「子どもはマンガ離れしているのではなくマンガアプリに移行している」論の虚妄
私がプレジデントオンラインに寄稿した「10代の「マンガ離れ」はもう止まらない…「大人向け課金」に走った日本のマンガ界の"歪さ"を示すデータ」(https://news.yahoo.co.jp/articles/cc4b134859845e23fba542e9f97286660d38b270)に対して、「いやいや、マンガアプリやウェブマンガに移行しているだけだろう」という反論があった。
しかし、その主張は成り立たない。
そもそも元の記事でも「デジタルを含めたとしても80年代や90年代と比べるとマンガの読書率は下がっている」ということを書いている(もっとも、見出しだけ読んで本文を読まずに「スマホに移行しているだろ」とか言っている人が大半だろうが)。
このベネッセと東大の調査でいう「電子コミック」になぜかマンガアプリやウェブマンガが含まれていないと解釈し、MMDの2024年のマンガアプリの調査を持ってきて「10代のマンガアプリの利用率は61.3%だからマンガの読書率は下がっていない」との反論があった(「「10代のマンガ離れ」をデータで語る記事が話題になるが、マンガ編集者の人が「コミックアプリの利用率が触れられていない」と反論する」https://togetter.com/li/2683440)。
しかしそこで参照されているMMDの調査は、実際には「利用率」ではなく「利用経験」を訊いたものである(https://mmdlabo.jp/investigation/detail_2376.html)。
「利用経験」だから、一度でも使ったことがあればカウントされる。
「利用率」の調査はふつう、ふだん読んでいるかとか利用頻度を聞くが、そういう建て付けの質問ではない。つまり日常的にマンガアプリを使う若年ユーザーははるかにこれより少ない。
日常的な利用頻度についてはインプレス「電子書籍ビジネス調査報告書」の調査がある(https://research.impress.co.jp/report/list/ebook/502255)。
これを見るかぎり、10代後半(※インプレスの調査は10代と言っても15歳以上が対象)であっても紙の書籍(文字ものの本)と比べて電子コミックや紙の単行本マンガが圧倒的に読まれているというような状況ではない。
なお、上記のグラフ・表では省略しているが、インプレスの調査では正確には「電子コミック・マンガアプリ」というくくりで質問しているから、上記の数字はマンガアプリを含めた電子コミックの利用率・利用頻度である。
1990年代くらいまでは「マンガは読むけど文字だけの本は読まない」と語る小中高生はいくらでもいたし、書店でも「子どもが買うのはマンガばかり」と言われたものだが、今やそういう位置にマンガはいない。
マンガは若年層において「紙の本と大差ない」程度の読書率になっている。
10代でも「日常的に読む」+「たまに読む」人は3~5割にすぎず、まったく読まないという不読者が4~6割いる。
学校読書調査によれば、1980年代までは小中高生の雑誌の読書率は9割以上、毎月平均で8~10冊前後読んでいた。もちろんこれはマンガ雑誌以外も含めてのものだが、読んでいる雑誌のランキングトップはマンガ雑誌だったのである。
一方で高校生の紙の書籍の不読率は4~6割、月の平均読書冊数は2冊未満だったから、かつては圧倒的にマンガ雑誌の方が読まれていた。
20世紀までと比べると、利用率で見ても利用頻度で見ても、最近のほうが若年層のマンガ読書・購買が活発になっているとか維持できているとは考えられない。
「マンガアプリやウェブマンガに移行しているから安心していい」とは到底言えない。
(もちろん、マンガアプリが出てくる前の2010年代初頭と比べたら今の方がマシだとは思うが)
筆者のもともとの執筆意図としては「危機感をもって下の世代に届ける手段を本気で考えていかないと、入り口が狭まり、多感な時期にマンガに親しんだ経験がない人の割合が増えるのは、中長期的に見てまずい」と伝えたかったのが第一である。
現行のマンガの届け方、ビジネスモデル、作品ラインナップのままで、下の世代は放っておいても問題ないと業界人が考えているのであれば、「マンガ大国」の未来はやはり危ういと思う。