観光経済新聞におさけのコラムを寄稿しました——書きながら考えていたこと
4月6日発行の「週刊観光経済新聞」に、コラムを寄稿しました。
観光経済新聞は1950年創刊、発行部数およそ6万部。旅館やホテルの経営者、旅行会社、自治体やDMOなど、観光や旅行のプロたちに読まれてきた業界紙です。
きっかけは、とあるプレスツアーでご一緒した記者さんから声をかけていただいたことでした。テーマは自由。見出しを「日本酒が旅の目的地になるとき」として、取材先での時間のことを書きました。
じつは最初に書いた原稿は、ちょっと説教くさかったんです。
2月に岩手・二戸の南部美人をたずねて、久慈雄三さんや蔵人のみなさんと鍋を囲んだ夜があって。その帰りに、ああ違うな、と思いました。わたしにしか書けないことを書こう。読んだ人が思わず現地に行きたくなるような、体温のある文章にしよう、と。
観光や旅行に携わっている方の多くは、きっと旅が好きだと思います。だからこそ、情報やデータではなく、「その場にいたくなる空気」を届けたかった。
コラムを書きながら、ずっと考えていたことがあります。
お酒は最近なにかと嫌われがちです。タイパやコスパで測れば「悪い」ものかもしれない。身体にもいいとは言えないし、翌朝に後悔することもある。でも、ほろ酔いでみんなが意味もなく上機嫌になって笑い合う場は、やっぱり必要なものだと思っています。人間の精神は、自分で思うほど強くない。だからこそ酒というものが生まれたような気がする。
英語が得意じゃない日本人も海外の酒場では手持ちの語彙とジェスチャーでなんとかやりとりするし、日本語が得意じゃない外国の方も日本の酒場ではそう。同じ酒を飲んでいる、同じ場所を選んでいる、それだけで同志のような気持ちになるから不思議です。
わたしは日々、酒をつくっている蔵の人たちと接しています。ほとんどの方が自社の酒に誇りを持ち、つくることも飲むことも好き。その様子と、地元の風景、空気、お店の人——いろんなことが取材のたびに思い出されます。
どんな酒にも意義があり、地元を守ってきた歴史がある。あるいは、その土地の風土が酒を生み、育んできた。江戸時代やもっと前の人たちとつながるような気分になれる日本酒が、わたしは好きで、いつまでも大事にしたいと思っています。
そんなことを考えながら書いたコラムです。読んでくれたらうれしいです。(↓以下 本文)
旅と酒と、土地の人~日本酒が旅の目的地になるとき
日本酒ジャーナリスト・発酵食品ソムリエ/元蔵人 関友美
いつのころからか、「タイパ」とか「コスパ」という言葉が、生活のあちこちに入り込んできた。その物差しで測れば、お酒ほど「悪い」ものはないかもしれない。身体にも良くないと言われ、時間もかかり、翌朝には後悔することもある。それでも人は飲む。きっと、無駄なことに夢中になっているときこそ、人は一番人間らしいのだということを、身体のどこかで知っているのだと思う。だから旅に出て、深呼吸したくなる。仕事柄、旅が多い。わたしはその旅先で、いつもそれを確かめてきた。
昨年の11月、福司酒造がある北海道・釧路で「だら燗」に出会った。炉端焼きの端に置かれたつぼで、遠赤外線でじんわり温められた燗酒だ。釧路以外でこの文化を、わたしは知らない。東の端にある釧路は午後4時には日が沈み、長い夜がはじまる。その夜にぴたりと寄り添うように、こうじの柔らかな香りが立つ。牡蠣やつぶ貝の旨味と溶け合って、ドライで旨味のある酒がとびきり美味しくなる。東京に出すための派手さはない。でも、土地の暮らしと呼吸を合わせる味、とでも言うべき一杯だった。杜氏の梁瀬一真さんは「手間がかかるからやめる店も多い。でも続けてほしい釧路の文化なんです」と語った。次期蔵元の梁瀬惇史さんも、一真さんも、農大の醸造学科を経て迷いなく蔵へ入った。釧路ほどすてきな町はない。さも当たり前、という自然さでふたりは言った。その言葉が、酒の味に重なった。
岩手県・二戸の南部美人を訪ねたのは2月中旬のこと。関東出身の同行者が悲鳴をあげるほどの寒さの夜、社長の弟で常務の久慈雄三さんを中心に蔵人たちと囲む鍋に、三戸のせんべい屋が詰めた切りたての柔らかい耳。地元では炒めたり煮たりもするという。この土地の食の奥深さを詰め込んだ手作り料理に、箸も盃も止まらなかった。南部美人は吟醸酒の美しさで知られるけれど、伝統的な造りの熱燗向きの酒もある。気づけばひとり一升は飲んでいただろうか。夜も更けて案内されたのは、地元に30年以上続くというレゲエバーだった。みんなで肩を組んで歌い、夜中まで語り合った。控えめで勤勉、でも胸の中は情熱的——その気質が、酒にも宿っている。あの笑顔を、酒を口にするたびに思い出す。胸の奥が、じんわりと熱くなる。
日本酒の旅でわかるのは、その土地の酒は、その土地の人が注いでくれてはじめて完成する、ということだ。どうかその一杯を、現地で飲んでほしい。それを伝えたくて、わたしは書き続けている。
(初出:観光経済新聞)


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