「辺野古の新基地建設における国側の強硬姿勢に県側の反発も強まっており、2014年、18年、22年の知事選では続けて反対派の候補が当選した。しかし、軟弱地盤を理由に県が埋め立て承認を撤回すると、国は県を訴える裁判を提起して、基地建設を強行した」
これは、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古への移設工事に反対している玉城デニー知事のコメント、ではない。玉城氏を支持する左翼勢力や県内メディアが全く同じ言い回しで政府を批判しているが、それでもない。
文部科学省の検定に合格し、来春から主に高校2年生が使うことになる教科書(政治・経済)の記述である。
まるでプロパガンダ
クイズの間違い探しは得意ではないが、右の文章なら、おかしなところを指摘できる。
まず「新基地建設」という言葉だ。玉城氏らが好んで使っているが、辺野古に元からある米軍キャンプ・シュワブを拡張する形での工事であり、全く新しい基地ができるわけではない。政府は「移設工事」という言葉を使っている。
「知事選では続けて反対派の候補が当選」という記述も、名護市や宜野湾市の市長選で反対派が連敗していることに触れておらず、バランスを欠く。
何よりおかしいのは、「国は県を訴える裁判を提起して、基地建設を強行した」と決めつけていることだ。実際には国と県の双方が複数の裁判を起こし、判決ではいずれも国が全面勝訴している。国は法令上必要な全ての手続きを踏んで工事を進めており、最高裁判決にも従わず「強硬」に反対しているのは、県のほうだ。
同じページに「日本の国土の0・6%を占めるに過ぎない沖縄県に、在日米軍施設の約70%が集中している」とあるのも間違い。約70%なのは米軍専用施設で、自衛隊との共用を含む米軍施設全体では約20%である。
基地反対派のプロパガンダのような記述がなぜ検定に合格したのか不思議でならない。文科省は、政府方針に反対する子供たちを育てたいのか。
平成26年に教科書検定基準が改正され、歴史と領土の記述で政府見解や確定判決を踏まえることや、見解が分かれる場合はバランスよく取り上げることなどが義務付けられた。
これにより戦前・戦中の日本軍による「従軍慰安婦の強制連行」や「南京大虐殺30万人」といった、史実を無視した偏向記述はなくなった。だが、主語をぼかした形で「強制」「連行」の言葉は残っている。
「守る」視点全くなし
特にひどいのが沖縄戦に関する記述だ。例えば日本史探究の1冊にはこう書かれている。
「日本軍により、戦闘の妨げになるなどの理由で県民が集団自決を強いられ、スパイ容疑で殺害される事件や幼児が殺される事件が多発した」
別の1冊はこうだ。
「日本軍は住民に大きな犠牲を強いた。日本兵によって住民が壕(ごう)から追い出されたり、泣いている赤ん坊が殺害されたり、スパイの疑いをかけられた人が処刑されたりした」
沖縄戦で日本軍将兵は、祖国を守るために戦った。だが、検定に合格した日本史探究の6冊で、「守る」という視点からの記述は1冊もなかった。
一方、住民の「集団自決」については全6冊が取り上げ、日本軍による命令や強制をにおわす記述も多い。軍命令による集団自決がなかったことは、実証的研究ではっきりしているにもかかわらず、だ。
深く平和学ぶために
教科書には1行も書かれていないが、沖縄戦で住民に「生きのびろ」といい、自決を引き留めた将兵もいる。
第24師団第2野戦病院の部隊長、小池勇助少佐もその一人だ。軍医であった長野県出身の小池少佐は、旧制高等女学校の生徒で編成された「積徳学徒隊」を率い、過酷な環境で負傷兵らの救助に尽くした。だが昭和20年6月、地下壕の陣地が米軍の激しい攻撃を受けると学徒隊を解散し、こう訓示した。
「決して死んではいけない。生き残ってこの悲惨な戦争を後世の人たちに伝えてくれ」
小池少佐は生徒の一人一人と握手して陣地を脱出させ、自身は自決した。
自国の軍隊を悪魔のように教えるより、こうした史実も伝える方が、平和の大切さについて、より深く考えるようになるのではないか。(かわせ ひろゆき)