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【Fate】武家屋敷のEさん【アーチャー】/Novel by 戚

【Fate】武家屋敷のEさん【アーチャー】

4,350 character(s)8 mins

モチーフはまんまネットで有名な寺育ちのホニャララさんですね。
モブまみれ、人名を伏せているので厳密にこれアーチャーかと言うとうーむ……。

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 若手芸人と売出し中のアイドル、それに落ち目のタレント。よくある組み合わせだ。
 どう足掻いてもメインを張れないあぶれ者ばかりで、評判の悪い心霊スポットへ行くロケ。
 誰もがうんざりしていた。
 更に協力者として呼ばれた霊感のあるという男、どこからどう見てもヤクザかホストだった。

「……何か」

 Eというその男は、若そうに見えて総白髪で、染めているのかとスタッフは噂していた。
 焼けた肌は健康的というよりもタイ人かインド人と思うほどで、もしや日本人じゃないのかもしれないと思ったアイドルの一人が片言の英語で話しかけて流暢に日本語で返されていた。
 薄暗いというのに色つきの眼鏡をかけて色つきのシャツで包まれた胸板は厚く、幾人かのアイドル未満達は己の胸元を数回叩いてしょっぱい顔になっていた。
 若手芸人達はその筋の人間にしか見えないので、完全に腰が引けている。
 落ち目のタレント達はそれよりは多少マシと言った所か。
「協力者のEさんでーす。具合悪くなったらこの人に言うようにー」
「悪いが」
 Eは真っ暗な夜なのに色つきの眼鏡を外しもせずに、ディレクターを見下ろした。
「自助努力前提の保護という条件で私はここに居る。自ら危険に飛び込んだり、無闇に死にたいというのなら帰るぞ」
「まあまあEさん、危ない事はしませんから」
 宥めながらも、視界から外れた瞬間ディレクターはADに何やら当り散らしている。
 どうやら余程Eの事が目障りらしい。
 この廃墟を撮影するに当たり、地主から本当に危険なので目付け役を付けるよう条件を付けられて来たのがEらしい。
「君達もまずは自衛に努めてくれ。でなければ守るものも守れん」
 参加したタレント達にも、Eは淡々とそう言った。
 勿論命は惜しいが、それ以上に芸能界で生きていく為に体を張る必要があった。
 まだ芸能界にしがみついていたい。あわよくばより輝きたい。
 欲が、生命を蔑ろにする。
 撮影は順調に進んだ。
 心霊現象以外の部分、最初から仕込んであった振動装置やラップ音の再生。
 その全てでちゃんとタレント達は怖いアクションを取ってくれたし、AD達スタッフもこれでいいんじゃないかと思っていたが、どうやらディレクターだけは不満らしい。
「もっと奥行こうか」
「止めた方がいい」
 Eは眉間に皺を寄せてそうディレクターに忠告した。
 身の安全は保障できない、特に女性や体力のない人間は、と生々しい言葉も追加で。
「大丈夫だよーお化けとかありえないって」
 もし映ったとしてもそれはそれでスクープだよ、とディレクターは止まらない。
「君の責任において、全ての安全は保障できるのかね?」
 Eは少し鼻で笑ったようだった。
 ディレクターはそれで逆に火が点いたようで、むきになって撮影班に奥に進むよう檄を飛ばす。
「どうしても無理だと思ったら、私の後ろへ」
 Eが声をかけたのは、青ざめた顔の芸人だった。
「あ、はい……」
「命あっての物種だ。近くにいれば多少弱まる。君もだぞ」
 Eはノートを抱え右往左往していたADにも声をかけた。
 こちらも先程の芸人に負けず劣らず顔色が悪い。
 どうやらその様子から見るに、さっきの芸人とこのADが一番そういった感受性が高いようだった。
 撮影に入るまでは少しでも売り込もうとはしゃいでいたアイドルになりたい少女達も、今では纏まってぴったりと寄り添い黙っている。
 誰もが冷たい空気を感じていた。ただ一人、ディレクターを除いて。
「厄介なものを引き連れてきて……面倒だな」
 Eは意味深な事を一人呟いていた。
 廃墟の奥はどうやら手術室のようだった。
 真っ暗な中を数人のタレントが別れて懐中電灯で探索する、というシチュエーションをディレクターは指示した。
「一組ずつ撮影で、必ず私が同行する」
 でなければ撮影は許可できない、とEが言った。ディレクターも渋々ながら受け入れた。
 押し留めようとする全員の努力も空しく、ディレクターに引きずられるように残った全員が手術室の更に向こう、階段を下りた先にある霊安室へと進んでいく。
 先程Eに声を掛けられた芸人とADの顔色は最早紙のように真っ白で、相方や同僚達は半ば肩を貸すようにそれでも進んで行く。
「それじゃあ撮影再開ね!」
 ディレクターが意気揚々と場を仕切りカメラを回した瞬間、それは来た。
 全員の足首に何か冷たいものが絡むような感覚。
 いや、それは明らかに手だった。
 手の感触が巻き付いて、強い力で引っ張られる。立っていられない。
「ギャア!」
 誰かが倒れた。
「嫌だッなんだコレ、うわっ!」
 男の声。芸人達か。
 ガチャンガチャンと何かが壊れる音。悲鳴、ごめんなさいごめんなさいと啜り泣く声。
「嫌だああああ!」
