自分の思い込みだけで、勝手にその人の背景を決めつけてしまったことはありませんか? 目に見えることだけがすべてではないからこそ、一歩引いて相手を思いやる気持ちを忘れずにいたいものですね。今回は、筆者の友人の体験談をお届けします。
憧れのバッグと冷ややかな視線
30歳の誕生日、私は思い切って憧れのハイブランドのバッグを購入しました。
ショーウィンドウ越しに何度も眺め、ため息をついては通り過ぎていたバッグ。
「これを持つのにふさわしい自分になろう」と、必死に仕事を頑張った証でもありました。
ある日、そのバッグを大切に抱えてバスに乗った日のことです。
近くに座っていた2人組の中年女性が、私のバッグをじっと見つめたあと、
「最近の若い子は、親の金で贅沢していいわねぇ」
「本当、身の丈に合わないもの持って。バッグが泣いてるわよ」
と、わざと聞こえるように話し始めました。
込み上げる悲しみ
もともと内気な性格の私は、何も言い返せず、ただ視線を落とすことしかできませんでした。
必死で働いて、お金を貯めて自分で買ったバッグ。
これまでの努力を全否定されたようで、視界がじんわりと滲みました。
お守りのように大切にしていたバッグが、急に重く、場違いなものに思えてきて……。
いたたまれなくなり、逃げるように次の停留所で降りようと席を立ちかけた、その時。
背後から、優しく穏やかな声が耳に飛び込んできたのです。
思いがけない救世主
「素敵なバッグね。あなたがそれをどれほど大切にしているか……見れば分かるわ」
声の主は、使い込まれた、けれど手入れの行き届いたバッグを膝に置いた、上品な高齢女性でした。
彼女は慈しむような目で私を見つめ、こう続けたのです。
「ふさわしい自分になるために、きっと一生懸命、頑張ったのよね。とてもよくお似合いよ」
その一言で、張りつめていた心が一気にほどけました。
嫌みを言っていた女性たちは何やら小声で言い合いながら、気まずそうに顔を背けています。
もらった言葉を胸に
「自信を持って持ちなさい。似合っているわよ」
高齢女性の優しい励ましを胸にバスを降りた瞬間、我慢していた涙がポロッとこぼれました。
誰かの悪意に傷つくことがあっても、それ以上に温かく見守ってくれる人が必ずいる。
私もあの女性のように、誰かの努力を優しく肯定して寄り添えるような、強くて素敵な人になりたいと、心に誓った出来事でした。
【体験者:30代・女性会社員、回答時期:2026年3月】
※本記事は、執筆ライターが取材した実話です。ライターがヒアリングした内容となっており、取材対象者の個人が特定されないよう固有名詞などに変更を加えながら構成しています。
FTNコラムニスト:藍沢ゆきの
元OL。出産を機に、育休取得の難しさやワーキングマザーの生き辛さに疑問を持ち、問題提起したいとライターに転身。以来恋愛や人間関係に関するコラムをこれまでに1000本以上執筆するフリーライター。日々フィールドワークやリモートインタビューで女性の人生に関する喜怒哀楽を取材。記事にしている。