鍛錬バカも
大概にしろ!
あまりに自分の身体を気遣わないアイクにライがキレるお話です。腐要素はあまりない、かな。このあとテントのベッドで横になったアイクの上に化身したライが丸まって眠る図まで浮かんだのですが、書けませんでした…
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自身から見て右から上段の構えで迫ってくる敵を逆袈裟で切り捨て、左後ろの敵の槍を背中に回した剣で受け止める。
振り向きざま相手が間合いを取る前に今度は袈裟斬りに切りつけたあと突きを二連続食らわせて倒し、元の位置に戻って上段の構えで次の敵を待つ。
と、そこでアイクの意識が唐突に現実に連れ戻された。
ザザザザッ
風切り音に草木を掻き分ける足音。
架空の敵を即座に打ち消し、迫り来る何者かに警戒心を高めたところで、生い茂る森の中からそれは姿を表した。
「っ?!お前…っ」
澄み渡った空を思わせる水色の毛並みに、左右で色が違うオッドアイの瞳。しなやかな体躯は体長2メートルにも及ぶ。
普段と違うのは彼が化身していることだが、それでも見慣れた友の姿に驚きを隠せないアイクが名前を呼ぶ前に、彼は臨戦態勢のまま踊りかかってきた。
「っ…ライ!なんのつもり…」
彼の意図がわからないままに、咄嗟にその鋭い爪を剣で受け止める。
全体重を乗せたかのような重い一撃に、思わず眉根を寄せながらこちらも体重を込めて押し返す。
くるっと一回転して何事もなく着地したライの意図を知ろうと口を開くが、まだ臨戦態勢を解かない彼に自然口も閉じた。
(何のつもりか知らんが…やる気だってことか)
ならば自分は相手になるだけである。
ライの真意を図ることを諦め(元来自分はそういったことは苦手である)、アイクは得意の上段の構えをとる。
すると、じりじりと距離を測りながらこちらの動きを伺っていたライがアイクのその動作にすっと目を細めた。
それがまるで挑発を受け取ったと言わんばかりの仕草で、アイクはやはりライが何を考えているのかわからなかった。
視線の交錯の後、地を蹴ったのは同時だったように思う。
ベオクの足なら10数歩は踏まなければならない距離を、獣牙族は2、3歩で詰めてくる。
そんなことは分かり切っていたのであっという間に目の前に迫ったライに、アイクもまた一歩踏み出して上段の剣を振り下ろす。
ガキィンッ
剣戟の音と共に鈍い衝撃が腕を通って身体全体に行き渡った。
(なんて重い一撃だ…っ本当に何を考えてる…?!)
攻撃のために踏み出したはずの足がふらつく。
そのまま後ろに倒れそうになるが、なんとか持ち堪え力を込めて押し返す。
すると、一度後ろに着地したライがそのまま間髪おかずに再び跳躍した。
「?!しまっ…」
助走距離を取らずにそのまま跳ぶとは思ってなかったので体勢を立て直す間がない。
思わず顔の前で腕を交差すると、ざあっと頬を風が撫でた。
「……?」
そっと目を開けると視界にライの姿がない。
首を巡らせてもどこにもいない。
不思議に思ったその直後。
どすっ
「…っぐ…!」
背中に一際重い衝撃を食らったと同時、アイクは今度こそ地に膝をついた。
後ろから衝撃を食らったのでどうしてもうつ伏せに倒れてしまったアイクを、攻撃するでもなくわざわざ丁寧に仰向けに直し、しかしそのまま馬乗りになって乗ってきたライ。
ここまで来ても何がしたいのか理解ができずアイクは不機嫌を隠さずライを睨みつけた。
「何がしたいんだ、ライ…」
「…………」
ライは化身を解き、またじっとこちらを見つめる。その色違いの瞳にはやはり苛立ちの色が見えた。
じっと見下ろしたまましばらくライは無言だったが、やがて深いため息をついてから口を開く。
「お前昨日、寝てないんだってな?さっきミストに聞いた」
「……?いや寝たぞ。起こしに来たのもミストだ」
「嘘つけ、起こしに行ったら机にうつ伏せになって眠ってたって言ってたぞ」
間髪おかずに反論され、アイクは今朝自分が起きた時の状況を思い出した。確かに、机で眠ってしまったために顔に跡がついていたのをミストに笑われた記憶がある。
「…まあ、横になって寝てはいないが…」
「じゃ何時間寝た」
「…………」
「わかんねぇよな?横になってねぇってことは気が付いたら寝てたってことだからな」
「……………」
口を開こうにも出て来る言葉が見つからず、押し黙る。
「今朝起きたのはいつも通りってことはどうせ夜が明けてすぐには起きてんだろ?…なぁアイク、そんな状態でなんでお前はまた鍛錬なんてしてるわけ?」
「………それは」
「”身体を休めるより動かしてた方が気が楽だから?”」
「、よく分かったな…」
やっと言葉を発しようとすれば自分が言いたかったことを先に言われる始末。
「お前の思考回路なんて見え見えだっつーの!ったく…張ってるもの程切れやすいって知らねーのかよ…」
「…?」
「布とか紙とかなんでもいいけど、ぴんと張ってたら攻撃食らった時に弱いだろうが…。常に緩めてろとは言わねぇけど、たまには緩めねぇと戦場でこうなるぜ?」
そう言ってライはアイクの首に手を添えた。
その行為にもちろん悪意はない。しかし、ライの言ってることは否が応でも理解できた。
いまここにいるのがよく知った友ではなく、敵兵だったとしたらと、言いたいのだ。
「さらに言っとくと、俺いま全然本気出してないからな」
「何?!嘘だろう…」
「嘘じゃねぇよ、そんだけお前が疲れてんの」
やけに全力で攻撃してくるなと苦戦したのに、それはアイクの体力の問題だったのか。
「…………」
「わかったらさっさとテントに戻って寝る!言っとくが今夜はベッドから逃がさねぇからな」
じろり!と睨んでくるライの目が本気だと悟り、アイクは一度ため息を着いてから頷いた。
どうやら心配して来てくれたのだと漸く理解できた。
<END>
ライアイ尊いです!ありがとうございます!!