御霊猛疾 ― ミタマタケハヤ ―
三河筆刀斎(三河蕾花)
序節 戦さ灰
御霊猛疾 ― ミタマタケハヤ ―
著:三河筆刀斎(三河蕾花)
――豊かな自由を得るには、孤独という寂寞を受け入れねばならない。
✕
それは今から数えることおよそ六百年前。
長らく続いた平安の時代、
世相の悪化と、自己保身に走り続けるだけの愚昧なる権力者・
困窮する民から年貢を取り立て続け、さしたる善政を敷くでもなく、ただただ私服を肥やす愚将。
平和にうつつを抜かしていた、抜かしすぎていた神将一族、火狩家による大幕府はまっとうに機能を果たせずにいた。
平和という魔物に、徹底的に骨を抜かれたと言って良いだろう。
一方で、厳しい暮らしの中で叩き上げられていた地方豪族らは、兵糧として貯めていた備蓄米を放出。そうして困窮する民を救い、まとめ上げて麾下に加え、力をつけはじめ――。
各地で、武士団と、それが支配する国が興り始めた。
それらが武家社会の台頭を火付けとするには、十分すぎるものだろう。
飢えに飢えた民は、当初は己の腹を満たす為戦っていたが、次第にそれは、天下泰平・天下布武による乱世の平定という目的へ変化していき。
――しかしながら、それは天下国家を論じた舌の根も乾かぬうちに、人を殺める時代を示す、戦国乱世の末法の思想。
その表れであると言えた。
まさに、和深の地ではその全土で、大小の規模を問わず、戦さが恒常のものとなった。
しかし、八十年前。戦灰暦五〇〇年前後には、一旦、安定の兆しを見せたのである。
この戦さにおいて、鉄砲の効率的な運用である、徹底的な速射技術である三段撃ち。
むろん、威田にも鉄砲くらいあるが。
物流と兵站、その補給の質に大きな差があった。
織田は質のいい硝薬と鉛玉を用意できた一方で、威田は鋳潰した青銅やら、暴発さえ危ぶまれる火薬を利用していたのである。
剣と槍の時代に、それを幕引きとするかのような銃撃戦。
この衝撃が、おそらくは、いっときの安寧をもたらしたのであろうが――。
それもつかの間。その十年後には信永は謀反に倒れた。
しかし、事実、それはおき、信永の短い天下は終わったのだ。
そうしてまたしても、和深の地は大乱へと逆寄せしていたのである。
……これはそんな時代、
――狐の神。
そう呼ばれるに至る
彼は東条和深、つまり、和深の地の東地域の沿岸にある、美河国で生まれた。
この御霊猛疾を語るうえで、まずはその男子の、柚丸と名乗り上げた彼の、
――青く滾る野心から語らねばなるまい。
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