#661「国立大学法人 東京大学事件」東京地裁
2026年4月15日に配信した「会社にケンカを売った社員たち」第661号で取り上げた労働判例を紹介します。
■ 【国立大学法人 東京大学(以下、T大学)事件・東京地裁判決】(2024年9月12日)
▽ <主な争点>
博士論文の下書きを指示または依頼した行為を理由とした教員への諭旨解雇処分など
1.事件の概要は?
本件は、T大学と雇用契約を締結していたXが博士論文の下書きを指示または依頼した行為を理由とする諭旨解雇処分(本件懲戒処分)を受けたことについて、同大学に対し、(1)本件懲戒処分の無効確認、(2)未払給与手当等1132万5834円および定年退職による退職手当2109万1410円ならびにこれらに対する遅延損害金の支払、(3)名誉回復措置(公式ホームページ、および大学新聞への本件懲戒処分が無効である等の旨の掲載)を求めたもの。
2.前提事実および事件の経過は?
<T大学、X、A氏およびC講師について>
★ T大学は、国立大学法人であり、東京大学を設置している。
★ Xは、2005年4月、T大学との間で雇用契約を締結し、東京大学大学院○研究科(以下「本件研究科」という)の教授として稼働していた者である。
★ A氏(1934年生)は、2008年3月に本件研究科修士課程を修了し、2016年3月に同博士課程を満期退学したが、その後も博士論文の執筆を継続していた者である。指導教授は修士課程の頃からB元教授であったが定年退職したため、Xが博士論文執筆の指導を引き継ぐこととなった。
★ C講師は、XがD大学大学院の教員だった当時、Xのティーチング・アシスタントを務めた者であり、同大学から博士の学位を授与されている。
<本件対象行為、本件懲戒処分に至った経緯等について>
▼ Xは2018年10月、C講師に対し、A氏の博士論文執筆の手伝いを依頼し、了承を得た。
★ Xは2018年10月から12月にかけて、以下の(1)から(4)までのとおり、複数回にわたりA氏の博士論文の一部の下書きをするようC講師に指示または依頼した行為(以下、それぞれ「本件対象行為」等といい、併せて「本件各対象行為」という)が認められる。
(1)XはA氏に対し、2018年10月19日、メール1(注:「もちろん、代わりに書いてもらうことはできないでしょうが、下書きなどもある程度可能かもしれません」との旨記載されている)を送信した。
(2)XはA氏に対し、同月22日、メール2(注:「アルバイトの条件を相対で決めていただき、実際に起案してもらうなど、依頼されればよかろうと思います」との旨記載されている)を送信した(C講師にも同時送信)。
(3)Xは同月24日、C講師に対し、メール3(注:「恐れ入りますが、お手柔らかに具体的に、もう起案いただいて、本人とメールか電話で質問に答えるという形のほうが良いように思います」との旨記載されている)を送信した。
(4)Xは同年12月12日、C講師と喫茶店において1時間30分ほど会話した際、「下書き書いてあげたらどう」、「不信感を持っているんじゃないかと感じたよ」、「だからさっさと下書きを書いてあげて、あれだったら手を引け」という趣旨の発言(以下「本件発言」という)をしたが、同講師は「書きません」と述べて、Xの上記指示または依頼をきっぱりと断った。
▼ 2019年8月、大学のホームページを介し、XがA氏の博士論文執筆に当たり、その一部について他者に代筆を依頼した旨の通報があった。
▼ 本件研究科はコンプライアンス委員会を立ち上げ、通報について調査し、2020年10月7日付で、XがA氏の博士論文の一部につき、第三者に代筆を依頼するよう促し、実際にC講師に代筆を依頼した旨の調査報告書を取りまとめた。
▼ 東京大学総長は同月27日、事実の調査等を行う調査委員会を設置し、同委員会は2022年2月18日付でXを諭旨解雇処分にすることが相当である旨の報告書を作成、これを受けて、同総長はXを同処分とする発令をした。
▼ Xは退職願の提出はせず、2022年3月11日付でT大学から解雇された(以下「本件懲戒処分」という)。
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