政治学者の姜尚中さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、政治学的視点からアプローチします。
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ホルムズ海峡封鎖から1カ月が過ぎようとしています。戦闘の膠着の中、米国は、一方ではパキスタンなどの仲介で交渉を進めつつ、他方で限定的な地上戦に踏み切る和戦両睨みの戦略のようです。日本では高市早苗首相が、赤澤亮正経済産業大臣に「中東情勢に伴う重要物資安定確保担当大臣」を発令し、対応にあたるようですが、この状況が長引けば、日本経済は株安、円安、債券安の三重苦に悩まされ、腰折れしてしまいかねません。
ここで思い起こされるのが、2015年、安倍晋三元首相が安保法制の国会審議でホルムズ海峡封鎖の場合の石油エネルギーの途絶による国民経済の深刻な危機を、「存立危機事態」の具体例として挙げていることです。安倍元首相は、この時、ホルムズ海峡の機雷掃海のための自衛隊の派遣に言及していますが、この事例が現実味を帯びてくる可能性がありそうです。
そうなった場合、戦後初めて自衛隊は、戦闘地域に派遣されることになりますが、それは内外に大きなハレーションを引き起こすことになりかねません。実際、国民の大半がそうした自衛隊派遣の決定には躊躇し、反対しているのではないでしょうか。
そうであるなら、何よりも米国のイラン攻撃が、国連憲章第2条第4項の「武力不行使原則」に悖る行為であり、第51条に定められた自衛権の行使に当たらないことを明らかにし、同時にイランの湾岸諸国への攻撃を非難し、米国の同盟国として即時の停戦を勧告すべきです。これによって日米関係が根底から覆ることなどないはずです。また、米国とイスラエルのイラン攻撃に対してドイツやスペイン、イタリアが同じようなスタンスを取り、英国ですら米国に距離を置き、さらに米国内でも「王はいらない」とベトナム反戦以来の抗議活動がわき起こっているのですから、この問題で口を噤むだけでなく、トランプ氏を絶賛するとなると、日本の国際的な立場が益々、不利になっていくのではないでしょうか。
日米安保改定の時、あの岸信介元首相──高市首相が師と仰ぐ安倍元首相の祖父──ですら、まず、日米安保と国連憲章との整合性を米国に求めていることを忘れてはならないはずです。
※AERA 2026年4月13日号
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