10代の「マンガ離れ」はもう止まらない…「大人向け課金」に走った日本のマンガ界の"歪さ"を示すデータ
■小中高生のマンガ読書率が低下 調査方法や調査対象となる母集団のえらび方が異なるため参考程度にはなるが、いくつかのマンガ読書に関する調査を並べると、おそらく日本では小中高生のマンガの読書率はかつてより下がってきている。 全国学校図書館協議会「学校読書調査」の1985年と1995年の調査を比べると、1995年時点ですでに減少傾向が見られる。 そのあとはベネッセ教育総合研究所と東京大学の調査になるが、2023年の段階で紙のマンガの読書率は小学生68%、中学生60%、高校生49%で、1985年と比べると小中高いずれでも20ポイント以上、読まれなくなっている。 ■「デジタル版」も読まれていない いやいや、雑誌で読まなくなっていても、スマホで読んでいるだろう、と思うかもしれない。おそらく大人はそうなっている。だが日本では子どものマンガ読書のデジタルへの移行はあまり進んでいない。 これは韓国と比較すると如実にわかる。韓国の「国民読書実態調査」では時折、漫画・ウェブトゥーン(縦スクロールコミック)の読書調査も実施しているが、これを見ると日本の子どもよりも韓国の子どものほうがデジタルコミックの読書率が高い。(ただし日本と韓国でやはり調査方法が異なる点には留意が必要だ) 日本では電子コミックの読書率は小学生15%、中学生35%、高校生49%。韓国ではウェブトゥーンの読書調査率は小45%、中69%、高70%と、韓国ではデジタルコミックのほうがむしろ広く読まれている。 また中高生に関してはすでに日本より韓国のほうがコミック読書率が高い。
■「大人向けの作品」ばかり供給してきた なぜこのような違いが生じるのか。 日本のデジタルコミック市場は課金率・額の高い大人向けの作品を中心に成長した。そのため、決済手段をもたない、または少額しか決済できない小中高生は軽んじられている。だから若年層向けのマンガの供給自体が少ない。 小中高生が読むようなマンガがそもそもウェブ上に少ないのだから、当然、若年層は読みに来ない。 また、マンガアプリの利用推奨年齢は、大抵、15歳以上または18歳以上に設定されている。 マンガアプリの本格的な台頭は2013〜2014年からだが、小学生向けのウェブマンガ誌「週刊コロコロコミック」は2022年になってようやく始まった。 これではかつてのように未成年がさかんにマンガを読んでくれるはずがない。 ■韓国では「ウェブトゥーン」が大人気 一方、韓国のウェブトゥーンは、1990年代末に「エッセイトゥーン」と呼ばれる、作家の分身を登場させた「身辺雑記」というか、詩ともエッセイともつかない作品群が支持された。それをきっかけに、2000年代初頭にはNAVERやダウムといったポータルサイト(日本で言えば「Yahoo! JAPAN」のようなサービス)が、ウェブトゥーンサービスを手がけるようになる。 ポータルサイトは主にウェブ広告で収益を稼ぐために、無料でとにかく幅広い読者に読まれる作品が重宝された。そこではエッセイトゥーンに加えて、チュソク『ココロの声』をはじめとするギャグマンガ、キアン84のようにコメディ作家であり芸能人化してテレビやYouTubeで注目される作家などが人気を博した。日本で定番化している学習マンガ『つかめ!理科ダマン』も、ウェブトゥーン『離さないで!精神線』のスピンオフ作品だ。同作は「小統領」、つまり「小学生の大統領」と形容されるほどに低年齢の読者に支持された。 その後、2010年代以降にウェブトゥーンの課金システムが整備されてロマンスファンタジーやアクションがよく売れるようになり、映画やドラマの原作企画としてロマコメ(ロマンスコメディ)やヒューマンドラマ、ホラーなどへの注目も高まった。 しかし今でも無料で読まれるギャグ、コメディ、エッセイジャンルも併存している。また、韓国ではNAVER Webtoonは今でも無料でおそらく9割以上の作品を読むことができる。だから、お金のない若年層もカジュアルに読んでいる。 つまり韓国ウェブトゥーンは「閲覧無料で幅広く読まれる作品」「よく課金される作品」「映像化向きの作品」の3階建てになっている。 一方、日本のデジタルコミック市場はこの1階部分が弱く、だから子どもが入ってきづらい。 「日本はマンガ大国」「マンガを軸にしたIP展開で外貨を稼ぐ成長戦略を」などと言われている。だが、小さいころからマンガに親しんでいなければ、作家になろうと思う人の数も減る。作家になっても読者の数が少なければ生業(なりわい)として成り立たない。 その負のスパイラルが静かに進行しており、足元から瓦解しかけている、と筆者は思う。 ---------- 飯田 一史(いいだ・いちし) 出版ジャーナリスト・ライター 1982年青森県むつ市生まれ。中央大学法学部法律学科卒。グロービス経営大学院経営研究科経営専攻修了(MBA)。出版社にてカルチャー誌やライトノベルの編集者を経て、独立。マーケティング的視点と批評的観点から出版産業、読書調査、子どもの本、マンガ、ウェブ小説、ウェブトゥーン等について取材、執筆している。著作に『町の本屋はいかにしてつぶれてきたか』『「若者の読書離れ」というウソ』(平凡社)『いま、子どもの本が売れる理由』『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)『作文ぎらいのための文章教室』『ウェブ小説30年史』『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社)など。 ----------
出版ジャーナリスト・ライター 飯田 一史