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狼男が人間じゃなくなるまでの話
大神 錦
黒縁メガネに黒髪の女子力の高いごく平凡な男子中学3年生。
料理と裁縫が得意。少々巻き込まれタイプ。
地味に目立たないよう過ごしたいが正義感が強くどこかしら目立ってしまうところもしばしば。
田原 悠一
頭良し、運動良し、爽やかイケメン男子中学3年生。大神の友人。
部活関連で悩みがある。
糸田の事が好き。
天ヶ瀬 春音
盲目の恋する乙女。大神達と同じクラス。
目が見えないがとても頭がよく嗅覚や聴力を使って普通に過ごすことができる。
大神の事が好き。
天ヶ瀬 冬香
春音の妹。中学2年生。
ぱっつん頭にくまの髪飾りをつけた元気な問題児。
秋良の春音に対するシスコンには呆れている。
大神にならどうにかできるかもしれないという期待がある。
密かに兄の夏希を探している。
車に乗るのが怖い。
天ヶ瀬 秋良
春音の弟。中学2年生。
ぱっつんにメガネの優等生。
重度のシスコン。
実は目が良すぎるが故のメガネ。
シスコンのシスは表面上姉に対してのように見えるが実は冬香に対して特別な感情を抱いている。
冬香のことを助けたことにより大神に気を許すようになる。
兄を探すより家族を守りたい。
糸田 加杏菜
少し訛っている元気いっぱいの女の子。
男同士のちょめちょめが好き。
大神が2年生の時担任だった社会科の先生。
旧姓は品須川
品須川 文也
月島先生の弟。下から2番目。
月東 月夜
No data
※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは一切関係ありません。
狼男のデッドラインは不死身のリミットという話にでてくるある人物の話ですが、初めての方でも楽しめるようになっています。
ある男の記述
狼男、というのはご存知だろうか。
満月の夜、月をみればたちまち狼となる。
そう、なんとなく、誰もが知っている幻想的な存在だ。
だが、この話はそういうファンタジックな話ではない、とだけ伝えておこう。
ただ、オレは人生を失い、
いらない人生を手に入れてしまった。
そういう話だ。
「なんでこんなの間違えたんだ、アホだろ…………」
頭をかきむしりながらテストの答案用紙と睨めっこをしているのは、大神 錦(おおがみ にしき)、中学三年生だった。
見た目はメガネに黒髪、至って普通でちょっと真面目そうにみえる。
頭はそれなり良くて、いつもテストは10番以内だった。
だが親にはいつも一番じゃないと意味がないと言われて少しうんざりしている。
「あーあ、本当なにやってんだろ。こんなに勉強して、とれもしない1番狙って、必死になって」
「将来やりたいこともないのに」
「あ、」
「だから今のうちに勉強しておくんだ。やりたいことなんてそのうちみつかる。将来のための積み重ねが大事なんだ……とか言われそう」
やりたいことをみつけるのが一番難しい問題かもしれないと、自分の中で勝手に変な納得をしてまた変なことを考えてしまったと少し凹んだ。
「外でてみようかな、コンビニにでも行くか?」
もうすぐ7時になる。
今日は親が仕事で遅いので、何かしら夕飯をすませなければならない。
作った方がいいのだろうが、やはりこういうのは面倒くさくなってしまう。
あと、キッチンは親のテリトリー(領域)みたいな気がしてしまい、あまり使いたくない。
「うん、やっぱり外でよう」
それに外の空気を吸えばイライラが収まるかもしれないと、そう思ってコンビニに行くことにした。
今思えばこの日この時間に出なければ、何かが変わっていたかもしれないというのに。
コンビニに向かう途中に見知った人がいた。
「あれ、先生」
「あら大神くん」
月島 亜夜 2年のときに担任になった生物の先生だ。
黒髪でショートなのに顔の左右の髪の束だけがなぜか長く、少しつり目でクリクリとした黒眼。
白い肌に抑え気味の赤い口紅の色。
つまり整った顔立ちで更にはスタイルもいい月島先生は密かに男子の中で人気だった。
女子の間でもあの先生の授業はわかりやすいし、苦手そうな写真とかが教科書や資料集に出てくる前にちゃんと予告してくれるということで評判だった。
「どうしたんですか?こんなところで」
「弟の塾の送り迎え。ほら、最近物騒でしょう?」
ひょこりと後ろから顔をだしたのは、月島先生とかなり似ている顔。
小学校低学年だろうか。
少しむすっとしている。
「………」
「車とかないんですか?」
「先生も危ないと思うんですけど…」
先生も十分、標的にされやすそうだし。
「車、使いたいところなんだけれどねぇ…今、弟が使ってるから無いのよ」
「弟?」
「そう私、兄弟が多いの」
この子は下から2番目の子。といいながら、弟の頭をなでる。
「兄も姉もいるのよ」
「へぇ、賑やかそうですね」
「僕は一人っ子なんで、兄弟とかちょっと憧れます」
兄弟がいたらどんな感じだろう、少しは今と変わっていたのかなと想像してみる。
妹とかいいかもしれない。
お兄ちゃんとか言われてみたい……
「ふふっ…でも兄弟なんて多すぎても大変よ?」
先生が苦笑いをしながら言った。
……美人はどんな顔しても綺麗な気がする。
「兄弟なんて」
先生の弟がぽつりと呟いた。
「みんな自分勝手だから、すぐ大戦争状態になる」
「頭おかしいし」
「もー文也、まだ朝のケンカのこと引きずってるの?」
この子文也っていうのか。
ちょうどその時誰かの携帯がなった。
「大神くん、ごめんなさい。少し文也のことみていてくれないかしら」
月島先生の携帯が鳴ったようだ。
「ああ、いいですよ」
とは言ったものの、少し気まずい状況である。
まさかの小学生男児と二人きり。
しばらく沈黙が続いた。
先に沈黙を破ったのは、月島先生の弟だった。
「本当、兄弟なんてろくでもないよ」
「ナルシストにサイコパス、自己中、頭のいい馬鹿…」
最後の頭のいい馬鹿とは一体。
「みんな静かに消えればいいのに」
なんだこの小学生、怖いぞ?
「文也くん…だっけ?」
「そんなに兄弟のこと嫌いなのかい?」
「うん、嫌い」
バッサリいくなぁ。
「おおかみ兄ちゃんも気をつけたほうがいいよ」
「おおがみ、ね?」
なんかおおかみって先生のこと狙ってるみたいじゃんか。
「うちの家族に関わるとろくなことないし、」
「亜夜お姉ちゃんにも気に入られてるみたいだから」
え。月島先生に気に入られてる?
それは少し嬉しいんだけど
「どういう事?」
「……亜夜お姉ちゃんは」
「ごめんね〜待たせちゃって」
「あ、いや、文也くんとお話ししてたんで」
ね、と文也くんの顔をみると、頷いてくれた。
「そう?良かった」
正直、もう少し話がしたかった。
文也くんが言った、亜夜お姉ちゃんは……の先の言葉が気になる。
でも本人の前で言う事ではないと思ったから、とりあえず今日は諦めよう。
また会えるかどうかわかんないけれど。
「そろそろコンビニ行って帰りますね」
「文也の事、ありがとう」
「文也くんもまたね」
文也くんは手を振ってはくれたものの、 またね、とは言ってくれなかった。
今思えば、あれは文也くんなりの気遣いだったのかもしれない。
大神がコンビニのある方向へ向かって、みえなくなった頃。
二人の会話が始まった。
「文也、ダメでしょう?」
「私の事、喋っちゃ」
「……ごめんなさい」
月島 亜夜は文也の頭を撫でた。
先ほどと違って、その撫で方には力が入っていた。
文也は一瞬顔をしかめたが、じっとしたままだった。
「大神くんは、もうすぐ私のものになるの」
「邪魔しちゃだめよ?」
月島 亜夜はぞっとするような美しい笑みを浮かべる。
「さあ、帰りましょうか。大好きな家族の元に」
帰りたくない。
あんな狂った家に帰りたくない。
月島 亜夜が、冷たい手で文也の手をつかんだ。
少し引っ張られるように連れて行かれる。
僕もそのうちの一人なのかもしれないけれど。
文也が月島 亜夜の横顔を気づかれないようにそっとみる。
おおかみお兄ちゃんも家に来ることになるのかな、そのうち。
「………かわいそう」
月島亜夜にきこえないように、小さく呟いた。
昼、屋上にてオレは幼馴染の田原と昼飯を食べていた。
空は雲ひとつ無い綺麗な青空。
風もそんなにないし、いろいろなものが飛ばされる心配も無い。
「そういやさあ」
田原が唐突にオレに話しかけてきた。
田原はオレと違って勉強はいつも5位以内だし、コミュニケーション能力も上位カーストに突入できるくらいのものだった。
「んー?」
そんなオレは今日自分で作ったタコさんウィンナーを口に入れた。 ちゃんと目までついているんだぞ。
「きいたかあの噂」
タコさんウィンナーの次は玉子焼き。今日は甘い玉子焼きにしてみた。おいしい。
「うわは(うわさ)?」
自販機で買ったパックの緑茶を飲む。
「月島先生、もう結婚してるんじゃないかってさ」
「しかも小学生くらいの子供もいるとか」
ブシュゥッ
思いっきり噴き出してしまった。
「おっちょっおまっ」
「ゲホッゴボッ」
気管に入ったような気がする。
「……大丈夫か?」
制服のポケットに入れていたハンカチを取り出し、とりあえず口を拭いた。
「おう……」
おう、と力ない返事をして。
「そんなに驚いたのか?」
「はっ!!」
田原が口元を押さえ、驚いた表情をする。
「まさかお前…」
「月島先生のこと……」
「違うから」
田原が続きを言うのをむせながら片手で静止した。とりあえず息を整えてから、オレはため息をつきながら話し始めた。
「はぁ…昨日、月島先生に会ったんだよ」
「みんなが小学生っていってるのは多分弟」
「文也っていう子だった」
「なんだぁ〜つまんねーの」
「なんかめっちゃみんな落ち込んでこの世の終わりみたいな顔で落ち込んでたのに」
面白かったのに、とケラケラと笑いながら田原は言った。
「それ、ちょっとみてみたいな」
ちょっとだけ。
だろ?と言いながら、田原は水筒を取り出した。
田原はバスケ部に所属しているから、水筒がとにかくでかい。
そんなでかいもの持ち歩いてないで水飲み場のを使えば良いのにと言ったことがあったが、あそこの水キレイかどうかわかんねーから、と否定された。
意外と田原は潔癖だった。
「ちょっと持たせて」
「ほい」
重っ
「お前いつもこんなの持ち歩いてんの?」
「え?そうだけど」
ケロっとした顔で田原は返事をしてオレから水筒を受け取った。
オレは両手で持っていたが、田原は片手で持ち上げている。
…鍛えよう
オレの中で危機感が芽生えた。
タコさんウィンナーとかうさぎさんりんごとか作ってる場合じゃ無い!!
