民家のガス給湯器がまだ使えるのに取り換えが必要だと住人に説明し、給湯器を販売したなどとして、兵庫県警が特定商取引法違反などの疑いで、訪問販売業の40代夫婦を逮捕した。夫は大阪ガスのロゴを名刺に無断で使用。大ガスの代理店を装い、高齢者宅などを繰り返し訪問していた。取り外した給湯器を別の家に使い回すという大胆な手口だったが、知人に頼んだ取り付け工事の施工が甘すぎたことで事件が発覚した。
「大阪ガスです。給湯器の点検に伺います」
令和3年6月、兵庫県西宮市の無職男性(78)宅に市内の訪問販売業の女性から電話があった。その当日、女性の夫が男性宅を訪問。「大阪ガスサービスショップ」と記された名刺を差し出し、「給湯器は設置から10年がたっています。すぐにでも交換したほうがいいですよ」と持ち掛けた。
信じた男性は製品代や交換費用として25万円を支払ったが、給湯器は平成30年9月に設置されており、型番からも30年当時の製品だったことが裏付けられた。捜査関係者は「設置後10年というのは明らかに噓だ」と明かす。
県警生活経済課は今年1月、特商法違反と詐欺の疑いで夫を逮捕。翌月には妻も逮捕し、夫を再逮捕した。夫婦は「大阪ガスとは言っていない」「10年経過と言っていない」などと容疑を否認。ただ、県警はロゴ入りの名刺を夫婦宅から押収し、「大阪ガスと名乗ったからこそ相手は信用した」とみている。
給湯器使い回し、犯行重ねる
点検を口実に主に高齢者宅を狙い、設置と交換を繰り返した巧妙な手口。どのように発覚したのか。
令和2年12月に起きた同様の事件では、夫に取り換え工事を依頼した西宮市の無職女性(84)宅の給湯器が、市内の別の民家に取り付けられた。しかし、この民家への取り付け時に施工不備があったとみられ、水漏れが発生。住人から連絡を受けた正規代理店の従業員が型番を確認したところ、無職女性宅の給湯器が使い回されていたことが判明し、県警も事件を把握することになった。
水漏れのあった給湯器に取り換えたのは夫の知人。県警の調べに「給湯器を用意するのは夫で、中古品を取り付ける工事もあった」と釈明した。夫からは中古品を使うことを施工先に了承されているとの説明も受けていたという。
大ガスによると、実は2年6~10月、「大ガスをかたる不審な男がいる」と正規代理店などから通報が相次いでいた。大ガスはその後、夫に勝手にロゴを使わないよう2度警告したが、夫は無視して訪問を繰り返していたとみられる。
3年で4300万円
県警によると、夫は令和3年までの約3年間、兵庫、大阪両府県の高齢者宅などで計274件の給湯器交換工事を請け負っており、売り上げは約7千万円に上った。工事のために給湯器を仕入れた実績もあり、仕入れ代や取り換えを頼んだ知人への工賃などを除いた約4300万円が利益になっていたという。
押収された売上伝票には、給湯器の仕入れ代が記載されていない工事が約20件含まれ、県警はこれらの工事で使い回しが行われたとみて捜査していた。ただ被害者が高齢で記憶があいまいな部分があり、立件は2件にとどまった。
その後、夫は神戸地検尼崎支部に特商法違反罪で略式起訴され、尼崎簡裁から罰金30万円の略式命令を受けた。一方、夫と妻の詐欺罪、妻の特商法違反罪については不起訴となったが、同支部は理由を明らかにしていない。
大ガスの看板を借りて顧客を誘導する「コバンザメ商法」のような手口。被害者は金銭的な被害に加え、正規代理店が取り付けた給湯器ではないため、大ガスの無料修理サービスを受けることができないという。
大ガスによると、今回の事件以前から、大ガスや関係会社の従業員を装った電話や個別訪問で個人情報を聞き出したり、点検・修理と偽って代金を詐取したりする事件が起きているという。担当者は「正規の訪問時は原則制服と名札を着用している。不審に思ったら社員証の提示を求めてほしい」とし、同社窓口(フリーダイヤル0120・0・94817)への問い合わせを呼び掛けている。