「自分の弁護で死刑にしてしまった」十字架背負う弁護士 死刑囚との伴走が生んだ「奇跡」
死刑確定後、奥本死刑囚から感謝の言葉
2014年10月、最高裁は奥本死刑囚に死刑判決を言い渡した。二審判決後に被害者遺族が「死刑と決めないでほしい」とする異例の上申書を最高裁に提出していたため、黒原さんは一縷の望みを懸けていたがもろくも崩れ去った。 死刑が確定し、奥本死刑囚が宮崎拘置支所から刑場がある福岡拘置所に移送される直前、黒原さんは接見に訪れた。奥本死刑囚は黒原さんに会える最後の機会だと思い、感謝の言葉をかけている。 「これまで本当にありがとうございました。静かな池に石がボチャンと落ちると、水面に波紋が広がっていきますよね。僕はあの石になりたいんです。奥本という人間がいて、大変な事件を起こしてしまう。でも、その奥本を通していろいろな人が知り合い、幸せとか家族とか死刑とか裁判とかを考えるきっかけにでもなれれば。そういう石になれれば本望なんです。だから、あんまり悔やまないでください」 黒原さんは内心「お前、そんな洒落たこと言える奴じゃなかっただろ」と突っ込みたくなったが、涙で言葉が出てこない。奥本の目も潤んでいた。 3日後、福岡拘置所に移送されるバスの中から奥本死刑囚は外の景色を眺めていた。自分が殺めた3人が眠る菩提寺はどのあたりにあるのだろう。車内で手を合わせて南無阿弥陀仏と念仏を唱え続けていた。
涙ながらに明かした黒原弁護士の思い
黒原さんは刑の確定から12年が経った現在も毎月1回、宮崎県から福岡拘置所の奥本死刑囚のもとを訪ねている。どんなに忙しくても、この接見だけは欠かしたことがない。2025年9月、奥本死刑囚の家族や支援者が出席した集会で、その思いを涙ながらに語った。 「死刑を回避する方法があったにも関わらず、自分の至らぬ弁護活動で1人の男を死刑にしてしまいました。その贖罪の気持ちで私は福岡に通っているのです。私が奥本を助けているのではありません。逆に彼から支えられているのです」
奥本死刑囚にとって、黒原弁護士の存在は
奥本死刑囚の存在は、黒原さんにある「奇跡」をもたらした。刑の確定後、奥本死刑囚の支援者になった女性が、黒原さんの妻になったのだ。夫妻の間には2人の息子も授かった。 黒原さん夫妻に生まれた新たな「命」は、奥本死刑囚の数少ない生きる励みの1つになっている。独居房に置かれた写真立てには2人の子どもの成長の軌跡が収められ、命についてあらためて向き合うきっかけともなった。奥本死刑囚が描いた子どもたちの数々の絵は、黒原さん一家のリビングの壁を彩っている。 奥本死刑囚にとって、黒原さんはどんな存在なのか。関係者を通じて、筆者に書面で回答を寄せてくれた。 「黒原弁護士は大恩人です。愚かな僕に寄り添い続けてくれ、何かと助力してくださり、生きる力を与えてくれる存在で、本当に有難い、奇跡の存在です」