まずは筋トレからだろうか。
「噂といえばもう一つ」
田原が思い出しながら喋る。「うちの学校にさ、開かずの教室があるらしいんだよね」
「開かずの教室?」
開かずの教室とはこういうものだった。
鍵は存在する。
鍵はかかっていない。
それなのにその部屋は開かない。
誰かといる時だけ、開く。
そして中に入って一度ドアを閉めると真っ暗になって、ドアが開かなくなってしまう。
開くのは誰かが開けた時だけ。
「え、なぞなぞ?」
「ドアの建て付けが悪いだけ?」
「そうくるか〜」
「一度ドアを閉めたら真っ暗になる、そこがポイントらしい」
「だって窓があるのに真っ暗っておかしくねーか?」
「まあそうだよな」
その時ちょうど昼休み終了のチャイムが鳴った。
喋りすぎたなと慌てて片付けた。
次の授業は生物だ。
慌てて教室に戻ろうとしていると、本来ならば隠していなければならないものを手に持っていることに気がついた。
そして運悪く、それを月島先生に見られてしまった。
「あら、大神くん、その手に持っているのは?」
「あ……」
「ありゃりゃ」
スマホだった。
実はこの中学、スマホは持ち込んではいいもののカバンに入れておく、ということが条件で、学校で出したり使ったりしてはいけないのだ。
「はい、没収」
「はい……すみません」
スマホを渡しながらオレはがっくりとうなだれる。
「どんまい大神」
田原がオレの肩をぽんと叩いた。
「もう…学校で出したりしなければいいだけなのよ?」
「あ、そうだ!!せっかくだから手伝ってもらおうかしら」
「手伝ってくれるなら今日終わったらすぐ返してあげるわよ」
「何を手伝えば?」
「荷物運び♡」
月島先生はキュルンッとした甘い声で人差し指を顔の横でたてた。
相変わらず可愛らしいというか、美人というか……うん。
こうしてオレは放課後手伝うという条件で、本来ならば一週間ぐらい預けなければならないところを、今日中にスマホを返してもらえることになった。
放課後、職員室に行くと大量の資料が入った段ボール箱があった。
「これを3階の奥の空き教室に運んで仕分けてしまっておいて欲しいの」
多い…
月島先生はにっこりと笑っている。
以外とSなのかこの先生…。
段ボール箱はそこまで一人で運べない重さではなかったので、やることにした。
「これもスマホを返してもらう為だ…」
運んでいる途中で部活に行こうとしている田原に会った。
「お、やってるやってる〜」
「おー見てないで手伝ってくれー」
「無理なんだなぁオレ、部活あるから」
「だよな…」
「つかそれどこに運ぶんだ?」
「3階の空き教室」
「あそこのドア、一人じゃ開かないぞ。鍵は空きっぱなしだけど建て付け悪くてかなり力入れねーと」
そういって教室を開けるのだけ手伝ってくれた。
田原にマジ感謝。
「あとふたつ仕分ければ終わる…」
意外と早く終わりそうだ。
田原の部活も終わって帰れそうだったらアイスでも奢ろうか。
にしてもこの教室暗いな。電気は付かないし、外は耐震工事中で光が入ってこない。
廊下の窓側は棚になっていて、そこに資料を突っ込んでいる。
空き教室の机や椅子は全て教室の隅に寄せてある為、入り口は一つしかない。
このままドアが閉まったら開かずの教室の出来上がり。
「はは、まさかな…」
自分で考えておいて少し背筋が寒くなった。
「もう少しだ。早く終わらせてこの教室から」
ピシャンッ
「は?」
誰かにドアを閉められた。
「え?ちょっと待って。オレいるんだけど、」
一瞬で暗闇へと変化した。
「おーい!!」
ドアのガラスは廊下側の張り紙で少しの光も入ってこない。
手探りでドアを開けようとした。
もちろんドアは開かない。
田原の言っていた噂話と同じ。
完全にそこは開かずの教室となった。
完全に閉じ込められた。
いったい誰がこのドアを閉めたのだろうか。
わざとなのか、それとも誰もいないと思って閉めたのか。
そんなことを考えている場合じゃない。
「どうにかして出ないと…」
ここは3階の奥の教室。
助けを呼ぶにも人は滅多にこない。
窓は全部塞がっている。
入り口はさっき閉められたせいで一人では開けられない。
外部との連絡、スマホ没収されている。
つまり出られない。
「先生か田原が気づいてくれるといいけど……」
田原は部活。
となると月島先生が見に来てくれれば助かる。
スマホは月島先生が持っている、生徒がそれを取りにこないとは思わないだろう。
「大人しく待ってるか」
その時だった。
ピンポンパンポーン
『先生方、職員会議があるので、全員職員室に集まってください。』
「はあああああああ!?」
完全に、下校時刻までお預けだ。
というか先生、職員会議忘れてた?
真っ暗な部屋で過ごすのは正直辛い。
時間がはやく過ぎていくような気がするし、どこか寒気がする。
オレは壁際のところでぴったり背をつけて座った。
「何で3階なんだ」
オレはあああ、と頭を腕で抱え込んだ。
「3階じゃなかったら、助けを呼べたかもしれないのに」
少し息苦しく感じるし、疲れて眠くなってきた。
寝て、気づいてくれるまで待っていようか。
そう思って目を閉じようとした時だった。
「誰かいますか?」
可愛らしい女の子の声が、ドア越しに聞こえてきた。
女子生徒の声だった。
「いる!!!います!!!開けて下さい!!!!」
逃さないようにと、全力で言った。
「あ、でもここ、2人じゃないと開かないのよね…」
私の力じゃ…と女子生徒がしょんぼりとした声を出す。
まじかよ…せっかく出れそうなのに…
「あ、そうだ、妹を呼んでみるわ」
女子生徒はのんびりとした声で、ちょっと待っててねと言った。
まさかの妹を…
大丈夫なのか?このドア結構かたいぞ?
「もしもし、ふ……かあのね、な……に」
声は小さいが電話をかけている声がする。
まぁいいか。ここに閉じ込められてるってのが知られれば。
そうしているうちに、誰かが来たようだった。
「何?これ開ければいいの?」
「うん、お願い」
妹らしき人物は、自信満々で元気そうな声だった。
このドア、女の子二人+オレの弱々しい腕力で開けられるのだろうか。
「あ、中にいる人、ちょっとドアの前から避けてて!!」
「あ、なんか嫌な予感がする…」
そう、嫌な予感がした。
せーのという声がドア越しに聞こえる。
そして、予感は的中した。
バキッバンッ!!!
ドアが倒れ、廊下側から光が差して、教室が明るくなった。
そして廊下から女の子が一人。
ケロっとした顔で言った。
「大丈夫?」
オレは蹴り飛ばされたドアを静かにみて、こう答えた。
「ドアが、大丈夫じゃない」
何はともあれオレは脱出することができた。
「大丈夫?」
仁王立ちの妹らしき人物の後ろからひょっこり顔をだしたのはおそらく最初に呼んでくれた女子。
「何はともあれ、うん、とにかく、ありがとう」
ドアは壊れてるけどな。
怒られないか心配だ。
「どういたしまして。でもなんでドア壊してでも出ようとしなかったの?」
「いや、ドア壊しちゃダメだろ」
彼女が年下なのではないかと思ったばかりに、ついタメ口がでてしまった。
「なんで?」
「なんでドア壊しちゃダメなの?結局ここのドアは毎回開かなくてみんな困っていて、でも学校はちっとも直そうとしないでほったらかし。そんでもって今日、とうとう閉じ込められた人がでた。このままここに誰も来なかったら、真っ暗な閉鎖空間でただ一人悲しく死亡」
「だったらもうぶっ壊した方がいいんじゃない?」
正論かもしれないが極端すぎる。
ふともう一人の生徒の上履きの色を確認してみた。
青
オレより一つ年下。
ということは、
「え?同じ学年?」
最初に教室の外から声をかけてくれた女子にきいた。
「あ、そうだよ。大神くん?だよね?」
「私は天ヶ瀬 春音」
「同じクラスのちっとも学校に来ない引きこもりです」
いつも一番後ろが空席でおかしいと思ってたんだがこの人なのか。
そんな堂々と笑いながら引きこもり宣言しなくても……
ちょっと待てよ?天ヶ瀬って
「毎年学年1位の天ヶ瀬!?」
思わず叫んでしまった。
「へへへ、あんまり言わないで恥ずかしいから………」
「ところで春ねぇはどうしてここに来たの?」
ドアを蹴り飛ばした天ヶ瀬 冬香は姉の春音に問う。
「あ、そうそう、携帯電話?を大神くんにって亜夜先生が」
そう言って持っていたカバンからスマホを取り出した。
「中身見てないというか、見れないから安心して」
そう言ってスマホを渡してきた。
「中身が見れないとはどういう?」
「馬鹿」
「冬香!!」
おい馬鹿とはなんだ先輩に向かって。
睨んでくる天ヶ瀬の妹を横目で見ていると、天ヶ瀬が言いづらそうに言ってきた。
「あのね、私、何もみえてないの」
そう言って、彼女は自分の眼を指差した。
「目が…みえてない?」
「小学校ぐらいにみえなくなっちゃったんだ」
なんでだ?
