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【解説】現況測量だけで土地取引を進めるリスクと具体例

不動産取引の現場では、スピードやコストが重視されるあまり、境界確定を行わず「現況測量のみ」で土地売買や土地利用を進めてしまうケースを見かけることがあります。

しかし結論から言えば、これは相応、あるいはそれ以上のリスクを内包した判断です。
本記事では、不動産に関する業務をされているすべての方に向けて、現況測量のみで進めることの危険性とその具体例、境界確定の本質的な意味について整理します。


そもそも「現況測量」で何が分かるのか

現況測量とは、

  • 現地に存在する塀・フェンス・擁壁・ブロック

  • 既存の境界標

  • 利用状況や占有状況

といった「今そこにあるもの」を前提に測量図を作成する作業です。

つまり、

「この土地が法的にどこまでなのか

を確定する作業ではありません。


地積測量図がない土地では「確認なし確定」は不可能

「地積測量図」とは、土地の形状を公示するために法務局に備え付けられている図面のことです。
費用を払えば誰でも見ることができます。
特に注意が必要なのが、この地積測量図が備え付けられていない土地です。

この場合、

  • 隣接地所有者への確認

  • 境界に関する合意

を経ずに、

「この線が境界です」

と決めることはそもそもできません
また、地積測量図があったとしても、境界標がなかったりその誤差が大きい場合(現地復元性が認められない場合)はその図面のみをもって境界を決めることは困難です。

現況測量図にそれらしい線を引いても、それは

  • 単なる仮定

  • 位置の推測

に過ぎず、法的な裏付けは一切ありません

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地積測量図

境界標は「境界」ではない

ここで、誤解されやすい重要な点を一つ補足しておきます。

「境界標=境界」ではありません。

境界標とは、あくまで

境界の位置を示す「根拠となる重要な地物」

に過ぎず、境界そのものとは異なります

境界は、

  • 登記記録

  • 測量成果

  • 隣接地所有者との合意

といった法的・客観的な根拠の積み重ねによって確定されるものであり、

境界標があるから、そこが境界

と短絡的に判断できないのです。

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境界標の例(金属標と鋲)

上の写真は私が設置した境界標(金属標)です。
よーく見ると、四角い金属プレートの矢印先端から少し左にズレたところに、十字の切り込みが入った小さい黒い丸いものがあります。
実はこれも「鋲」と呼ばれる立派な境界標なのです。
こんなふうに、何らかの理由により一箇所に複数の境界標が存在していることもあります。


「ここは市街地だし、土地全部の角に境界標が入っているから大丈夫」

──そう言われるケースも多々あります。

しかし、

  • 境界標がいつ、誰によって設置されたのか

  • 正規の境界確定に基づくものなのか

  • 登記・測量上の資料と整合しているのか

これらを調査せずに現況だけで境界とすることは不可能です。

現況測量でできるのは、

「このあたりが境界っぽい

という位置の予想に過ぎません。

特に郊外や成り立ちの古い宅地では、

  • 境界標が移動している

  • そもそも誤った位置に設置されている

  • 占有に引きずられている

といった理由で、本来の境界から大きくズレ込んでいるケースも珍しくないのです


「それでもいい」判断が将来の火種になる

もちろん、

  • 面積誤差が出る可能性

  • 将来トラブルになる可能性

十分理解した上で

「今回は現況測量のみで進める」

という判断をすること自体を、全面的に否定するものではありません。

ただし、その判断は必ず

  • 誰が

  • どのリスクを

  • どこまで引き受けるのか

を明確にした上で行う必要があります。


実際に起きたトラブル事例──「建ってから」では遅い

ここで、私自身が関わった実際のトラブル事例を一つ紹介します。


現況測量のみで売買 → 建物完成後に発覚した問題

その土地は、

  • 境界確定は行わず

  • 現況測量のみ

で売買が行われ、すでに買主の新築建物も完成している状態でした。

その後、別件で私が現地を確認することになり、改めて資料と現況を精査したところ、

敷地の一部に、明らかに他人名義の土地が混ざっている

ことが判明しました。

つまり、

  • 自分の土地だと思って使っていた一部分が

  • 実は他人の土地だった

という状態です。


結果:土地を「買い取らざるを得ない」状況に

このケースでは、建物を壊すという選択肢は現実的ではなく、問題を解消するには

その部分を買い取るしかない

という結論になりました。

もしこの土地の所有者が協力的でなければ、

  • 交渉決裂

  • 紛争化

していた可能性も十分にあります。


境界トラブルは「起きたら終わり」

私は業務上、境界を巡る紛争や訴訟にも関わっています。

裁判に発展したときのコストは、測量費用とは比較になりません。

  • 弁護士費用

  • 鑑定費用

  • 長期化による機会損失

  • 精神的負担

金額だけでなく、時間と労力が際限なく奪われます

しかも、

  • 勝っても隣接地所有者との関係性は壊れる

  • 売却や活用が止まる

といった「後遺症」が残るケースも多いのが実情です。


境界確定は「高い・遅い」──それは事実

一方で、境界確定業務には確かにハードルがあります。

  • 費用が高い

  • 期間が読めない

  • 隣接者の協力が不可欠

土地の状況にもよりますが、私の個人的な感覚では

  • 費用:80〜150万円程度

  • 期間:3か月〜半年程度

が一つの目安です。

しかも、こちらがどれだけ急いでも、

  • 隣接者の都合

  • 説明や立会いの回数

次第では、納期を約束しきれない業務でもあります。


現況測量図と境界確認書の決定的な違い

よく、依頼主の方から

「測量図はあります」

と言われることがあります。

しかし、その中身を確認しないことには、その図面が有効かは判断できません。
境界の根拠として全く使えないこともあります。


現況測量図とは

現況測量図は、

  • A3程度・1枚の図面

  • 現地に存在する構造物や占有状況を反映

したものです。

そして多くの場合、図面のどこかに

「本測量は立会いを行っておらず、境界は未確定である」
「境界については推定である」

といった免責的な文言が記載されています。

これは、

  • 法的な境界を保証しない

  • あくまで参考図である

ということを、作成側が明確に示しているものです。


境界確認書とは

一方、境界確認書は基本的に図面だけで完結しません

通常は、

  • 土地境界図

  • 境界確認書(書面)

一体となっています。

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土地境界図
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境界確認書

そして何より重要なのは、

  • 当該地所有者

  • 隣接土地所有者

双方の署名・捺印がされている点です。

これはつまり、

「この線を境界として、お互いに確認しました」

という合意の証拠です。

現況測量図と境界確認書は、似ているようで、法的な意味合いはまったく別物と言って差し支えありません。

境界確定はトラブルをゼロにする魔法ではありませんが、将来起こり得るリスクを事前に小さくする極めて有効な保険です。


最後に──判断材料を正しく伝えることが不動産業者の役割

コストをかけてでも将来のリスクを抑えるのか。
それとも、安く・早く進める代わりに、一定の不確実性を受け入れるのか。

どちらが正解かは、

  • 取引規模

  • 利用目的

  • 所有期間

によって変わります。

ただ一つ言えるのは、

境界のリスクを正しく説明しないまま判断させることは、後の紛争を呼び込む可能性が残る

という点です。

土地を取引する人、利用する人が境界問題を理解し、適切な選択肢を提示できるかどうか。
それが、取引の質を大きく左右します。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別案件については専門家への相談を前提としてください。

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