 叫び声に顔を向けると、床に押し付けられたADの一人が、上に圧し掛かられた何かに眼球を指で抑え付けられていた。
「ヒッ、ヒ……」
 声が出ない。必死に眼球を守ろうとしているが、ADの瞼には人の物とは思えぬほど冷たい指が、ありえない力強さで食いこみ始めている。
 抑えつけている何かの顔のある辺りを思わず凝視するが、そこには顔がない。
 いや、鼻と口は見える。ただそこに、眼球がない。
 咄嗟に体が動いていた。
「どけよ!!」
 一緒に働きだしてまだ何か月も経っていないけど、必死に寝る時間もない中で頑張ってきた仲間だ。
 得体のしれない奴なんかにどうこうされて、良い筈がない。
 そう思った瞬間何かへ体当たりして、できた隙間から手を伸ばして男を助けていた。
「走るぞ!」
 手を引っ張って走り出そうとした。だがその手を逆に引っ張られて、今度は自分が引き倒される。
 若いADが後ろを振り返ると、助けた筈の仲間の背後に弾き飛ばした何かが乗っていて、こちらを見下ろしていた。
 助けた仲間の目があった場所には、昏い空洞しかなかった。
「ヒィッ!」
 後ろに後ずさろうにも、上には眼球をなくしたADが乗っていて動けない。
 そして逆側から、同じように眼球のない芸人が逆様に覗き込んできて、息が止まった。
 今度こそ、死ぬ。
「あ……」
 六本の冷たい手がゆっくりと、両目に向かって近づいてくる。ひたり、と触れ。
「破ァ!」
 突然聞こえた声と伸びてきた足が、頭上にわだかまっていた何かの頭をサッカーボールのように蹴り飛ばした。
 硬直して思わず一連の動きを凝視してしまったが、おぞましい顔のような何かも呆気にとられた様子で下から上へとフェードアウトしていった。なんだコレ。
「全員起立!」
 凄まじい怒号に、硬直した体が反射的に飛び上がっていた。
 全力で駆け足!と叫ぶ声に追い立てられるように駆けだすと、さっきまで眼球をなくしていたように見えたADと若手芸人が、首を傾げながら何事もなかったような顔で並走している。
 眼球は、ちゃんとあった。
「何故勝手に行動した」
 どうにか呼吸を整え、カメラなどの装備品が全てあるかどうかのチェックに入った頃、Eは静かに問いかけた。
 危ないと思ったから動くなと言った筈だと。
 全員慌ててディレクターの言動を伝えた。
 Eは黙って全て聞き終えると、そうか、大変だったなと労った。
 そこで全員はたと気づいたが、これだけ槍玉に挙げられてもディレクターが反論しないのはおかしいと思って辺りを見回すも、どこにもディレクターはいなかった。
 全身から血の気が引く。
 まさかまだあそこに居るのか。
 もう二度と行きたくはないが、見捨てたとわかれば大変な事になる。
「どうしよう……」
 途方に暮れた顔で全員が項垂れたのを見下ろし、Eは肩を竦めた。
「心配いらん、無事だ」
 慰めかと思いきや、Eは平然とした顔で命に別状はないから大丈夫だと繰り返した。
 命以外には別状があるのかと不安になったが、その言葉に縋るしか撮影班に道はない。
 結局今でもディレクターは見つかっていないが、もしかしたらEは行方を知っているのかもしれない。
 廃病院で顛末の全てを見たのはEだけだった。アレと何があったのか、ディレクターが出てこない間に何が起きていたのか。
 ただそれを誰も尋ねなかったのは、やはり恨んでいたからか。
 結局全員ディレクターの身を(我が身可愛さに)案じながらも、一同は帰路に就いた。
 その後映像を確認してみると、全員の足首を掴む手は映りこんでいたが、後の何かについてはまるでテープが切れたように何も映っていなかった。
 ただよく音声を聞けば、「昏い」と声が入っていたという。
「結局あれは何だったんですか?」
 危険でない範囲で編集し放送された後、確認の為にとADと若手芸人達は挙って武家屋敷へと訪問した。
 そこはEの持家であり、昔はお化け屋敷として近所でも有名だったという曰くつきの家だ。
 旨い茶菓子と茶を供されながら尋ねたが、Eは笑った。
「あそこで手術して失敗した地縛霊……ではない」
「え?」
 てっきりそんな感じのものではないかと全員思っていただけに、否定されて驚いた。
 Eはやや茶目っ気のあるような片目を瞑った表情で、軽く肩を竦めた。
「あれはそういう人の思いを憑代に増幅した怨念の集合体だ」
「そういう風なものがいるんじゃないか、と思って口に出したり噂を流せばそれだけでイメージは固定されるものだ。つまり呪だな」
「はあ」
「事実はそこにあるが、解釈する人間次第でいくらでも現実は増えていく。まあ多少危害を加える程度の怨念だったとでも覚えておきたまえ」
「そう高いものじゃない。お守りとでも思いたまえ。万能ではないから、一回か二回で壊れるかもしれんが」
 そうなったら信頼できる筋に相談なり除霊なり行けばいい、とEは言って、この事件は終わった。
 結局、ディレクターは失踪した。正確には一度帰宅して、そのまま消えたのだ。
 そういえば、とあるADは思い出す。途中でEが呟いていた言葉を。あの何かは最初からあそこに居た存在だったのか。
 もしかしたら誰かが、そう例えばディレクターが連れて来てしまった存在なのではないか。
 確かめる術は廃病院にある。だがけして、誰もそこに行くことはないだろう。



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