天ヶ瀬は目を開いて、そこに立っている。
持っているのは普通のスクールバック。
しかも学年1位で、おかしいといえば学校に来ないということだけ。
「信じられないでしょう?でも私は大神くんがどんな顔でどんな背の高さで、どんな髪色をしているのかわからない」
わかるのは声と、足音、雰囲気、香り。
「じゃあ、なんでテストは1位なんだ?」
「記憶力は半端ないから」
天ヶ瀬妹が口を挟んだ。
「別室で先生が問題文を録音したものを何回も聞いて受けてるの。紙にはほぼ一発書きでね」
両親よ、オレは一生1位は取れなさそうだ。諦めてくれ。
「なるほど」
「信じた?」
「んーどうだろなーあ、でかい蜘蛛がそこにいる」
そう言ってオレは天ヶ瀬妹の足元を指した。
「えええええええ!?」
「!?」
天ヶ瀬は足元すら見ずにその場でうろたえ、
天ヶ瀬妹は自分の足元をみた。
「うん、信じた」
もちろん大きい蜘蛛なんてどこにもいない。
少し試してみただけだった。
それに気がついた天ヶ瀬妹は、
「_________とりゃっ」
「ぐぇっ!!!!?」
オレの脇腹を殴った。
「せめてGにしなさいよ!!」
「Gの方が嫌じゃねえか?」
どうやら天ヶ瀬妹は蜘蛛が苦手のようだ。
顔が真っ青になっている。
「悪かったな天ヶ瀬。試すようなことをして」
「いいいいいいのっちょっとびっくりしただけだからっっ」
何故か天ヶ瀬の顔は真っ赤になっていた。
いつもみんな適当な返事をしてあからさまに関わらないように離れて行くのに…
大神くんは信じようとしてくれた
なんだか嬉しさのあまりなのか、顔が熱い。
おそらく他の人だったらこんなことで嬉しくなったりしない。
でも、
「大神くん!!!!」
「え。何近い!!」
いきなり天ヶ瀬 春音が前に駆け寄ってきた。
天ヶ瀬はみえていない為、距離がつかめていないのだろう。
かなり近い。
「私と友達になってください!!!!」
「あと天ヶ瀬じゃなくて、春音って呼んで下さい!!!」
天ヶ瀬 春音本人はかなり必死だった。
学校に来るのは滅多になく、ましてや教室に行くことなんて一度もない。
同じクラスだというのに、大神とは二度と会えないかもしれない。
「春ねぇ」
ちらりと天ヶ瀬妹が大神をみた。
かなり苦々しい顔で。
これはなんと答えればいいんだ……。
なんとなく、彼女には友達がいないというかそんな感じがするのだが、まさか初対面のオレに友達になって欲しいなんて言ってくるとは思いもしなかった。
「ダメ?」
そんな近くで困った顔で急にタメ口にならないでくれ……
「大神くん」
「………おう」
今日オレはテスト以外でも春音に勝てないことを知った。
あれから一週間が過ぎた。
あの天ヶ瀬の妹、冬香という子が蹴り飛ばしたドアは春音が月島先生に言っておいてくれたらしく、お咎めはなしだった。
とりあえずメールでということで春音の妹、冬香を介してのメールのやり取りが始まった。
春音は毎週金曜日に学校に来るらしいので、あまり人目につかない場所ということで屋上で食べることになった。
いつもは保健室で食べているらしい。
「まさか大神がこんなに可愛い子を連れてくるとはねぇ……」
うるせぇカースト上位め。
「田原くん、変なこと言ってると、糸田さんに聞かれちゃうよ?」
「!?」
糸田さんというのは同学年のバスケ部のマネージャー。
田原の好きな人だ。
「なぁ!?うぇ!?」
「亜夜先生が言ってたの。田原くんは絶対糸田さんのこと好きだと思うんだよねーって」
「諦めろ田原」
まぁオレから見てもそうだと思ってた。
分かり易すぎるんだよ。
にしても月島先生、生徒の個人情報を春音に流しすぎだろ。
「そういや、妹は一緒じゃないんだな」
ドア蹴り飛ばしたやつ。
「妹?もしかして天ヶ瀬冬香?」
「なんだ知ってたのか」
「え?あ、うん」
田原はちょっとねと言って、ちらりと春音のことをみた。
「冬香は、秋良と食べるって」
「秋良?」
「弟なの。私の記憶だと、メガネでちょっと情けなくて真面目で、頭がいいの」
春音が頭が良いというということはかなり良いということなのだろうか。
でもちょっと情けないっていうのは弟かわいそうすぎやしないか?
「大神みたいなやつだな」
そうなの?と春音が首をかしげる。
「似てるのはメガネだけだろ」
メガネで似てるとかやめてくれ。
オレの本体はメガネじゃない。
そうしているうちに、屋上のドアから声が聞こえた。
「冬香!!っ離せっっ!せめて無事を確認せねば!!」
男子生徒の怒鳴り声だった。
ドア蹴り飛ばしっ子の名前を言っている。
そこにいるのだろうか。
「ねえさん!!!!!」
バンッッ!!と大きな音がした。
ループしているのだろうか。
今度は屋上のドアが吹っ飛んだ。
いや、今回はドアの金具が壊れただけで、真っ二つに折れるようなことはなかったが。
「秋良!!!」
ゴスッ
秋良と呼ばれた男子生徒の後ろから、天ヶ瀬 冬香が踵落としをして気絶させた。
スカートの中が見えたが残念ながら、短パンだった。
にしてもすごい音がしたが大丈夫なのだろうか。
あのドアを蹴飛ばした足で踵落としは人体に影響が出るぞ。
「痛そう……」
真っ青な顔で一番最初に呟いたのは田原だった。
「いつものことだから」
天ヶ瀬妹はオレたちを一瞥して、秋良のことをみた。
「ねえさん……ねえさんが……犯される……」
「頭打っておかしくなったわけじゃあないよな?」
割とかなり心配になった。
どうやら大丈夫なのは本当らしく、秋良という2年の男子生徒はむくりと起き上がって首元に掴みかかった。
「ねえさんに何をした!?」
「秋良!!お姉ちゃん何もされてないから!!むしろ仲良くお弁当食べてただけだから!!」
「本当にねえさんに何もしてないんだな!?」
「いやなんでオレに掴みかかるの!?」
秋良が掴みかかっていたのは田原で、田原はものすごく困った顔で、
「なんでオレなの、大神じゃないの」
と言っている。
「だって不良っぽそうだし、女癖悪そう……」
秋良の後ろでポツリとつぶやいたのは冬香だった。
「まあ確かに」
オレに比べたらはるかにチャラいし。
地味でよかったと思いながら、少し悲しくなった。
完全にブーメランだ。
「秋良!!田原くんは糸田さんって子が好きだから!!私なんかに手は出さないから!!」
「天ヶ瀬さん!!大声で言わないで!!」
どうやら秋良は理解したらしく、田原のシャツから手を離して、
「田原先輩、引っ掴んだりしてすみませんでした。ご迷惑をおかけしました」
まさかの土下座をした。
「うう、いいよもう」
田原は思いもしなかった大ダメージをくらい、体操座りでしくしくと隅っこで泣いた。
「どんまい、田原」
「でもなんかおもしろいものがみれたような気がする」
たしかに。
イケメンが体操座りでしくしくしてるとか激レアなんじゃないか?
「秋良、言ったでしょう?来なくても大丈夫だって」
「はい…」
秋良はしょんぼりしながら正座をして春音の前に座った。
その様子をみていたらまさかの目が合ってしまった。
「そちらの方は?」
あ、なんかすごい睨んでる。こっち見て睨んでる。
「大神くんのこと?」
やめてくれ、天ヶ瀬 春音さん。
君の弟に殺される。
「大神 錦、3年生。春ねぇと同じクラス。春ねぇが頼んだの。春ねぇが友達になってって」
「おっ、おい!!」
こいつはオレを殺す気なのか?
この秋良ってやつ、どうみてもシスコンだぞ!?
わかってんだろ!?
