バンダイナムコスタジオのコンポーザー、Shogo Nomuraです。前回に引き続き、Apple Arcadeにて配信中のゲーム『塊魂 Rolling LIVE』の楽曲制作、そしてその作業で欠かすことのできなかったBITWIG Bitwig Studioの活用法について、今回も制作事例を交えて紹介していきます。
Samplerとモジュレーションで音に有機的な効果を生む
質の高いサンプルやAIの登場により、誰でも手軽にクオリティの高い音楽が作れる時代になってきたと感じます。だからこそ『塊魂 Rolling LIVE』は、作家それぞれの好きや熱量を突き詰めた先にある、良い意味での“いびつさ”を特に大事にしながら制作しています。Bitwig Studioには、そういった特徴的なサウンドを生み出すのに便利な機能やエフェクトが豊富にそろっており、ツール側からインスピレーションを得る機会も非常に多いです。今回は、Bitwig Studioのデバイスを使用したいびつなリズム・トラックの作成方法について紹介します。
メイン・テーマ「塊オンザドリーム」は、一聴すると分かる通り、ネオ渋谷系やアキシブ系の流れを意識した楽曲です。すべての楽器をレコーディングするという選択肢もありましたが、この楽曲では塊魂らしい“いびつさ”を出すために、ふんだんに使用しているストリングスやブラスなどの生楽器と対比させる形で、少し変わった質感のリズム・トラックを作りました。
メインとなるスネアは、Samplerの再生範囲を指定したりAHDSRのノブを操作することで極端にリリースを切っており、単体で聴くと少し気の抜けたようなサウンドになっています。
また、Bendのようなノート・エフェクトをオートメーションで適宜オンにすることで、セクションごとにキャラクターを付けています。基本的にBitwig Studioでは、付属デバイスとサード・パーティ製プラグインのどのパラメーターにもモジュレーションをかけることができます。モジュレーションを活用することにより、トラックに有機的なアプローチを加えることが可能です。
Bitwig StudioのSamplerは自由度の高い音作りが可能なサンプラー・デバイスで、シンプルなワンショット音源として使用できるほか、サンプルをウェーブテーブルの要領で再生できるCycleモードや、グラニュラー・シンセシスを利用したTextureモードを使用することができます。豊富に用意されたモジュレーションで各パラメーターを動的に動かすことで、抽象的で複雑なサウンドを生み出すことが可能です。
さらに、Samplerデバイスを立ち上げた際に表示されるCreate new multisampleを使用すれば、異なる複数のサンプルをグループごとにレイヤーできます。筆者はオリジナルのプリセットを保存して、適宜呼び出せるようにしています。
ノートの長さをモジュレートしてグルーヴ感をコントロール
「塊オンザドリーム」ではグリッドに沿わないブレイクビーツのようなサウンドがそこら中で鳴っているのですが、このような音はBitwig Studio 5.3で追加されたStepwiseというMIDIエフェクトでも作成可能です。このデバイスをDrum Machineの前段に挿し、グローバルグルーブやオフセットを設定することで、異なるノリが混在する複雑なビートを作り出すことができます。
また個人的によくやる手法として、Drum Machineの後段にGateを入れ、ビート全体にうっすらとゲートをかけることがあります。各サンプルの減衰度合いが変わることでグルーヴの感じ方も変わり、そのままだとのっぺりしたように聴こえるビートが締まってキビキビとした印象になります。「塊オンザドリーム」ではGateを活用した生っぽいビートに、サチュレーション・エフェクトのSaturatorを挿して破綻寸前まで飽和させることにより、きらびやかなストリングスやブラスと対比させた、汚し系のサウンドを作りました。
ノリを変える手法として、Audio Sidechainを使用するのも効果的です。
キックをトリガーにしてAudio Sidechainに入力し、Drum Machineにノート・エフェクトとして挿したNote Lengthをモジュレーションしています。LENGTH IN TIMEをマイナス方向に設定することで、キックが鳴ったタイミングだけDrum Machineに打ち込んだノートが短縮され、疾走感のある小気味の良いビートになります。逆にLENGTH IN TIMEをプラス方向にすれば、ベタっと張り付いたような質感にすることも可能です。
さらに、Audio Sidechainのマッピング先をテンポやグルーヴに設定することで、グリッドに縛られない、自由なグルーヴをビートに与えることが可能です。これらはすべてのモジュレーションでも言えることで、Curvesで自分でカーブを書くなど、組み合わせは無限大です。
発想の外から生まれた“いびつ”なアプローチは、思いもしなかったフックにつながる可能性があります。皆さんもぜひ、“いびつさ”の探究をしてみてください!
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Shogo Nomura
【Profile】2021年にバンダイナムコスタジオ入社。コンポーザー、時には鍵盤奏者として、『塊魂 Rolling LIVE』『鉄拳8』『電音部』などのタイトルに参加。幅広いジャンルにおいて強い作家性を持つ。
『塊魂 Rolling LIVE』
※Apple Arcadeは、米国およびその他の国で登録されたApple Inc.の商標です。
【Recent work】
『塊魂 Rolling LIVE オリジナルサウンドトラック-ららまりだましい』
塊魂シリーズSOUND TEAM
(Bandai Namco Game Music)
©Bandai Namco Entertainment Inc.
BITWIG Bitwig Studio
LINE UP
Bitwig Studio
フル・バージョン:52,800円|エデュケーション版:35,200円|12カ月アップグレード版:22,000円
Bitwig Studio Producer:26,400円
Bitwig Studio Essentials:13,200円
Bitwig Studio 8-Track:無償、ダウンロードはこちら→https://www.bitwig.com/reg/
REQUIREMENTS
Mac:macOS 10.15以降、INTEL CPU(64ビット)またはAPPLE Silicon CPU
Windows:Windows 10(64ビット)、Windows 11、Dual-Core AMDまたはINTEL CPUもしくはより高速なCPU(SSE4.1対応)
Linux:Ubuntu 22.04以降、64ビットDual-Core CPU以上の×86 CPU(SSE4.1対応)
共通:1,280×768以上のディスプレイ、4GB以上のRAM、12GB以上のディスク容量(コンテンツをすべてインストールする場合)、インター ネット環境(付属サウンド・コンテンツのダウンロードに必要)