オーストリア連邦軍は、全てのデスクトップシステムにおいて「Microsoft Office」を廃止し、オープンソースの「LibreOffice」スイートに全面的に移行するという大規模なIT刷新を完了した。この変更は9月に完了し、同軍が保有する約1万6000台のワークステーションが対象となっている。
この移行によって、オーストリアのソフトウェア関連費用は大幅に削減される見込みである。「Microsoft 365 E3」のサブスクリプションは、1ユーザー当たり月額33.75ドルであり、1万6000台分では年間約648万ドルに達する。一方、LibreOfficeは無償で提供されているため、コスト面でのメリットは非常に大きい。
しかしながら、この決定の本質的な目的は単なる経費削減ではない。真の狙いは、デジタル主権の確立と、重要なデータに対する管理権の確保にある。情報通信技術(ICT)およびサイバー防衛を担当する第6局のMichael Hillebrand氏は、「この取り組みで最も重視したのは、デジタル主権を強化し、ICTインフラの独立性を維持し、データが国内でのみ処理されるのを保証することだった」と語っている。
こうした懸念はオーストリアに限ったものではなく、欧州連合(EU)加盟国の多くが、データ保護の観点からMicrosoft製品の使用を見直す動きを見せている。例えば、ドイツのシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州では、政府機関においてMicrosoft製品を「Linux」とLibreOfficeに置き換える計画が進行中である。
オーストリアの決定は、デンマーク政府が同様の理由でMicrosoft製品からの脱却を表明した直後に発表された。また、フランスのリヨン市も、市民のデータ保護を目的として、「Windows」およびOfficeからLinuxとLibreOfficeへの移行を進めている。
近年、デジタル主権は、米国企業に依存してきた非米国諸国にとって、ますます重要な課題となっている。多くの欧州政府は、Trump米政権下における米国企業の動向に対して、自国のデータやソフトウェアを委ねることに不信感を抱いている。
彼らが懸念しているのは、米国政府の意向によって自国のデータが閲覧されたり、Microsoftがサービス提供を停止したりする可能性があるという点である。Microsoftの会長 兼 法務責任者であるBrad Smith氏は、こうした懸念を否定し、政治的圧力に対してEUの顧客を守ると約束したが、Microsoftに対する不信感は依然として根強い。
その不安は、The Guardian紙が先ごろ報じた、Microsoftがイスラエルに対してクラウドサービス「Azure」のアクセスを遮断したというニュースによってさらに高まっている。イスラエルはAzureをパレスチナ監視システムのデータ保存に利用していたが、Microsoftはそのアクセスを停止した。この決定には支持の声もあるが、同時に米国企業が政治的理由で顧客のITリソースを遮断する可能性があることを示す警告として受け止められている。
オーストリア政府は、こうした事態が今後起こり得ると2020年の時点で認識していた。軍が外部クラウドサービス、特に米国企業のサービスへの依存リスクを懸念し始めたのはこの頃である。ドイツ連邦内務省も2019年に、ドイツがMicrosoft製品に過度に依存していると警告していた。
こうした背景のもと、オーストリアでは数年前から移行計画が始動していた。2022年には、職員が希望すればLibreOfficeへの移行が認められるようになり、2023年には外部の開発者が加わって、軍の業務に必要な機能を強化するためのトレーニングやLibreOfficeの機能拡張が行われた。これらの機能の多くはLibreOffice本体のプロジェクトにも還元され、全てのユーザーがその恩恵を受けられるようになっている。
オーストリア軍は単にMicrosoft製品を置き換えるだけでなく、一般的な公共部門や企業の移行とは異なり、LibreOfficeの開発そのものにも積極的に関与している。軍は新機能や改善点の開発資金を提供しており、それらは最新のLibreOfficeの公開版にも反映されている。例えば、スライドショー編集機能の向上やピボットテーブルの処理能力の改善などがその一例である。
長年にわたり、「Office 2016」は軍の業務フローに深く組み込まれていたが、2025年9月時点で、全てのシステムから完全に削除された。ただし、特殊な業務上の必要がある職員に限り、「Office LTSC 2024」モジュールへのアクセスが個別に認められる場合がある。また、「Access」や特定のフォントライセンスなど、一部のプログラムについては限定的に使用が継続されている。
オーストリアのこの決断は、欧州各国政府が重視し始めている「データの独立性」「オープンな協力体制」「外部クラウドサービスへの依存からの脱却」といった潮流を象徴している。Linuxを基盤とする欧州企業SUSEなども、EU諸国や企業が欧州ベースのオープンソースソフトウェアやクラウド、サービスへ移行するための支援を提供しており、この動きは今後さらに加速していくと見られている。
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この記事は海外Ziff Davis発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。