そんなこと言ったら……
「邪魔しちゃだめだよ?秋良」
冬香が今にも襲いかかってきそうな秋良と逃げようとしているオレの間に立った。
冬香が背を向けているので、どんな顔をしているのかはオレからはみえない。
ただ、みえているであろう田原と秋良は、冬香の顔をみて固まっていた。
「ねえさんの大切な友達ができたんだから」
そう言うと、冬香は顔だけこちらを向けた。
「!?」
「大神先輩、春ねぇをお願いします」
その顔は、笑っていた。
何かを企んでいるような、
少なくとも普段のあのおちゃらけた笑顔ではなく、
この時を待っていたと、
そう言いたげな顔だった。
「春ねぇをお願いします」
冬香がオレにそう言うと、秋良が狼狽えだした。
「冬香?なんで?」
「そいつはねえさんに近づいて、襲うつもりかもしれないんだぞ?」
どんだけ心配症なんだ天ヶ瀬弟は。
あと怖い。
「違うよ、秋良」
天ヶ瀬妹が天ヶ瀬弟の左腕に手を絡ませオレと春音をみながら天ヶ瀬弟な耳打ちをした。
「春ねぇが大神先輩に惚れちゃったんだよ」
「!?」
オレには声が小さすぎて何も聞こえなかった。
だが、春音には聞こえていたらしく、心なしか顔が赤い。
「乙女の邪魔をしちゃダメだよ。ほら、行こう、秋良」
そう言いながら、放心状態の秋良をズルズルと引っ張り、ドアの方へ向かった。
「お邪魔しました。どうぞごゆっくり〜♪」
冬香は礼儀正しく一礼して、妖しい笑みを浮かべて、秋良と共に退散した。
「なんかすげぇ双子だなー」
春音をみてみたが、何故か両手を頬に当てて下を向いていた。
「?」
秋良を教室に送り届け、私は校舎裏の木に登った。 ここなら誰も来ないし、秋良のいる教室がみえる。 朝コンビニで買った苺と生クリームのサンドイッチを頬張りながら秋良になんて言おうか、考えながら呟く。
「秋良、言ってなかったけど春ねぇと大神先輩、すごく仲が良いんだよ」
秋良に嘘を吐かなければならない。
「これで安心だね、秋良が春ねぇに付いてなくても大丈夫になってくるよ」
そう、あの人なら大丈夫だよ。
あの人の方がきっと適任だ。
「秋良は」
ふと涙が零れ落ちる。
「私がいるのに」
「私のことをみてくれない」
「双子なのに」
「一番近いはずなのに」
「私は、」
何をしているのだろう。
何がしたいのだろう。
私は秋良がいなくならないだけでいいのに、
「秋良、が、好きなのに、私には秋良しかいないのに」
絶対に言ってはいけない言葉。
絶対に叶わない。
「しょっぱい」
私はいつものように、最後の一口を無理やり飲み込んだ。
階段を降っていると2年生の女子らしき声がきこえた。
「ねぇ、やっぱりあの子頭おかしいよ…」
「あー天ヶ瀬?」
どの天ヶ瀬のことを言っているのだろうか。
「お兄さんの方はさ、常識人っていうか?」
「普通にいい人なのにね。本当、対照的」
あんなの問題児っていうかさ、目障りだよね。
と、少しキレたような様子で、その女子生徒達は話していた。
天ヶ瀬 冬香のことだったのだ。
「なあ田原、お前天ヶ瀬 妹のこと知ってるって言ってたよな」
「ああ、」
教室の窓際の席。
春音は今日も教室には来ないだろう。
「良くない、噂か?」
「そうだよ」
田原はあまり言いたくなさそうに、目を伏せて言った。
「天ヶ瀬さんの妹にタバコ吸ってるって言われた人がいてさ」
「その先輩、部活のエースで、しかも勉強もすごいできてたんだ」
バスケ部の副部長だったんだよ、と付け足した。
「それに比べて、毎回補習で、入れと言われている部活にも入らない。遅刻に無断欠席、物を壊したり、走り回ったり」
どっちの言う事を信じる?と田原が質問してきた。
「何も知らない奴だったら、その先輩だろうな」
「でも実際のところはどうだったんだ?」
「先輩は父親のだとか言ってたけど、天ヶ瀬さんの妹は、学校で吸ってたって言ってた」
その事件が起きたのはちょうど大会前だったらしい。
「みんなが信じたいのは、先輩の方だったんだろうな」
下手をすれば大会参加取り消しになってしまう。
そうなるとすれば、バスケ部やそれを応援している生徒達は先輩がそんなことをしていないと、信じていたかったはずだ。
「結局、学校側の見解では先輩は無罪だった。そんなことをするわけがないって」
田原は膝の上に両手を置いて握りしめ、震えながら言った。
「本当はさ」
「オレも見たんだ、先輩がタバコ吸ってんの。でも言えなかった。試合が、なくなるのが怖かった」
「オレも同罪みたいなもんなのに」
「あの子は何も悪くなかったのに、あの子が悪者になってしまったんだ」
「試合は勝った。優勝したしみんなはすっげー喜んでいた」
「オレは、全然嬉しくなかった」
「天ヶ瀬さんの妹が悪者になってしまったこと、先輩がのうのうと試合に出てたこと、みんなが、試合に出たいばかりに、彼女の話をきかなかったこと」
「ずっと黙って、それを見てたオレが、」
「こうしてバスケを続けてることもな」
今日初めて、田原の苦しむ顔を見た。
今までずっと近くにいたのに、オレは彼の苦しみなど知らなかったのだ。
正直、田原がそんなことを考えるような奴だとは思っていなかった。
田原は明るくてポジティブ思考で、オレなんかとは正反対で。
だからなのかもしれない。
田原の優しさが、そう考えさせてしまうのかもしれない。
「田原、お前損な奴だな」
「!?」
「だってたぶんそんなことみんなとっくの昔に綺麗サッパリ忘れてるだろ」
「ふぁ!?」
「そんなの田原一人じゃどうにもなんねぇよ」
「忘れちまえ」
そうだ。
周りの奴らは勝手なことばかり言って、自分のことばかり守って、
終わったら綺麗サッパリ忘れる。
田原は少しでも、覚えていた。
罪の意識を、持っていた。
「次、またあの子が困ってたらたすけりゃいいだけの話だろ」
それに
「自分が言ったことが正しいって少しでも知ってるだけでも嬉しいと思うぞ」
「大神、今日は多弁だな」
何を言っている。
オレはいつも普通に喋ってるぞ。
「ありがとうな、大神。そうするよ」
「せっかくきっかけができたんだもんな。大神のおかげで」
「?」
「オレなんかしたっけ?」
放課後、なんとなく寄った図書室に秋良がいた。
どうやら自主勉強をしていたようだ。
「勉強熱心だな」
「大神先輩」
ジロリと横目で秋良がオレを睨んだ。
これ図書室じゃなかったら殺されてたな
「何か用ですか?」
秋良が教科書に目を向けて言った。
「いや、うん」
「どっちですか、あるんですかないんですか」
ただ声をかけただけで特に何もなかったが、ふと田原の話が気になった。
「あるよ。君の双子について…」
「どう思ってる?」
「は?」
如何にもなんでそんなことを聞いてくるんだというように、すっとんきょんな声を出した。
「冬香ですか?」
「そう」
向かいの席に座った。
別にこの場所で殴られるようなことはないだろう。
「あれは…オレには理解不能の生き物ですね。頭悪いし、人様に迷惑かけるし、昔はそんなことしなかったんですけどね」
双子とはいえ意思疎通とかそういうミラクルは起きないのか。
「あいつに関わるとろくな事起きないですよ」
なんとなくわかったのは、秋良は姉の春音に対しては過剰な愛情を示しているが、冬香に対しては双子だというのに興味はそれほどなく、少々迷惑している。
といったところだろうか。
「前に、バスケ部で、」
秋良が顔をしかめた。
「大神先輩知ってたんですか」
「田原に聞いた」
勝手にこんな事を言うのはためらった。
それでもオレは秋良が、この事をどう思っているのかが聞きたかった。
「秋良はどっちが悪かったと思っている?」
「いきなり名前呼びですか」
「天ヶ瀬で呼ぶと3人振り返るだろ」
秋良はまぁいいですよ、と言って手に持っていたシャーペンを置いて、まっすぐオレをみた。
「オレは冬香だと思ってます」
第一に証拠がない。
今までの人様への迷惑行為。
「適当な事を言っているようにしか思えない」
「身内なのに少しも信じないんだな」
ははっと笑って、オレに言い返す。
「信じるも何も、馬鹿な不良と頭のいい人どっちを信じますか?普通、後者じゃないですか?」
「ふーん」
本当のところオレも天ヶ瀬 冬香が苦手だった。
でもこうして客観的に見ていると、天ヶ瀬 冬香のほうが正しい行動をしていたことがわかったし、それほど嫌いになれなくなった。
もしもオレが、田原の話を聞かないで噂をきいたら、そのバスケ部の事件の時に居合わせていたら。
きっとオレも、悪いのは天ヶ瀬 冬香だと決めつけていただろう。
そして天ヶ瀬 冬香が正しいとは何も考えず、毛嫌いしていただろう。
もし、オレが天ヶ瀬 冬香の立場だったら、
「秋良の考えは正しい」
「そうですか」
「でも、」
「それは社会的な正解であって、本当のところは不正解だ」
「はあ」
秋良はこの話に飽きたのか、教科書の問題を解き始めた。
オレは秋良の教科書に手を置いて問題を解くのをやめさせた。
「田原は後悔していた」
「バスケ部の先輩が、本当にタバコを吸っていたって言い出せなかった事を」
信じても信じなくてもいい。
信じても過去の事は取り消せない。
それでも少しでも何かが変わればいいと思った。
その行動が迷惑だと言われてもこれが、今のオレのやりたい事なんだ。
秋良は視線を机に落としてそうですか、と答えた。
「でもそれが嘘、だという事もありえますよね」
「オレは一応、テストで5番以内をとった事がある」
最近は無いけど。
「頭いい奴の事は信じるんだろう?」
自分が頭良いだなんて自分で言える事じゃないし、言いたくもないが、今は使わせてもらおう。
「…降参です」
秋良は両手を挙げ、深いため息をつき、立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
荷物を置いたまま、教室を出ようとする秋良を止めた。
「…田原先輩に謝りに行きます」
「オレは田原に謝らせる為にこの事言ったわけじゃないんだが」
今更謝っても、何をしても、取消せないのだ。
謝る事よりも、冬香に対する見方が変わってくれた方がオレは嬉しい。
「…オレも知ってたんです」
「は?」
何を?
