バンダイナムコスタジオのコンポーザー、Shogo Nomuraです。今回はApple Arcadeで配信中のゲーム『塊魂 Rolling LIVE』に収録される楽曲「パラレル魂」を例に、ハーモニーに焦点を当ててBITWIG Bitwig Studioの活用法を紹介します。
ノート・エフェクトを活用してできる新鮮で個性のある響き
「パラレル魂」は独特の浮遊感がある楽曲ですが、実はポップスを作る上で当たり前になっている機能的なコード進行(Ⅰ→Ⅳ→Ⅴなど)を意図的に排すことで、常に“地に足の着かないような響き”を作り出しています。例えば、いつも通り打ち込んだクリップをランダムな箇所で分割。刻んだクリップからインスペクターパネルにアクセスし、キーを+2〜−2くらいの範囲で適当に上げ下げしてみましょう。どうでしょうか? Bitwig Studioの基本的な機能を使っただけのシンプルな手法ですが、これだけで目の前の景色がバッと変わったような、個性を持った響きを得ることができると思います。ちなみに、分割と結合はよく使うので、手になじんだショートカットを設定しておくと楽です。
ノート・エフェクトであるNote Transposeを使用するのも効果的です。
オートメーションでもセミトーン単位の変化を付けることができますが、Bitwig Studio内蔵音源、もしくはMPEに対応した音源を使用することで、さらに微細なピッチの変化を付加するのも面白いと思います。「パラレル魂」では、オンコードや構成音の幾つかを省略した響きを多数採用した上で無理やりなトランスポーズを行っているので、キーの曖昧さがより際立つ形になっています。発想の外から生まれたアプローチは、楽曲を新鮮で個性のあるものにすることがあります。トランスポーズ前のコードやスケールを変化させることで、響きのバリエーションをさらに増やしてみましょう。
さらにKey Filterでは、打ち込んだ音を特定のスケールに追従させる、またはスケール外のノートを排することができます。例えばノートをドリアン・スケールに追従させると、打ち込んだフレーズが教会のような、ファンタジックな響きをまといます。
Key Filterのリストにないスケールが欲しい場合は、Transpose Mapで自分好みの音列を作ることができます。ここで作ったフレーズをそのまま使うのも良いですし、先述のように一部分をトランスポーズさせてキャラクター付けしてみるのも楽しいです。
筆者が気に入っている手法として、同音が保続された、もしくは同じパッセージを繰り返しているベースの上に、トランスポーズしたリフを乗せるというものがあります。ベースが一定の動きをし続けることで上声の響きの揺らぎが強調され、どこかこの世の響きとは思えないような、不思議な雰囲気を得ることができます。このとき、ベースと上声の関係を遠くする(遠いキーにする)とさらに効果的です。
ちなみに「パラレル魂」では、異質感を強めるために、上記の手法をシンセ・ベース+生ストリングスで行っています。響きに対してメロディをどう取るかについては楽器編成によっても印象が変わってくるので、いろいろ試してみると発見があるかもしれません。
Micro Pitchを用いて揺らぎのあるベース・フレーズ制作
ピッチの揺らぎはコードに限らず、いろいろな場所で作り出すことができます。アップテンポになってからのベースをよく聴くと微妙にピッチがずれている箇所があるのですが、実はMicro Pitchを使ってピッチをずらしたトラックを隠し味としてレイヤーしています。Micro Pitchはノートごとに違うチューニングを設定できるノート・エフェクトです。ノート全体のピッチをずらして微分音的なアプローチをしたり、特定のノートだけいじってオリジナルの音律を作ることができるので、“変な音マニア”としては見逃せないエフェクトです。今回はプリセットのEulerを使って、お酒に酔ったような、少し調子外れなチューニングにしました。これをメインのベースにわずかにレイヤーすることで、ピッチに微妙な揺らぎを与えています。
本楽曲ではさらに、ベースの質感をビット・クラッシャーで変質させることにより、ストリングスとの音色の差を出しています。本制作では使用していなかったのですが、Bitwig純正のBit-8が思いのほか大胆に音が変わって良い感じですね。
調子外れな音色を作る別の方法として、シンセの発音数を1(モノ)にしてGlideをやや長め(40%くらい)にしたトラックに、ほかのトラックで使用していたコードを含んだパッセージをそのまま演奏させるといったこともしています。もともとは間違えて音を置いていたことが始まりだったのですが、ベンドしたときの気の抜けた音が面白く、キャラクター要因としていろいろな曲で使うようになりました。
前回取り上げたリズム・トラックに続き、今回のハーモニーに関しても、Bitwig Studioでは偶発的に音を生み出すための道筋が幾つも用意されています。新しい音に出会ったり、予定調和を脱するためのスパイスとして活用してみてください。
Shogo Nomura
【Profile】2021年にバンダイナムコスタジオ入社。コンポーザー、時には鍵盤奏者として、『塊魂 Rolling LIVE』『鉄拳8』『電音部』などのタイトルに参加。幅広いジャンルにおいて強い作家性を持つ。『塊魂 Rolling LIVE』 https://katamaridamacy-rolling-live.bn-ent.net/ ※Apple Arcadeは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。
【Recent work】
『塊魂 Rolling LIVE オリジナルサウンドトラック-ららまりだましい』
塊魂シリーズSOUND TEAM
(Bandai Namco Game Music)
©Bandai Namco Entertainment Inc.
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:52,800円|エデュケーション版:35,200円|12カ月アップグレード版:22,000円
Bitwig Studio Producer:26,400円
Bitwig Studio Essentials:13,200円
Bitwig Studio 8-Track:無償、ダウンロードはこちら→https://www.bitwig.com/reg/
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
Windows:Windows 10(64ビット)、Windows 11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
Linux:Ubuntu 22.04以降、64ビットDual-Core CPU以上の×86 CPU(SSE4.1対応)
共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インター ネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)