JOPTの女王が去った日 第3章:愛とキャリアの不協和音
二人の部屋から、安らぎという名の空気が消え失せたのはいつからだっただろうか。
ななチャラがJOPTのイベントから意気揚々と帰宅した夜、キムの返事は素っ気なかった。「参加者、過去最多だって」「……そうか」。彼がノートPCに視線を戻したその画面には、『waitingList』の導入見送りを伝えるメールが表示されていた。
JOPTの大会が成功するたびに、業界における連盟側の求心力は高まる。店舗オーナーたちは「勝ち馬」に乗ろうとし、PokerWebやGame IDの導入を加速させる。それは同時に、waitingListが入り込む余地を狭めることを意味していた。
彼女が輝くほど、JOPTの威光は増し、それは逆説的にキムの『waitingList』、ひいてはDMM陣営の影を濃くする。彼女の成功は、彼への裏切り。そんな理不尽な等式が、二人の生活を支配し始めていた。
ある夜、JOPT運営からの着信を取ろうとしたななチャラの背中に、キムの声が突き刺さった。
「……また、あっち側の電話か」
いつから自分のキャリアは、恋人にとっての「敵陣」になったのか。
ついに、キムは禁断のカードを切る。
「ななチャラ、JOPTのアンバサダーを……降りてくれないか」
二人の関係がwaitingListの営業を妨害している以上、原因を取り除くしかない。ビジネスマンとしては合理的だが、それは「お前のキャリアより俺のビジネスを優先しろ」という残酷な宣告でもあった。
その言葉は、ななチャラの逆鱗に触れた。
彼女にとってJOPTは単なる仕事ではない。無名だった彼女を見出し、国内外のスポンサーをつけ、今の「ななチャラ」というブランドを作り上げた創造主なのだ。まだ何者でもなかった頃、拙いプレイを笑われながらも舞台に立たせてくれた運営。初めてスポンサーロゴの入ったジャケットを羽織った日の、あの胸の震え。JOPTがなければ、今の自分は存在しない。親に対し縁を切れと言うに等しいその要求に、彼女は戦慄した。
だが、彼女を追い詰めるのは恋人だけではない。ポーカープレイヤーとしての自尊心を粉々に砕こうとする、圧倒的な「壁」が存在した。


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