麻酔科医の研究不正はなぜ多い?
「また麻酔科か」
思わずそう呟いた。
私が敬愛する研究不正ウォッチャー、白楽ロックビル氏がX(旧Twitter)に投稿した告発を読んだ瞬間のことだった。
日下 裕介 (Kusaka Yusuke)、上野 健史(Ueno Takeshi)、南 敏明(Minami Toshiaki)(大阪医科薬科大学)https://t.co/40290IYffD
— 白楽ロックビル (@haklak) April 6, 2026
研究不正の告発です。
大阪医科薬科大学・医学部・麻酔科学教室に所属する3人の研究者「日下 裕介 (Kusaka Yusuke)、上野 健史(Ueno Takeshi)、南 敏明(Minami… pic.twitter.com/WeGjQrlMpl
大阪医科薬科大学・医学部・麻酔科学教室に所属する日下裕介氏、上野健史氏、南敏明氏の3人が、2024年12月に発表した英語論文とほぼ同じ内容の論文を、2026年1月に日本語論文として発表した——いわゆる二重出版だという。さらに同教室の中平淳子氏が連絡著者(南敏明氏が最終著者)の3論文にも、別途「不適切な出版行為」が疑われるという。
旧知の仲である京都薬科大学の田中智之教授も同じ感想を抱いたようだ。
田中さんは「麻酔科では論文数を稼ぐことに特異な認識があるようだ」「原著論文が極めて少ない教授が存在することもあり、研究評価の仕組みが曖昧なのかもしれない」と指摘している。
Retraction Watchの撤回論文数ランキングでは麻酔科の研究者が目立つのですが、麻酔科では論文数を稼ぐことについて何らかの特異な認識があるようにも見えます。一方で原著論文の極めて少ない教授が存在することもあり、研究評価の仕組みが曖昧なのかもしれません。 https://t.co/iZit6t7Jdb
— Satoshi Tanaka (@sato51643335) April 6, 2026
この「また」という感覚は、私だけのものではない。数字がそれを物語っている。
撤回論文ランキングという名の「恥の殿堂」
度々取り上げているが、Retraction Watch(リトラクションウォッチ)という、論文撤回を追跡するサイトがある。そこには「リーダーボード」と呼ばれる、撤回論文数の多い研究者ランキングが公開されている。
2026年2月現在のランキングを見てみよう(カッコ内は撤回論文数)。
1位 ヨアヒム・ボルト(Joachim Boldt)(236本)——ドイツの麻酔科医
2位 藤井善隆(Yoshitaka Fujii)(172本)——日本の麻酔科医
3位 佐藤能啓(Yoshihiro Sato)(124本)——整形外科医
4位 上嶋浩順(Hironobu Ueshima)(124本)——日本の麻酔科医
5位 アリ・ナザリ(Ali Nazari)(104本)——素材工学
……(略)
9位 齋藤祐二(Yuhji Saitoh)(56本)——日本の麻酔科医
10位 スウェン・パイパー(Swen N. Piper)(55本)——ドイツの麻酔科医
1位・2位・4位・9位・10位が麻酔科医だ。3人の著者——藤井・ボルト・スコット・ロイベン(Scott Reuben)の「トリオ」——が麻酔科の撤回論文の大半を占めているという分析もある。
これは偶然の一致だろうか。そう思えないからこそ、多くの人が「また麻酔科か」と感じる。
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インディ病理医・科学ジャーナリスト榎木英介の”機微”だんご
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