社会
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「まさか息子介護する日が来るなんて」「生きていてくれたからこそできる苦労」…事故で障害、「親亡き後」の不安
ケアラーの風景 読者をたずねて
病気や障害、認知症などの家族を世話するケアラーの声を伝える連載「ケアラーの風景」(随時掲載)に、四国地方のパートの女性(68)からメールが寄せられた。突然の交通事故で心身に障害を負った長男(40)を世話する。「不安に押しつぶされそうになることもあるが、生きていてくれたからこそできる苦労だとも思う」。昨年11月、女性に話を聞いた。(山田朋代)
買い物を終え、長男を助手席に乗せる女性
のどかな田園に囲まれた住宅地。戸建て住宅から出てきた女性は、右半身が不自由な長男を車の助手席に座らせると、車いすを持ち上げてトランクに入れた。「これが重くて、腰にくるんですよ」
行き先は車で5分ほどのスーパーだ。毎週2、3回、長男と一緒に訪れる。車いすに長男を乗せて店内に入り、まず向かったのはパン売り場。「大きいパンがいい」。朝食用に長男が好きな菓子パンを買うことが多かったが、物価の高騰で食費がかさんでいる。女性は「今日は二つまでね」と、くぎを刺した。
長男は3年前、バイクを運転中に対向してきた車と衝突事故を起こし、頭を強く打った。一命は取り留めたものの、右半身はまひして動かない。手すりを伝えば歩けるが、段差を越えるのは難しい。事故前後の記憶はすっかり抜け落ち、新たなことを覚える「記銘力」も失った。自分と家族の名前以外の漢字もほとんど読めなくなった。
身体障害者手帳2級、精神障害者保健福祉手帳3級。週2回ほど、障害者らが軽作業を行う作業所に通う。「今まで外で好き放題していた息子が何もできなくなった。まさか、息子を介護する日が来るなんて……」
老後の足しに、と続けてきたスーパーのパートの仕事を減らし、1日の多くを長男の世話にあてる。食事は、右手が不自由な長男が食べやすいように一皿ずつ体の正面に差し出す。就寝前に20錠ほど飲む薬は、間違えないように必ず手渡しして、ゆっくり飲ませなければいけない。入浴や用便の際は準備や後始末が必要。おねしょも多いため、気が休まらず、常に寝不足気味だ。
夫(70)は長男を作業所に送迎したり、病院に連れていったりするものの、長男の行動にいらだち衝突してしまうことも多い。「もしかしたら、息子の状況をまだ受け入れられない部分もあるのかもしれません」と思いやる。
「息子は結構もてたんですよ。でも、もう結婚なんて到底できない。友人とのメールも成り立たない。ずっとテレビを見ていることしかできなくなった」。夕食後、テレビの歌番組を食い入るように見ている長男の横顔に視線を向け、女性がつぶやいた。
いつか訪れる「親亡き後」が最大の懸念だ。持病と過去に患った乳がんの後遺症などで、長男の世話は年々つらくなっている。家計は夫の年金とパートの給料で何とかやりくりしている状況。長男は事故前、定職に就かず、保険料を納めていない期間が長かったことなどから、障害年金を受給できない。
誰に世話を託すか、どう蓄えを残すか――。役所などに相談するが、方向性は見えない。「働ける間は働き続けるしかない」
事故後、一時的に意識不明に陥った長男が意識を取り戻し、「生きててよかった」と漏らした一言が心の支えだ。つらいと感じた時は、ありのままを日記につける。Bの曲を口ずさみ、気持ちを奮い立たせる。
女性が長男に問いかけた。「お母さんはあんたのために何をしている?」。長男は女性に顔を向けて答えた。「全部。全部してくれてる」。乳がんの後遺症でむくんだ左腕をそっとさすった。
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