になる。
「VIXが上がっている=みんなが怖がっている」と解釈するのは、これだけのレイヤーを全部すっ飛ばしたかなり乱暴な見方である。むしろ、いま上がっているのは、どの限月のVIX先物か、といったフローの中身を想像しながら見ることで、同じVIXのチャートでも、だいぶ違った景色が見えてくるはずだ。
まとめ
いかがだっただろうか。今回はVIX入門編として、あくまで「さわり」の部分を中心に解説した。
VIXの世界は、オプション取引の中でも特に奥深い領域であり、noteでは到底書き切れない深層が山のように存在する。
VIX先物とのベーシストレード、VIXオプション、あるいはUVXYの構造など、今後掘り下げたいテーマはいくつもあるが、筆者自身まだ十分な知見を持ち合わせていないため、今回は見送ることにした。
本稿がVIXという“恐怖指数”の世界に興味を持つきっかけとなれば幸いである。
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素晴らしい文章校正。話が複雑になるのはSPXが下落したとき、たとえ各ストライクのIVが全く変わらず、スマイルカーブの形状が固定だったとしても、VIX指数は数理的に上昇するということです。つまりVIXが上昇するためには、PUTがそこから買われる必要すらないのです。