「本当は冬香が言ってる事が、」
「正しいって」
「ぇ」
いやいや何を言って……
「ずっと一緒にいたんだからそのくらい分かります」
「いやいやさっき…」
先輩が正しいとか、自分の双子の片割れ馬鹿にしてたじゃん!?
「分かってて、オレは冬香の味方につかなかったんです」
さっきまでまともに顔を合わせてくれなかったのに、今はまっすぐ、オレと向き合っていた。
「正直者は馬鹿をみる、 「って言いますよね?」
ずる賢い奴が得をするのに反して、正直者は損をする。
「冬香は常識はずれの馬鹿だ」
「だから、いい機会だと思ってオレは放置した。
少しでも、自分自身のことを守る術を覚えた方がいいと思って」
逆効果だった。
「思った以上に周りの奴らはひどくて、冬香は危ない事に自分から突っ込んでいくようになって、」
「もう、今は、オレには冬香が何を考えているのかわからない」
メガネを外し、片手でクシャリと顔を覆った。
「ずっと近くにいるのに、何もわからないんですよ。両親はねえさんの目を治すのに必死で、オレたちの事はずっと放置。勉強さえできていればいいと。オレは辛うじて勉強はできる。でも、冬香は。あいつ、両親になんて言われたと思います?」
目がみえないのが冬香だったらよかったのに。
「よくありそうなドラマのセリフみたいですよね。本当に現実で言う人いるんだって思いましたよ」
「それを言われたら、傷つきますよね、普通。それなのに、あいつは、冬香は、」
笑顔で、
「本当、そうだよね。春ねぇじゃなくて冬香が、みえなかったら良かったのにね」
「って。どうすればいいんですかオレは」
春音は、秋良の逃げ道だった。
姉の事に必死になる両親。
わざわざ危険に突っ込む双子の片割れ。
もし、両親が本気で姉の目を、取り替えようと考え始めたら。
そんなこと、流石にするはずはないとわかってはいても。
「結局は自分の事が一番可愛いのね」
「月島先生?」
「なんでここに?」
「秋良くんにちょっと用があってね」
月島先生はにっこりと笑うと、秋良に向き合った。
「お姉さんの目、治したい?」
「…はい」
おそらく、話は聞かれていただろう。
秋良もそう思ってか、バツが悪そうに返事をする。
「ああ、さっき言った事は気にしないで」
「独り言だから」
ずいぶん大きい独り言だったような…。
「…どこまできいてたんですか」
秋良がおそるおそるきいてみる。
「どうすればいいんですかオレは?かな?」
「廊下まで聞こえてたわよ」
「すみません」
「オレ、出てったほうがいいですか?」
あまり他の人に聞かれたくない話だったらよくないし。
「ああ、いいのいいの」
「大神くんにも耳寄り情報だから」
むしろいてちょうだい、とにこやかに言う。
「天ヶ瀬 春音さんの目を治す方法が見つかったの」
「!?」
「……それは移植とかそういう…?」
秋良が真っ青な顔で俯いて言った。
「違うわよ。それじゃあ意味がないでしょう?」
「私の家、医者をやってるの。新しい研究が開発されてね、でもそれの資料諸々盗まれちゃって」
「それってかなり、やばい事なんじゃ…」
「まあね。他にもいろいろ盗まれちゃったんだけどねぇ…」
「いやいや…」
軽いな。
「その薬を開発した人は存在してるのよ」
「だから今頑張ってつくりなおしてもらってるんだけど、うまくいかなくてねぇ…」
「もう少し時間がかかるかもしれないけれど、治る可能性はあるわ。一度は成功しているからね」
「時間はかかるけど…治るんですね」
秋良は安心したようで、眼鏡をかけ直し、月島先生にお礼を言った。
「ありがとうございます」
「そんなお礼なんていいわ。私は情報をあげるくらいしかできないから」
そして月島先生はらしくないことを言い出した。
「不死身の人間がみつかったらもっと早く春音さんの目、治せるんだけどねぇ…」
「先生でもそんなこと言うんですね」
「あら、不死身の人間くらい存在してるわよ。だって長年人間が血眼になって研究してきたことじゃない。空を飛べなかった時代から、現在人間は空を飛んでいるのよ? 」
不死身の人間が存在しているということがさも当たり前かのように話だす。
「それに実際にみたことがあるの。不死身の少年」
「…いやいやそんなわけ…」
まるで怪談をきいているようだった。
「成長していたら、そうね。秋良くんくらいかしら」
「お…僕ですか?」
月島先生はふふっと笑う。
その時はただの冗談だと思っていた。
オレも、秋良も。
月島先生から話を聞いた2日後、オレは冬香に呼び出された。
「大神先輩、秋良と一昨日何かありましたか?」
「何かって?」
まさか、3年の教室に押しかけて来るとは思っていなかった。
まぁちょうどいいか。
手に持っている紙袋を見てから周りを少し気にしたが、冬香は堂々とオレに質問を投げかけてくる。
「一昨日の朝まで大神先輩のこと呪うとかブツブツ言ってたのに、夕方学校帰る時くらいから機嫌が良くなって、しかも錦先輩は案外いい人だとか言いだした」
「まって、オレそんなに嫌われてたの」
コロッとかわりすぎだろ。
「何かあったんですか」
冬香は割と背が低い。
だから必然的に上目遣いになるのだが、
怖い。)」
思わず目を逸らして昨日の事を思い出すフリをした。
「あー…」
「なんか昨日偶然図書室に居たもんだから、、世間話してたら人生相談になっちゃってさ、」
「人生相談?」
冬香の眉がピクリと動いた。
「あっほら、春音が行きやすそうな高校とかの話!!」
咄嗟に嘘が出た。
まさか冬香、お前のことを話してたんだよなんて言えないし、言わないほうがいいだろう。
「そんなことで態度変わる…?」
変わらないと思う。
苦笑いをしながら、心の中でお願いだからそれ以上突っ込んでくれるなと祈った。
「まぁいいや…」
冬香はどうやら諦めてくれたらしく、ため息をついて別の話題を振ってきた。
「大神先輩って亜夜先生のこと知ってる?」
「ああ、生物の先生な」
「そう、なんだ…」
「先輩ってあの時携帯、先生に没収されたんだよね?」
「ああ。だからあの時空き教室に閉じ込められて出られなかった」
あの時はわりと焦った。
まさか開かずの教室状態になるとは思っていなかったから。
「誰に閉じ込められた、とかわかる?というか探らないの?」
「探ったところで別に…人がいないと思って閉めただけかもしんないし」
別にいじめられてるわけじゃないし。
たぶん。
「そっか」
心配してくれたのだろうか。
冬香が案外可愛いと思ってしまった。
妹に欲しい。
「先輩って優しすぎて社会に揉まれて酷い目に合いそうなタイプだね」
「勝負事に弱そう」
あ、さっきの訂正する。
「そういうお前はどうなんだ。あんまりうろちょろしてると不審がられるぞ」
「うん。自覚してる」
「もう既に不審がられてるし」
ふと周りをみてみると、ひそひそとこちらをみて話している奴らが複数いた。
「お前なぁ…」
どうやら冬香の評判は3年生まで広まっているようだった。
「もう慣れてるし。ぶっちゃけ自分がどう言われてもどうでもいいから」
「正直、春ねえの目とか、私の使えばいいと思うんだ」
「おい」
「私は必要のない頭の悪いバカだから。」
「秋良もきっとそのほうがいいと思ってるよ。秋良は春ねえのこと大好きだから」
「冬香」
パンッ
オレは持っていた紙袋を手首にかけて冬香の目の前で思いっきり手を叩いた。
さすがに冬香も驚いたらしく、一瞬目を丸くしてしゃべるのをやめた。
「何を…?」
「ああ、わりーな。ブンブンうっさいハエが飛んでたから」
「払いたかっただけだ」
周りにきこえるように、大きめの声で言った。
ああ、本当に払いたい。うっとおしい。
「急に何…」
「この前はありがとうな。誰かに閉じ込められたの助けてくれて」
「にしても誰だろうな、本当のことを確かめないで頭のいい小細工野郎を信じて変な噂流す奴」
「ちょっと…」
冬香が困った顔で大神に何かを言おうとする。
だが言葉が出てこない。
「本当、お前らそっくりだわ。さすが双子」
冬香に手に持ってた紙袋を手渡した。
「その中にオレと田原で買った食いもんが入ってる」
「3人で食べてくれ」
「え、なんで田原先輩…」
「田原はお前の味方だ。なんか困ったらバンバン頼れ。オレにもな」
「どういう…」
「絶対3人で食べろよ?」
冬香は焦って聞き返すがそれをオレはスルーして紙袋を押し付けた。
「春音へのお礼も入ってんだからな」
そういってオレは教室に入っていった。
取り残された冬香はずっしりと重い紙袋の中をちらりと覗いた。
「……………多っ!?」
紙袋の中にはカンカンのクッキーや、大袋の飴だったりさまざまな種類のお菓子が入っていた。
「……本当、優しすぎて酷い目に合わないか心配だよ」
そんなことを言いつつも、冬香は笑顔だった。
「ありがとう、先輩」
次の日、今度は秋良が教室の前に立っていた。
「大神先輩、田原先輩、いろいろと本当にすいませんでした。あと、食べ物ありがとうございました」
「食べ物のことはわかるけど、いろいろって?」
あ、しまった。
オレが秋良にバラしたこと、言うの忘れてた。
「いろいろですよ。先輩の胸ぐら掴んだり暴言吐いたり」
「ああそういう事。ちょっと苦しかったけど、別に平気だよ」
「大神みたいにそこまでヤワじゃないし」
「さりげなくオレをけなさないで」
それで、秋良はただそれを言いに来ただけではないようだった。
「大神先輩にお願いがあるんです」
とても、苦々しそうに。
「姉と遊びに行ってやってください」
頭を抱えながら。
「いやいや」
「そんな苦しそうにお願いされても…」
絶対、オレを春音に近づけさせたくないでしょ秋良くん。
「あれから色々と考えました。そして考えを改める事にしたんです」
「頭が悪いやつより良いやつの考えの方が正しい、ではなく、」
ほう。
「メガネに悪いやつはいない、と」
「いやまって何かがおかしい。どこがどうしてそうなった」
そもそもメガネでも悪い事する人はするからね?
