テレ朝・玉川徹氏叩く日本のメディアの危うさ―イスラエル大使に同調、クシュナー氏の問題に触れず
テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」のコメンテーター、玉川徹氏の発言が波紋を広げています。イラン情勢について玉川氏は、イランとの交渉での米国の外交チームの一員であるジャレッド・クシュナー氏(トランプ大統領の娘婿)について「ユダヤ人ですよね。で、このイランとの協議に関しては、むしろいない方がいいような人のような気もするんですけど…」と発言。これに対し、駐日イスラエル大使のギラッド・コーヘン氏がX(旧Twitter)で強く批判し、テレビ朝日に対して抗議しました。後日、テレビ朝日は謝罪。このことを日本の各メディアが一斉に報じています。確かに玉川氏の発言は不適切な部分もありました。しかし、日本のメディアがイスラエル大使の抗議ばかりを強調し、クシュナー氏がどのような人物なのか、イラン攻撃を招いた責任について、ほとんど触れないことは、報道の在り方として非常に大きな問題があります。
〇玉川氏発言はどのような文脈であったか?
まず、本件の経緯を振り返ります。玉川氏の発言は、イランとの交渉での米国の外交チームの紹介の場面で、専門家への質問という形でなされました。クシュナー氏が公職を持たないにもかかわらず、トランプ大統領の娘婿として影響力を行使している点に疑問を呈したものです。しかし、「ユダヤ人ですよね」という表現が、民族・宗教属性を理由にした排除を示唆するように受け止められました。これに対し、駐日イスラエル大使のギラッド・コーヘン大使はXで、
「クシュナー氏の外交における役割は、彼の宗教とは無関係」「彼はアブラハム合意*など地域の平和の前進に大きく貢献しており、豊富な実績と専門知識を有している」「平和構築は、経験と誠実さに基づくべきであり、個人の属性や宗教に基づくべきではない。差別や反ユダヤ主義が入り込む余地は一切ない」
と玉川氏の発言に批判。テレビ朝日に「正式な抗議書簡を送付した」と投稿しました。これを受け、テレビ朝日は最終的に「誤解を招く表現だった」として謝罪。各メディアが一斉にこれを報じました。
筆者としては、確かに玉川氏の発言には表現の粗さがあったことには同意します。属性を前面に出したことで、意図せずとも「反ユダヤ主義」と受け取られるリスクがあったことは事実です。一方で、国際的な報道では、クシュナー氏は極めてイスラエル寄りであり、トランプ大統領にイラン攻撃をそそのかしたことが問題視されています。玉川氏発言をめぐる報道の中でも、クシュナー氏の問題はしっかりと取り上げるべきです。
*コーヘン駐日イスラエル大使の投稿にある「アブラハム合意」とは、中東アラブ諸国とイスラエルの関係正常化を促す合意。パレスチナでの占領や人権侵害を置き去りにしての合意であることや、イランの孤立化を狙うものであったことが様々な海外報道で指摘されている。
〇クシュナー氏は何者?イラン攻撃との関係は?
クシュナー氏の問題は、彼がユダヤ人であるというよりも、イスラエルのネタニヤフ首相と家族ぐるみの長い付き合いがあり、トランプ大統領の娘婿で側近という立場を利用して、イスラエルの強硬な中東政策を常にアシストしてきたという点にあります。
今回のイラン攻撃においても、クシュナー氏は、今年2月、攻撃の直前に行われたイランとの交渉に中心人物として参加。「歴史的な機会」(イランのアラグチ外相)としてまとまる直前にあった合意を破綻させたのではないかと複数の海外報道で指摘されています。イラン側が核合意の枠組みを現実的に提案していたにもかかわらず、トランプ大統領に「イランの提案は本気ではない」「時間稼ぎだ」と報告したとされ、それがイラン攻撃の引き金になった疑いがあるのです。交渉の内容を知る匿名の外交官は、英紙ガーディアンに対し「(クシュナー氏とウィトコフ氏は)イスラエルの工作員であり、トランプ大統領を戦争に引きずり込むために共謀し、大統領は今、その戦争から必死に抜け出そうとしている」と証言。トランプ大統領自身、先月9日の会見で、クシュナー氏から「イランが米国を攻撃しようとしている」として、イランでの大規模な戦闘作戦開始を説得されたと述べています(関連情報)。
こうした疑いがあるにもかかわらず、日本のメディア報道は残念ながら大使の抗議と玉川氏の発言に焦点を当て、クシュナー氏のイラン攻撃を招いた責任にはほとんど触れていません。
〇「反ユダヤ主義」を利用するイスラエル
もう一点、今回の騒動で気を付けなくてはならないことがあります。それは、イスラエルは常に「反ユダヤ主義」を利用してきたということです。つまり、イスラエルの行う戦争や人権侵害に対する批判に対し、「反ユダヤ主義」のレッテル張りをして批判を封じようとするということを繰り返してきました。例えば、環境活動家グレタ・トゥーンベリさんもガザ攻撃を批判したことから「反ユダヤ主義」のレッテルを貼られています(関連記事)。
世界のユダヤ人の人々は必ずしもイスラエルを支持しているのではなく、特にパレスチナ自治区ガザへの猛攻撃(2023年10月~)に対しては、米国を中心に各国でユダヤ人の平和団体がイスラエルに対し抗議活動を繰り返しています。
今回の玉川氏の発言も「(クシュナー氏は)ユダヤ人ですよね」という部分が上述のようなイスラエルの広報戦略に付け入る口実を与えてしまったことは確かですが、問題の本質は既に述べてきたように、クシュナー氏の「イスラエルの工作員」的な振舞いとイラン攻撃を招いた責任です。
ホルムズ海峡の封鎖で、中東諸国からの原油が届かないなど、イラン攻撃は日本にも深刻な影響を及ぼしています。「反ユダヤ主義」のレッテルに怯えず、クシュナー氏やイスラエルの問題を日本のメディアはもっと取り上げるべきです。
(了)