性的指向暴露「深刻な人権侵害」 「くにたち男女平等参画ステーション」(東京)の木山氏、熊本市で講演 知識不足「当事者の居場所奪う」
性的指向や性自認を相手の同意なく第三者に伝える「アウティング」はなぜ問題なのか。人生にどんな影響を与えるのか-。日本で初めて、アウティングの禁止を条例に盛り込んだ東京都国立市で、支援の最前線に立つ「くにたち男女平等参画ステーション パラソル」の木山直子ステーション長(55)は「当事者の居場所を奪い、時には命に関わる問題を引き起こす、深刻な人権侵害だ」と警鐘を鳴らす。
「悪意を持ってアウティングをする人はほとんどいない。『良かれと思って』の行動や知識不足から起こることが多い」
木山さんは3月20日、熊本市男女共同参画センターはあもにい(中央区)が開いた講座で指摘した。
公にしてこなかった自分の性的指向や出生、病気を自ら表明することを「カミングアウト」という。特に性的少数者(LGBTQ+)が性自認を他者に打ち明ける意味でよく使われる。木山さんは「カミングアウトは、単なる事実の説明ではなく、どんな人間であるかということの『自分語り』であり、他者との関係性を再構築する機会でもある。勝手に口外するアウティングは、当事者からその選択権を奪うことになる」。
アウティングは、悪意や興味本位のうわさ話だけではなく、例えば学校現場では、教員同士や保護者との情報共有の場でも起こりがちだという。「やっとの思いで先生に打ち明けたのに、親に連絡されて、家にも学校にも居場所がなくなるというケースは少なくない」と強調。「相手を傷つける意図はなくても、アウティングされた側はつらい。打ち明けられたときは、どの範囲まで他の人に話して良いのか、必ず確認を取って」と訴えた。
自分で抱えきれないときは、守秘義務のある専門機関への相談を勧める。
「彼女/彼氏はいるの?」「そろそろ結婚は?」といった何げない発言が当事者の心を削る側面もある。「恋人はいるの?」など性別を限定しない表現をし、「男らしさ」「女らしさ」を他者に押しつけない意識を持つことで、「無意識に人を傷つけることは減らせる」と力を込めた。
会場からは、国立市のアウティングを禁止する条例に罰則規定があるかどうか、質問が出た。木山さんは「罰則のない理念条例。私自身も過去にうっかり失言をしてしまったことは多々ある。間違えてはいけないと敬遠するのではなく、まずは知識を増やし、周囲と語り合う機会を大事にしてほしい」と答えた。
参加した熊本市東区のカウンセラー中村雅孝さん(65)は「性の話題はタブー視されがちで、その延長線上にアウティングがあると思った。関心の輪を広げるためにできることから始めたい」と話した。(鹿島彩夏)
木山直子さんは東京都国立市が「アウティング」の禁止を全国で初めて条例に盛り込んだ2018年、条例制定にあわせて設立された「くにたち男女平等参画ステーション パラソル」の副ステーション長に就任した。翌年からはステーション長として、「多様な性の平等」の実現に向け、毎月約200件の相談業務や啓発事業に取り組んでいる。
両親の転勤で中学2年~高校3年生まで熊本市で過ごした。大学進学で上京。会社員を経て出産を機に退職したが「社会とつながりたい」との思いから、28歳のとき、男女共同参画の情報誌の編集員になった。
性的少数者(LGBTQ+)らへの差別や偏見を痛感したのは、その後、渋谷区のジェンダー平等推進事業の拠点施設に勤めていたときのことだ。同区が15年、全国で初めて、性的少数者のカップルの関係を自治体が公的に認めるパートナーシップ制度を導入した日のことが「忘れられない」という。
開館と同時に電話が鳴り響き、「渋谷をエイズの巣にするのか」といった偏見に満ちた罵詈[ばり]雑言を浴びた。こうした電話は数年続き、「当事者はこんなにも差別にあふれた世界で生きているのかと驚いた。差別を受けている人に対して、分かったふりをしてきた自分に気づかされた」。
病院に行きづらく健康状態を悪化させたり、人間関係をうまく築けず仕事が続かなかったり、性的少数者を取り巻く課題は複合的に絡み合っている。「多くの人が自分事として考える必要がある」と力を込める。
長崎県出身。座右の銘は出身の済々黌高の校歌にある「天地万象皆わが師」。東京都在住。(鹿島彩夏)
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