いやオレ悪い事はしないけど、
コンタクトに変えて急に悪い人になったとか、ないからね?
そもそも頭の良し悪しからどうしてメガネになったの。
「そんな事はいいから姉と遊びに行ってやってください。その辺の公園で良いので。むしろ良い感じの雰囲気のところで良い感じにならないで下さい」
本音が漏れてるぞ。
「一体オレがいない間に何があったの」
オレにもわからん。
「ねえさん、友達ずっといなかったし、誰かと遊んだことなんてなかったんです」
「だから少しは中学の思い出を、と思って…」
「だからって2人でってハードルめっちゃ高いんだけど」
確かに春音は目が見えないし、この学校でまともに友達なんてつくる機会なんてなかっただろう。オレが知る限りでは3年になって、同じクラスになってから教室に来た事もない。
「だからと言ってオレや冬香が行くと……つい過保護になるから……」
過保護だという自覚はあるのか。
少し安心した。
「そうだ、田原も一緒なら」
コミュニケーションおばけがここにいるじゃないか。
「チキンめ。別にいいけど」
田原がため息を付きながら了承した。
「でも3人ってのは微妙じゃない?」
「誘えば良いんだよ」
冬香が目をきらきらさせながら言った。
「…誰を?」
オレはある人の顔が思い浮かんだ。
「ああ、なるほど」
『田原(先輩)が糸田さんを誘えば良いんだ。』
「は?なんで!?」
「気になってはいるんだろう?糸田さん」
「違うんですか?糸田さんっていう先輩の事…」
オレ達のやりとりがきこえたのか、田原の後ろから元気そうな女子がやってきた。
「ウチがどーした?」
糸田 加杏菜(いとだ かんな)
田原の想い人だ。
「いいいいい糸田!?」
「ああ糸田さん、ちょうどいいやちょっとぐっ」
「なんでもないよ、こいつの服に糸が付いててそれで…」
「田原先輩、この人がい…がはっ…」
オレはみぞおち、秋良は足を田原にやられた。
思わずオレと秋良はしゃがんでそれぞれやられた箇所をおさえる。
秋良は脛をやられたらしい。
余談だが学校指定の上履きはかたくて便所にあるスリッパにみえることから、生徒達の間では便所スリッパとよばれている。
「ふぅん…」
にやにやと、糸田さんはオレ達を見た。
「?」
なんだか糸田さんの目付きが怪しい。
なんか、口元がヒクついているような気がする。
「ああそうだ」
糸田がスイーツワールドの割引券を取り出した。
「田原、一緒に遊びに行かん?」
「へ?」
「みんなで!」
みんなで。
にっこり元気によく通る声で、糸田さんは言った。
田原の淡い期待は破られた。
ですね。
放課後、屋上に行くと冬香が柵に手をかけて帰る生徒達の様子をぼんやりと眺めていた。
オレがおい、と呼びかけると冬香は少しこちらをみただけで、視線を柵の下に戻した。
「春ねぇと出かけるんだってね、先輩」
秋良はオレがねぇさんに伝えるとか言って、あまり冬香にちゃんと説明しないでさっさと先に帰って行ったらしい。微かにだが、冬香の機嫌が悪いような気がする。
「糸田さんが、月島先生からスイーツワールドってとこのフェアの割引券を貰ったから、みんなで行こうって話になって」
「秋良も行くの?」
「行かないってさ。なんでも家族じゃなくて3年生の、ここでの思い出を作って欲しいんだとよ」
「思い出…」
ポツリと、そう言う冬香の言葉がとてもさみしく聞こえた。
そういえば彼女が、誰かと話しているところを見たことがない。
「先輩、今友達いなさそうって思ったでしょ」
「ぎくり」
「いるよ」
同い年じゃないけど。と冬香は付け足した。
「みさとさんって言って、春ねぇの目みてくれてる女の人なんだけど、くまつながりで仲良くなったの。 」
このくまね。と冬香の頭のくまの髪飾りを指差した。
「みさとさんは不死身になる薬を作った人で、そのみさとさんが作った薬で、本当は良くなるはずなんだ。春ねぇの目」
「みさとさんが、その薬を完成させたら春ねぇの目は治る」
「不死身の薬を開発した人がいるって月島先生から聞いた…」
月島先生は不死身の人間が見つかれば、早く薬が完成するとまで言っていた。
「不死身の人間がみつかっても誰も幸せにならない」
「何で?」
「春ねぇの目が治って喜ぶのは親と秋良くらいだと思う。だって不死身の人間がみつかったら、その人は研究し尽くされて、人間としてじゃなくただのモルモットみたいに扱われる。それがその人にとっての幸せだったらいいけど、少なくとも私が不死身だったら、嫌だ。そしてみさとさんは自分から、好きでそこにいるわけじゃない。いつも監視されて、ずっと研究し続けてる。物は与えられても自分の意思が持てない。行動できない。ただ、不死身の薬を作ってしまったばかりに」
饒舌に、冬香は語る。
「だからと言って春ねぇをこのままにしておくわけにはいかない。あまりにも春ねぇの目が治らなかったら秋良が代わりに春ねぇの目になるとか言い出しかねない。だから私が代わりに、なんて春ねぇが怒っちゃうし、春ねぇには超お節介焼きの大神先輩という彼氏ができてしまったわけで」
「ちょっと待て、オレは……」
「大神先輩がお母さん達にオレが一生春音さんを守ります!!って言ってくれたら、秋良からは命狙われるかもしれないけれど平和的に解決すると思うんだけどなぁ」
ソレゼンゼン平和的ジャナイ。
そう心の中で呟いていると、彼女がスマホの画面を見せてきた。
「先輩は、知ってる?本当は、私達4人兄弟なんだよ」
ケロリとした面持ちでそう言う冬香に動揺しながらも、オレはその画面を見た。
4歳上の兄、天ヶ瀬 夏希。
髪色は濃い茶髪で斜めに切りそろえられた前髪。
明るい笑顔で、はしゃいでいる時の冬香にそっくりだった。
「お兄ちゃんはね、とてもいい人だった。春ねぇだけじゃなくて私達のこと平等にみてくれたし、頭も良くて、運動神経抜群で、完璧な人だった」
それだからなのか、それとも、なんにせよ彼は。
何故か彼はどこかへ消えてしまった。
とてもとても大きな傷跡を残して。
全てが狂ったのは、私と秋良がまだ小6で、春ねぇは中1、夏希お兄ちゃんが高2の冬頃だった。
父は大手の企業の社長をやっていて、母はそれを手伝うというかたちで、毎日忙しく、私たちのことは夏希お兄ちゃんやお手伝いさん達がほぼ面倒を見てくれていた。
「秋良、冬香、春音の髪ゴム、どこか知らないか?どっか落としたみたいでさ、」
「髪ゴム…みてないけど、私の使う?…ってあれ?お兄ちゃん、今日ってなにか用事があるとか言ってなかった?」
私は引き出しから髪ゴムを取り出した。
「出かけないでいいの?午前中終わっちゃうよ?」
さっきまで本を読んでいた秋良が顔を上げて時計を指差すと、
お兄ちゃんは笑って
「うん、夜まで大丈夫。それに春音のこと連れて行く用事だからさ、身支度身支度」
そう言った。
「お姉ちゃんを?」
「春ねぇって今日病院に行くんじゃなかったっけ?」
「うん、そう、でもいつものお医者さんよりすごい人を見つけてさ、その人に一度診てもらおうと思ってね」
お兄ちゃんはとても嬉しそうに話をした。
