〈社説〉国家情報局法案 物言う自由を押しつぶす
治安・情報機関による市民の監視が一段と強まる危うさをはらんだ法案である。通り一遍の審議で押し通してはならない。
衆院で審議されている国家情報会議の設置法案だ。与党は22日に内閣委員会での採決を目指すという。実質審議に入ってまだ10日余り。核心に踏み込んだ議論はなされていない。
首相を議長とする情報会議の下に「国家情報局」を置く。現在の内閣情報調査室を格上げし、インテリジェンス(情報活動・諜報(ちょうほう))の司令塔として、警察、自衛隊などの情報機関を総合調整する権限を持たせることが柱だ。
情報の集約と一元化によって、治安・情報当局の権限がさらに強大化するのは明らかだ。高市早苗首相は「国民の監視強化、プライバシーや表現の自由の侵害につながるとの懸念はあたらない」と述べたが、根拠を欠く。
政府の政策に反対するデモや集会の参加者が調査の対象にならないか、との野党議員の質問に、首相は「デモや集会に参加していることのみ」を理由に対象になることはないと答えている。「のみ」としたのは、ほかの理由を持ち出せば対象になり得るということの裏返しではないのか。
情報当局が政権に政治利用される危険性についても、「マスコミや野党の追及をかわすといった目的だけ」で情報活動を行うことはないと述べた。ここでも「だけ」と限定して、むしろ余地を残したように受け取れる。
当局が市民の言動にひそかに目を光らせている実態は、既にその一端が明るみに出ている。自衛隊の情報保全隊は2003年、イラクへの派兵に反対する市民集会や街頭のデモを監視し、参加者の個人情報を収集していた。
岐阜県警大垣署が風力発電施設の建設に反対する住民の情報を集めていた事件は、名古屋高裁が一昨年、違憲と認めている。しかし、当局による監視や情報収集は依然として闇に包まれ、歯止めとなる法や仕組みも欠いたままだ。
高市政権はこの法案の先に、スパイ防止関連法の制定をにらむ。特定秘密保護法や共謀罪法といった治安立法の後ろ盾を得た当局がこの上、強い権限を手にすれば、物言う自由は押しつぶされ、社会のあり方が一変しかねない。
治安・情報当局の活動を、独立した第三者機関が監視する仕組みさえないまま、法案を成立させるのは極めて危うい。国会は、廃案も視野に、徹底した審議を尽くさなければならない。
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