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松井律の競輪・耳をすませば

「やられたらやり返す」鮮烈に残るマーク屋・小野俊之の生き様/ 松井律『競輪・耳をすませば』vol.12

2026/04/02 (木) 16:30 33

日刊スポーツ・松井律記者による競輪コラム『競輪・耳をすませば』。10代の頃から競輪の魅力に惹かれ、今も現場の最前線で活躍中のベテラン記者が、自由気ままに綴る連載コラムです。
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小野俊之が引退 マーク屋の全てが詰まったラストラン

"豊後の虎"小野俊之が引退

 3月、生粋のマーク屋、小野俊之(77期・大分)が地元の別府で勝負服を脱いだ。

 最終日のラストランは、実に小野らしいものだった。九州ラインの3番手を回りながらも、渾身のブロック2発で別線に大きなダメージを与え、4角からは躊躇なく中のコースに割って入った。結果は3着でも、小野の走りが好きだった者には、マーク屋の全てが詰まった〝フルコースのごちそう〟のようなレースとなった。

 小野の引退は、2月熊本の全日本選抜の時点ですでに確信めいた噂になっていた。別府のあっせん状況を見れば、小倉竜二、山内卓也、望月永悟、八谷誠賢らの同期が名を連ね、しのぎを削った佐藤慎太郎の名前もあったからだ。気付いた私はすぐにデスクに連絡をし、その開催には小野と関係性の深い記者の派遣を訴えた。

小野のラスト開催には同期や佐藤慎太郎が集結した(写真提供:チャリ・ロト)

 全盛期の小野俊之の走りには、昭和の競輪の名残が色濃くあった。強い自力屋に強いマーク屋が行く。シンプルだが、ラインの縛りや暗黙のルールがある競輪道の上では、異端児に映る場面もあった。特別競輪の決勝で見られた村上義弘-小野俊之の連係などは、コメントが出た時点からワクワクしたものだ。

尊厳と覚悟がにじむ「競り」

 そんな小野のレースで印象深いものが二つある。

 一つ目は、いわき平で地元の佐藤慎太郎に競ったレースだ。実は同じ年の別府記念の決勝で目標のなかった佐藤慎太郎が小野俊之に競りかけたのが事の発端となった。

「やられたらやり返す」

 メジャーリーグの報復死球ではないが、かつてのマーク屋はこれが当然だったし、その開催で競った者同士は、翌日以降の番組では分けられるのが当然の配慮だった。遺恨を残した者がぶつかれば、レースが壊れる危険性が高かったからだ。

 いわき平での競りは、東北の3番手を回っていた慎太郎に、小野がロックオンした。

「●●の番手」ではなく、「佐藤慎太郎のヨコ」

 レースの勝ち負けは度外視の選択だった。
 しかし、いざフタを開けると、この2人のマーク屋は、とてもきれいな競りを見せた。感情的になって大げさに張ったり押し込むこともなく、走行車線ギリギリの美しい攻防だった。結果的に小野は競り勝って3着に入り、面目を保った。
 このレースを見終わった後には清涼感が残った。私の見てきた競輪史の中でもベスト3に入る競りとして深く胸に刻まれている。

 佐藤慎太郎にこの思い出話を振ると、「あの当時はマーク屋が自分の地位を確立するために、行かなきゃいけない空気感だったよね」と懐かしそうに語ってくれた。
 確かにあの時代のマーク屋には尊厳と覚悟があった。

同じ時代を生きた佐藤慎太郎(撮影:北山宏一)

 小野のもう一つの印象深いレースは、時期は曖昧だが、伊東の準決勝だったと思う。

 レースの流れの中で小野は、同期の村本大輔(77期・静岡)に競りかけた。村本の地元で競るのは御法度と思われていただけに、2人が並んだ瞬間、一気に場内のボルテージが上がった。こういったドラマ性を熟知していた当時の競輪ファンは、瞬時に事の重さを理解したのだ。
 小野は位置を取り切って決勝へと駒を進め、村本は落車に終わったと記憶している。
 無警戒で虚を突かれた格好となった村本は、レース後に怒りが収まらず、「ここをどこだと思ってるんだ」と吐き捨てた。
 まさに「仁義なき戦い」だった。

同期の地元でも競りにいった小野 御法度を破ってでも信念を貫いた

最期まで貫いた美学、また一つ時代が…

 当時はレーサーパンツの腰の部分に刺繍を施すのが流行っていた。数ある中でも、「天下布武」の四文字を入れていた小野の刺繍が一番カッコいいなと思っていた。

 晩年の体は満身創痍で、気迫や技術だけではどうにもならなかったと思う。グランプリレーサーがチャレンジ戦にまで落ちて足掻く姿には、小野俊之の強烈な美学が宿っていた。
 現代競輪では、もうこんなマーク屋は現れないのだろう。
 また一つの時代が去った。

また一つ、時代が去った


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松井律の競輪・耳をすませば

松井律

Ritsu Matsui

松井 律(マツイ リツ) 記者歴30年超、日刊スポーツのベテラン競輪記者。ギャンプル歴は麻雀、パチンコ、競馬と一通りを網羅。競輪には10代の頃に興味を持ち始め、知れば知るほどその魅力に惹かれていった…。そのまま競輪の“沼”に引き摺り込まれ、今日も現場の最前線で活躍している。

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