私はなんでもできる夏希お兄ちゃんのことを尊敬していたから、そんなお兄ちゃんの言うすごい人に、ただ単純に会ってみたいと思った。
「私もいく!!!」
「僕は行かない」
当時の秋良は歴史の本にはまっていて、週一で本を借りては読みあさっていた。
「秋良は、いかない、のか」
お兄ちゃんはしょんぼりしながら、秋良をみた。
「行かない」
「最近の秋良は反抗期なのかな?僕にやけに冷たいけど。お兄ちゃん寂しくて泣いちゃうぞ?」
「明日までに10冊読みきらないといけないから」
「お兄ちゃん、振られた〜」
「えー秋良ー本なんてまた借り直しすればいいだろ?」
「い・や・だ」
「しょーがないって、お兄ちゃん。秋良は一度はまったら止まらないから」
秋良もこないの?と、お兄ちゃんはいつもよりしつこく言っていた。
もう、この時既にこの些細な変化に、気づくべきだったのかもしれない。
私と秋良。
二人が必要だったということに。
お姉ちゃんはもう既に車に乗り込んでいて、私は持っていた髪ゴムでお姉ちゃんの髪の毛を二つに結んだ。
「ありがとう、冬香。秋良は図書館?」
「家で留守番。なんか明日返却のやつがあるんだってさ」
いつもの運転手の斉木さんと、助手席に座る夏希お兄ちゃん。
後部座席には春音お姉ちゃんと私。
それぞれがシートベルトをしめると、車のエンジンがかかった。
「じゃあ、斉木さん先程の行き先にお願いします」
「はい」
斉木さんは、カーナビも使わずにそのまま車を発進させた。 どうやら斉木さんも知っている場所らしかった。
「お兄ちゃんの言ってたすごい人ってどんな人?」
「僕の先輩。もう卒業しちゃったけどね。とてもすごい人なんだ」
すごい人、というのがどういうことなのか。わからなかったけれど、そのときの私は良い意味で捉えていた。
「男の人?女の人?」
「女の人だよ」
「じゃあ、夏希お兄ちゃんの好きな人?」
「春音はすぐ恋愛話に持ち込む…違うよ」
その人の名前は月東 絢(がっとう あや)って言うんだ。
お兄ちゃんはそれだけ言って、黙ってしまった。
そしてしばらくして辿り着いたのはとても大きくて、寂れている廃墟だった。
その建物はとてもじゃないけれど、綺麗とは言えなかった。
蔦で壁一面びっしり、見えている壁はヒビが入っていて耐震は大丈夫なのかと心配になるくらいで、廃墟の周りのレンガブロックなんてもう崩れている。
「うわぁ…ぼろ…むぐ」
思わず言いそうになったその言葉を夏希お兄ちゃんに手で口を塞がれた。
「しっ!!ここの人、結構気難しいからあんまりそういう事言っちゃだめだって、」
小声で夏希お兄ちゃんは言った。
「あんまり喋るなよ?冬香はすぐ余計な事言っちゃうから。春音のなおしてもらえなくなったら困るだろ?」
私は思わず両手で口を押さえ、無言でこくこくと頷いた。
つい余計な事を口走ってしまうのはかなり自覚はあった。
ただ、黙っているというのも逆に調子悪いの?と心配されてしまうので、なかなか難しい。
そういう自分が別に嫌いなわけではないが、たまに恨みを買ってしまうので困ったものだ。
元気すぎるのも、静かすぎるのもダメ。
じゃあ丁度いいくらいになる努力をすればいいんじゃないのか?
と言われたとしても。
そんな努力はくだらないような気がする。
「じゃあ斉木さん、ありがとうございました」
お兄ちゃんはお姉ちゃんが車から降りるのを手伝い終えると斉木さんにお礼を言った。
斉木さんは黙って深々とお辞儀をして、そのまま車に乗り込み、来た道を走って行った。
「斉木さんって、ここに来た事があるの?カーナビ動かしてなかったみたいだけれど」
「よくわかったね。やっぱり春音は耳がいいな」
「こんなぼ…こほん。この建物ってなにするところなの?」
また「ぼろい」と言ってしまいそうになったが、咳払いをしてなんとか持ち直してみた。
「入ってみればわかるよ。さぁ、早く」
天ヶ瀬 夏希はお姉ちゃんの手をとって、私の肩を掴み、荒廃した建物の中へと入っていったわけだが。
私の肩を掴むその天ヶ瀬 夏希の手に、どこか違和感を感じた。
荒廃した建物の中は思っていたよりも綺麗な内装で、床はコンクリートに壁は白いタイルで敷き詰められており、 いかにも、普通の研究所。といったところだ。
「ねえ、お兄ちゃん、なに?これ」
ただ一箇所、研究所としては違和感のあるものが大量に置いてあった。
「クマのぬいぐるみ?」
青いクマのぬいぐるみ。
大小大きさはバラバラで山のように積んであるクマのぬいぐるみの顔は、漫画のふざけたパーツで笑いを唆る。
「ああそれ?ここの研究所で働いてる人がいつも持ってるぬいぐるみだよ」
青いクマのぬいぐるみのおしりの部分についているタグには魔法少女絶望ガールと小さな文字で書いてあった。
「ほら冬香、行くよ」
お兄ちゃんはふらふらとうろついている私の腕を掴み、姉の背中を軽く押しながら奥へと進んだ。
奥へ、奥へと続くその廊下は薄暗く、まるで私たちを飲み込むような不安を煽ってくる。
そして途中、横に続く道があったけれど、お兄ちゃんは前へ、前へと進んで行く。
私は好奇心で静かに、その道を覗いた。
「………ナニコレ…」
私は呆然と立ち尽くし、お兄ちゃんをみた。
「ねえ、お兄ちゃん、」
「何?これ…」
私は静かに指を指した。
「お兄ちゃん、どうしてこんなところに連れてきたの?」
真っ白な鳥かごのような部屋に、赤黒い床。
匂いを嗅げばすぐにわかる。
これは、
血の匂いだ。)」
その後、白衣を着た人たちが大勢、私を捕まえに来た。
私は両腕を掴まれながら、
「お兄ちゃん、どうして、なんで!?」
「お兄ちゃんは何をしようとしているの!?」
と、叫びながら抵抗したけれど。
お兄ちゃんは何も答えてはくれなかった。
それどころか、
「今までありがとう、冬香」
「じゃあな」
と、にっこり笑って、私の手首に手錠をかけた。
春ねぇは何が起きているのかわからないから、ただただうろたえながら冬香?お兄ちゃん?と手を伸ばしていたが、春ねぇも白衣の人に両腕を掴まれていた。
そして私は薬で眠らされ、
気づけば真っ白な部屋に入れられていた。
「本当に真っ白な部屋だった」
天井も床もベッドも全て。
ただ、誰かが居たような形跡はあって、窓が無い所為か微かに何かが腐った臭いがした。
「何日経ったのかわからない。でもしばらくずっと考えてた」
お兄ちゃんはどうして変わってしまったのか。
もしかしたら私はずっと嫌われていたのかもしれない。
ここはどこだろう。
斉木さんはこの場所の事を知っていたから、お兄ちゃんはしょっちゅうここに来ていたのだろうか。
斉木さんはこの建物の中を知っているのだろうか。
お兄ちゃんは秋良のことも連れて来ようとしていた。
何の為に?
お兄ちゃんは秋良の眼まで奪うつもりなのだろうか。
でも、秋良は眼はあまり良くはない。
いつも本ばかり読んでいるから。
じゃあどうして秋良も必要なの?
「ひたすら、考えていた。 」
もしかしたら、秋良が必要とされているのは眼なんかじゃなくて、
秋良の身体?
