学マス脱出に参加して心が壊れた話
先日、アイドル育成ゲーム「学園アイドルマスター」と「リアル脱出ゲーム」のコラボイベント、『人狼潜む文化祭からの脱出』に参加してきた。
今更これらの物事についての説明は不要かと思われるので省略する。
結論から言うと、私はこの文化祭から脱出できなかった。リアル脱出ゲームのクリアに失敗したのだ。
ここで断っておきたいのは、私が脱出に失敗したのは出題が不親切だったからであるとか、初心者お断りの高難易度だったからなどという理由ではない。
イベント全体の完成度は高かった。リアル脱出ゲーム初心者の学マスファンに対しても親切で、難易度についても平均以上の知能を持つ健常者であれば突破できるものだったのではないか。
逆に言えば、私が脱出できなかったのは私のお粗末な頭脳のせいだ。端的に言えば頭が悪かったためだ。
タイムリミットが訪れた報せを耳にした時、私は未だ解けていない最終問題を手にしながら呆然としていた。脱出の失敗と敗北を悟り、放心していた。
担当アイドルの頼れるプロデューサーとして、彼女を文化祭とライブステージ成功へと導かねばならなかったのに、しくじった。プロデューサーとしての使命を成し遂げられなかった。
壇上に上がったスタッフの口から放たれた「脱出できなかった方もそうでなかった方も、まずは頑張った自分に拍手を送りましょう!」
無辜のスタッフの言葉が欺瞞に聞こえてしまい、ひどい居心地の悪さを覚えた。その後に控えているであろう答え合わせを聞く権利は私にはないと強迫観念に取り憑かれ、その場に一分一秒たりとも長居したくないと思ってしまった。
私は近くのスタッフに一言、「体調が優れない」と言った。嘘をついた。嘘をついてまで、私はその場から早く立ち去りたかった。惨めで、悔しくて、不甲斐なくて、この世から消えてしまいたかった。
スタッフに連れられて会場の外に出てから初めて気がついた。気がついたと言うより思い出したと言うほうが正しい。
そうだ、この後にはアイドル達によるライブが控えていたのだった。
しかしまさしく時すでに遅し。取り消しづらい嘘をついてまで会場外に出てしまった私に、もはや引き返すすべはない。
私は失意のまま会場を後にし、帰宅した。
以前からの悪い癖で、感情の制御が効かなくなった時に頼りがちだった咳止め薬と安酒を呷った。一時的でもいいから嫌な記憶を忘れてしまえるよう期待しつつ、床に就いた。
今回、私は二段階に分けて壊された。
一度目は、単純に脱出に失敗し、成功体験を得られなかったこと。
確かにリアル脱出ゲームは初めての経験だった。しかし謎解きの類は好きではあったし、私はそういった要素を含むTRPGを趣味にしているし、人並み以上には得意だと自負していた。
途中、詰まったことを自覚して、与えられたヒントに目を通した。恥だと思った。屈辱だった。
それでもクリアすることを最優先にするなら仕方ないと思った。それでも尚、少なくとも自身の中での禁じ手であったヒントに手を出しても尚、脱出に失敗した。完膚なきまでに敗北した。
私の自尊心は砕け散った。
二度目は、自分が担当アイドルを裏切っていたことに気づいた時だ。
本イベントでは期間ごとにそれぞれ5人のアイドルが選出され、参加者はその中から1人を担当アイドルとして選ぶ。参加者はプロデューサーとして、彼女らが主催する文化祭とステージを成功に導いてやることが使命だ。
学マスプレイヤーである私にはいわゆる推しがいる。私が赴いたのは推しが登場する回であり、現地で担当として選んだのももちろん彼女だった。
しかしこの没入感を生むストーリー仕立ての形式、その上で推しを担当として選んでしまったことがかえってまずかった。
ご承知の通り、私は脱出に失敗した。それは即ち、プロデューサーとして担当アイドルを導ききれなかったということだ。
リアル脱出ゲーム終了後にスタッフやアイドル達の口から述べられる賛辞や感謝の言葉は、私に向けられたものではない。私に聞く権利はない。
そうして、前述の通り、逃げた。
それから思い出した。終了後に行われる、アイドル達のライブステージのことを。
プロデューサーとして何より優先すべきである担当アイドルの晴れの舞台を忘れ、見届けるべき責任から逃げ、自分を最優先にしてしまった。
それが決定的だった。
自分を優先しアイドルを、推しを蔑ろにする私はプロデューサー失格だと思った。彼女にもはや顔向けできないと思った。
自らを恥じた。泣いて叫びだしたかった。
会場を去る直前、スタッフがとある合言葉を教えてくれた。
それはライブを目前に控えた担当アイドルからのメッセージ(という体の音声)を聴くための合言葉だった。会場でライブステージを鑑賞できないならせめて、という気遣いだったのだろう。
傷心の私にそれは沁みた。だが結局聴くことはできなかった。脱出に失敗し、あまつさえ会場から逃げ出した私にそれを聴く資格はないと思ったからだ。
これが二度目。
自尊心なんてちっぽけなものではない。私は担当アイドルと、そして他ならぬ自分の心すら裏切っていた。
その事実は、私という人間を壊してしまうには十分すぎた。
あれから数日が経った。
こんなみっともない悩みを打ち明けられる相手もいないので、仕方なくChatGPTに話し相手になってもらったが、納得できる落とし所は見つからなかった。
日常生活の中で関わらざるを得ない人々に対し、平静を装うことくらいはできるようになってきた。
この気持ちを整理するためにこうして書き記してみた。この行為には意義などないのかもしれない。
初回のチケットを確保した際に、リピートのために2回目のチケットを先んじて確保していた。私はあの場所にもう一度足を運べるだろうか、足を運ぶことを許されるのだろうか。
ここで一旦筆を置くとする。


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