その時、私の視界。
白の画面が真っ赤に染まったように見えた。
ここに入れられる前。
私が見た真っ赤な床。
真っ白な牢屋。
「アレが、未来の秋良と私…? 」
嫌だ。
そんなの、
ダメだ。
春ねぇの眼がなおるなら、
私の眼を差し出す。
だから秋良だけは、秋良だけは。
「出して!ここから出して!!」
秋良に会わせて。秋良だけはやめて。
「秋良には何もしないで!!」
私の眼はあげるから。
だから、
「秋良にだけは、手を出すなあああああああああ!!!!」
限界だった。
血生臭さと、一面の白さ。
お兄ちゃんが私と秋良を引き換えにお姉ちゃんの眼を治そうとしている事。
なにより、いつも一緒だった家族が隣にいない事が、私の気を狂わせた。
「お願い、秋良だけは、 」
限界に到達した頃、ビーーーッと、あの出口が開く音がした。
いつもの食事の時間じゃないのに扉が開いた。
「…大丈夫?手、ボロボロじゃないの!!」
茶髪に白衣の女の人が、白い部屋に入って来た。
「誰?」
「私はヤギミサト。今日、あなたをここから解放しにきたの」
「死ぬって事?」
「死なない」
「じゃあ秋良は?ねえ!?秋良は!?」
「秋良くんは大丈夫。春音ちゃんという子も無事」
「………お兄ちゃん…は?」
女の人は一瞬下唇を噛んで、
「無事、だよ」
そう答えた。
「その後のことはよく覚えていない」
何故か私はあの場所から出る事ができた。
そして帰ると、お兄ちゃんはいない者として扱われていた。
私と春ねぇは検査入院に行っていた事になっているし、両親にお兄ちゃんの事を聞いても何も答えない。
秋良に聞いても、何を言っているのかわからないと言う。
春ねぇは、少しビクッとして、誰の事?と困った顔をするだけ。
家中の写真やアルバムは全部なくなっていて、
残ったのは私のスマホの中の写真だけ。
夢であって欲しいと思っていた。
幻のような、でも確かに存在していたお兄ちゃん。
「だってさ、こんなに似ているのに、こんなに私は覚えているのに」
なんでみんな覚えていないんだろう。
裏切られたとしても、お兄ちゃんはお兄ちゃん。
私にとっては大切な家族だったんだ。
「冬香、こんなとこにいたのか」
冬香が話を終えた直後、秋良が屋上に入ってきた。
「秋良、帰ったんじゃないのか」
さっき冬香は秋良は先に帰ったと言っていたが。
オレはちらっと冬香をみたが、冬香は相変わらず柵のところでずっと下をみている。
「いつも迎えが来るので、カバンだけ置いてきたんです。先輩も乗っていきます?」
「マジで?いいの?」
「ダメ」
「ぜえーったいだーめ」
冬香が後ろを向きながら、怒った声で言った。
「あのなぁ…冬香、お前の車嫌いはさすがにやばいし直したほうがいいと思うぞ」
「ここから12キロもあるんだぞ?」
「12キロ…?いやでも、電車を使えばそうたいして…」
「自転車ですよ。雪の日も台風の日も。電車も使わないんですよ」
それはやばい。(作者は1キロ往復が限界。)
「なんで?」
「…こわいからやだ」
「変なとこに連れて行かれたら嫌だもん」
後ろを向いているが、冬香の肩は微かに震えていた。
「…………わかった。でも先輩は乗りましょう」
「えっ」
「ダメ」
「大丈夫だよ」
先輩は目が悪いから
冬香は小さく頷いて、オレに小さく手を振った。
気をつけてね、と。
黒塗り…高級車…
「どうぞ」
スーツに白手袋の運転手らしきガタイの良い少し(?)顔が厳つい男の人に真顔で、すすめられた。
これは、オレでも怖いと思うぞ
秋良とオレは7人乗りの車の一番後ろに乗った。
オレの家の住所を伝えると、黒塗りの高級車は発進した。
しばらく沈黙が続いた後、一番最初に口を開いたのは秋良だった。
「本当だったら、そこが冬香の座る場所で、その前が姉さん。オレの前が母さん、助手席に父さん」
「真ん中に、兄さんが、座るんです」
オレは秋良の指さした真ん中の席を見て、秋良を見た。
「秋良、お前…」
「全部、聞いちゃいました。すみません。…そして兄のことはうっすら覚えています…冬香には言ってないけど」
「なんで言わないんだ?」
「最初は本当に忘れていたんですよ」
「兄という存在を」
しばらく姉さんは検査入院をしていた。
冬香はそれの付き添い。
そう思っていた。
「どうして気づいたんだ?」
「なんか気持ち悪いって思ったんです。冬香を見ていたら」
「気持ち悪いって…おい…」
「いっつもケタケタ笑って楽しそうにしていたはずなのに、笑っていても全然目が笑ってないんです」
「双子なのに全然違う人間になってしまったようで」
少し、さみしかった。
性格も性別も違うけど、双子っていう繋がりが嬉しかったのに。
好きだったのに。
「ある時…去年の冬頃ですかね。…絶対言わないで下さいよ?」
冬香のスマホの連絡帳を開いたんです。
「いや何してんの」
「その…おかしくなったのは彼氏とかできたのかなーとか思ったりして…ごにょ…」
お兄ちゃん何してんの
「こほん。で、みたら夏兄の名前がありまして。なんとなく思い出したわけです」
「あと写真もありました」
写真もチェックしたのね。
「冬香は兄の事をとても慕っていましたから、だからすぐに気づけたのかも。双子のオレよりも仲が良かったから」
「そうか?オレが聞いた限り、お兄さんと冬香は似ているだけでお前の事相当気にかけてるし、かなり好きだと思うぞ、お前の事」
「ここここここここここここっ根拠は!?」
何故頰を染める。
「え?だってあいついっつもお前のこと見てるし、お前に何か変化あるとオレに聞いてきたりしてるし?」
まぁ、いきすぎてる感はあるけど。
「そうですか…」
「いや、でも、最近は先輩の方が仲良いでしょ」
「お前は本当、シスコンだな」
「オレは秋良、お前とも仲良くなりたいんだが」
「オレ、これでも結構先輩に優しくしてますよ?」
なんか嫌な汗が出てきた。
「あ、冬香今学校出たみたいです」
「メール来たのか」
「いえ?GPSですけど」
「え」
「スマホを覗いた時に入れておいたんです。あいつ意外と機械オンチなんでまだバレてないみたいです」
「お前らの将来がちょっと心配だわ…」
意外と時間があれば簡単にできるんですよ、と秋良は言った。
これはもうオレに対しては結構気を許してくれているということなのだろうか。
なんだかんだ仲の良い双子の話が聞けて安心したけれども、その後の会話はあまりよく頭に入ってこなかった。
無事に家に帰るとなんとなく、オレは自分のスマホのなかを徹底的に調べた。
なんとなくだ。
オレのスマホには何も異常はなかった。
おそらく。
でも電話がかかってきたのだそれも2回。
最初にかかってきたのは春音。
秋良から遊びに行く話を聞いたという、報告。
普段も彼女の声のトーンは高いが、それ以上に浮き浮きとした声だった。
スマホからお花の効果と香りがでてきそうなほどに。
楽しみだね、という明るくて可愛い声に思わず鼻と口をおさえた。
こんなに嬉しそうな声は初めてだ。
田原でさえ、良いことがあってもここまではしゃいだりしない。
これは当日、楽しませるハードルがかなり上がったぞ。
なんて考えたりして、浮かれていた。
そして、2回目の電話。
非通知ではないけど、知らない電話番号だった。
春音の電話の後だったから、思わずでてしまったけれど声は知らない男性で、どこか誰かに似た声だったものだから、ついそのまま聞いてしまった。
「こんばんは。これをどう解釈するかは君にかかっているけれど、とても大事な話だ」
「よく聞いてほしい」
昔々、なんでもできる女の子がいた。
その女の子は眼鏡をかけていた。
目が悪いわけではなく、みえすぎてしまうから。
その女の子にはきょうだいがいた。
兄と、双子の弟と妹。
ある日、家族で遊びに行った。
弟と妹はまだ幼くて、父と母はその二人にかかりっきりだったから兄と一緒に行動していた。
兄とその女の子は不思議な建物をみつけた。
兄は冒険が大好きだったから、つい好奇心で中に入ろうと、女の子に言った。
女の子は、こわい。と言った。
何がこわいのかを知らない兄は、大丈夫だよ。と言って女の子の手をとって、中に入った。
そこには、子供が見てはいけない。
いや、子供も大人も、みるには酷すぎるものがたくさん、転がっていた。
真っ赤に染められた、人間が。
兄は悲鳴をあげて、女の子の手をとって走って引き返そうとした。
女の子は座り込んでしまっていて、兄は早く、早くここから逃げよう、と女の子の肩を揺さぶりながら語りかけた。
かしゃん。と、音がした。
女の子の、眼鏡が落ちた音だった。
女の子は言った。
こわい、こわい、こわいこわいよ、こわいよお兄ちゃん、私がおかしいの?ねえ、おかしいの、おかしいの、同じ顔の人がいっぱいいるの。
女の子は目を押さえながら、言った。
その先の部屋。
それは兄がみたもの、想像以上に異常な、異常を超えた異常。
兄は妹の女の子をおんぶして、その建物を出た。
その日から、女の子は目がみえなくなってしまった。
「僕の、所為でね」
舌を捲くような喋りの後、ガチャン、という音とともに電話は切れてしまった。
「今の……って……」
オレは慌てて今の電話の内容をメモに書いた。
そして、秋良に電話をしてあることを確認するとすぐに切って、次は冬香に電話をしてすぐに電話を切った。
「やっぱり…やっぱりそうだ」
オレが言った番号を聞くと、二人とも同じ事を言った。
「なんで先輩が、夏にいの番号を知っているの?」
「錦ー!!お母さん、ちょっと出かけてくるわね。おじいちゃんの調子が悪いみたいなの」
括弧仮の天ヶ瀬夏希から電話がかかってきたのは何故だろう、とずっと頭の中でそればかり考えていたオレは、母親の声に驚いて机に足を打ち付けてしまった。
「ぐっ」
「ちょっと、あんた何しとんの。大丈夫?」
それどころじゃないのに、痛い。
とりあえず痛みをこらえて母に聞いた。
「じっちゃん調子悪いの…?」
この間、株があがったとか損したとか得したとか、オレにはよく理解できないことで喜んでいたのが頭に浮かんだ。
歳といえば歳だけど、ここ最近は体調が良さそうだったのに。
「風邪ひいたみたい。少し声がおかしかったのよ。だからちょっと様子みてくるわね」
「わかった」
じっちゃんの家はここからだと電車で2時間。
もう夜遅いし、母が帰ってくるのは明日以降になるだろう。
「ちゃんと受験勉強しときなさいよ」
そうでした。受験生でした。忘れてました。
家にオレ以外の誰もいなくなると静かになり、先程のホラーじみた電話の所為で背筋がやけに冷たく感じる。 テレビをつけると放火事件についてのニュースがやっていた。
「どこも彼処も物騒だな、」
火元は若い男性が住んでいたアパートの一室。住んでいた男性の行方は不明。遺体もなくその他のけが人も出ていないらしい。
割と近所だが、今はそれどころじゃない。オレは。
天ヶ瀬夏希(仮)からの電話の事を秋良か冬香のどちらに話すかどうか悩ましい。二人に話しても良いが収拾がつかなくなりそうだ。